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9-2.

 数時間後、謁見室にて。

「バーデン家のタウンハウス内は、当然もぬけの殻だったか」

 騎士のひとりからその報告を受けた女王アレクサンドラのこめかみに青筋が立つ。赤く塗られた艶のある唇を、ギリ、と噛む。

「で、その出国の許可を出したのは誰か?」

「調査でははっきりとは……。城門の警備担当のものたちを洗いましたが、これといって誰がとはわかりませんでした」

「全く使えんやつばかりだな……」

 イライラと愚痴をこぼす女王アレクサンドラ。

 実際のところはうっかり出国させてしまった警備兵は判明しているのだが、「赤の女王」にしれたら……と思った騎士は、彼らを庇い、名を伏せたのだが。

「カイン。何か申すことはないか」

「……実は、アンネリーゼからは、彼女に送ったものが全て返却されており……。婚約解消したものだから当然と、そのまま受け取ってしまいました……」

「馬鹿か! その時点でおかしいと気付くのが普通じゃろう!」

「ひいっ!」

 女王アレクサンドラの一喝が、カインを(おのの)かせた。

 おかしいもなにも、自ら贈ったものを返却し、身を退けてくれるなど、これ幸いと思っていたのだから、愚にも付かない。

「もうそのあとすぐには、一家は王都を出たものと思われます、また、一家に加え、一部の使用人たちも連れだって出国した模様です」

「それで、現在の居所は?」

「それは目下捜索中にございます」

「遅いっ! それを報告せよともうしたであろう!」

「はっ、申し訳ありません!」

 報告に上がった騎士はただただ平伏して謝罪の言葉を口にした。今にも炎上しようとしている女王の怒りに、燃料を投下してはならないからだ。

「アレクサンドラや。それぐらいにしておやり。失態を犯したのは我が子ひとり……ではなかったか……」

 そういって王配エドワルドは、王太子カインとサラサとともに並ばされている、婚約破棄劇に加担した子息や教師たちをチラリと横目で見やった。

「「「「ひっ」」」」

 女王アレクサンドラを血や炎を連想するとしたら、王配エドワルドは氷、といったところだろうか。

 そんなとき、思いついたように女王アレクサンドラが赤い唇を開いた。

「のう、カイン?」

「はっ、はい。母上」

「そなたと、そこの娘は、『真実の愛』とやらで結ばれていると、そういっておったな?」

「はっ、はい……」

「では聞くが……」

 そういうと、側に寄り添っていた王配エドワルドの腕に自らの両腕を絡めた。

「わたくしとエドワルドは政略結婚で結ばれたのじゃがな? お前を含め、王子三人と王女ひとりに恵まれておる。エドワルドは常にわたくしに寄り添い、公私にわたってわたくしを支えてくれておる。……じゃがお前はこれを、『真実の愛』ではないともうすのだな?」

 ニィッと赤い唇を大きく笑みの形に描く。だが、瞳は全く笑っていなかった。

「めっ、滅相もありません。父上と母上は真実、愛で結ばれております。『真実の愛』と申しあげたのは、ちまたで尊いとされている、愛したもの同士が結ばれる結婚のことをさしているだけで、なにも父上母上の仲を否定するものでは……」

 だが、若者に流行している「真実の愛」は明確に政略結婚を批判するものである。王太子カインはそれ以上のよりよいいい訳を見いだすことはできなかった。

「アレクサンドラ。虐めるのはおやめ」

 王配エドワルドは、自らの腕に絡められた女王アレクサンドラの片方の手の甲に、ゆっくりと口づけをする。

「エドワルド……」

 その口づけで、攻撃的だったアレクサンドラの態度が軟化する。

「一度この場は散会して、我々で情報を整理しないかい?」

「エドワルドがそういうなら……」

 その言葉で、その場に控えているもの全てが安堵のため息をついた。

「一度この場は終わりとする! 再びの招集に、各自備えておくように!」

「「「はっ!」」」

 女王アレクサンドラが厳しい声で指示し、各々一礼をしてから散り散りに散会した。

 婚約破棄劇を起こした当事者たちは青い顔をする。今後の算段を立てようにも、女王が帰還した今、逃げ場などないに等しかった。


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