10-5.
「じゃあ、みなさんに今できたてのをお配りしますから、並んでください!」
私は衆人に指示をしながら、ティーナに耳打ちする。
「ティーナ、私がやった要領で、同じ量、順番に何回か作ってくれる? 多分私が作ったのだけじゃ、みんなに配れなさそうだから」
そういうと、ティーナは不安そうな顔で私に問いかける。
「私になんかできるでしょうか……」
「だから今やってみるのよ!」
私はぽんっとティーナの背を叩く。
「いざ村に帰ってみたらできませんでした、じゃ、困るでしょう? だから、ここで練習がてらおさらいをしてみて?」
それを聞いて、ティーナの目がまん丸になる。
「おさらい……」
そう呟いて、うんうん、と自分にいい聞かせるように頷く。
「やってみます!」
そのときのティーナの目は、気合いに満ちていた。
うん、これなら頑張ってくれそう。……とはいっても、初心者さんだから、ちゃんと手順どおりにできているか、みてあげるけどね!
やがて、ティーナも無事初作業を終えて、試供品を観衆に配り終える。きっと、この人たちが話題を他の人たちに伝えてくれる。そして、ティーナたちがこの化粧水とリップクリームを村の女性たちの間に作り方を広めてくれるだろう。
「上手にやったわね、アンネリーゼ」
こっそりとお母さまが私に耳打ちする。
「私が選んだユリアーナさまね、社交界じゃ、美容やファッションの話題についての第一人者なの。彼女、あなたのお化粧品、とっても気に入っていたわ。きっとお友達のご婦人方に噂を広めてくれるわね」
そういって、お母さまはウィンクした。
──そうか、だからユリアーナさまにお願いして下さったんだ。
さすがはしっかり者のお母さまだ、と感心するのだった。
やがて、少し練習に時間はかかったけれど、ティーナたちの村での生産はだんだん軌道にのり、商売にできるところまでやってきた。
お母さまのいったとおり、エッドガルド商会で取り扱うようになってからは、貴族や裕福な奥様方に飛ぶように売れた。
「あとね、価格帯をふたつもうけようと思うのよ」
私の提案で、薬草として使うハーブの価格を変えることで、一般の人でもせめて化粧水とハンドクリームは手に取りやすいようにしたのだ。
「ハーブっていっても、中には雑草のようにたくさん生えるものってあるじゃない? その中でお肌に効果があるものを使えば、安い化粧水とオイルが取れると思うのよね」
すると、それは庶民の女性に大ヒット。それだけではなく、顔だけでなく、手荒れや全身のかさつきにも惜しみなく使えると評判になり、たっぷりと使いたい奥様方が大量購入していくようになった。
「アンネリーゼさま、うちだけじゃ生産がもちません!」
そんな悲鳴がティーナたちの村から手紙で舞い込んできた。
「エッドガルドさん、こういう状況なんですけど、どこか他の村に応援をお願いできませんかね?」
私は家にエッドガルドさんにきてもらって、ティーナからの手紙を見せた。
「そうだな。特に一般用の価格が安く量がいる化粧水のほうなら、どこでも材料を手に入れやすいでしょう。そちらをティーナの村以外の候補地に回しましょう。もうすぐ冬です。冬になれば、農作業も終わりです。やることも収入もなく困っている村はいくらでもあります。大丈夫、必ず見つけて参ります」
こうして、約束どおりエッドガルドさんは量産を請け負ってくれる村をいくつか見つけてきてくれた。これで、無事、顧客のニーズにも十分応えることができるようになったのだ。