8-3.
兄は、頼んだとおり、デラスランド公国公主アルベルトに、王弟マルクのみ遊学目的で残りたいという旨を願い出てくれた。
軍事大国ハイデンベルグの国王直々に頼まれたとあれば、無下に断ることもできず、公主アルベルトは、ハイデンベルグ国王の申し出を受け入れてくれたそうだ。
今まで借り受けていた客室もそのまま利用させてもらえるらしい。
「……まずは首尾は上々、といったところですかね」
机の上に置かれた紙を、人差し指でコツン、と叩く。
「アンネリーゼ・バーデン」
ただのお人好しか。
商魂たくましい令嬢か。
……慈愛と、才知を併せ持つ美しい花か。
もし、彼女を妻として手に入れた場合。
彼女の知的財産が生む金を手に入れることができる、が、きっと彼女は今のところ聞いた話だと、なんだかんだと寄付してしまいそうだ。
それを想像したら、自分でも意外だが、微笑んでしまった。
それと血筋。
父親はそこそこの貴族の出だが、着目すべきは母親。彼女は大国バウムガルデンのアレクサンドラ女王の従姉妹なのだ。そのため、若干弱いもののバウムガルデンと血縁を結ぶことができる。まあ、今は敵対するバウムガルデンだが、血縁ができたらどうなるか……。
「……バーデンの青い宝石、ね。しばらく、彼女の様子を探らせてもらいましょうか」
魅力的な獲物を見つけたような愉快そうな様子で、満足げな笑みを浮かべる。
「ああそうだ。今度のお相手は女性。ということは、ご挨拶がてら、なにか贈り物を吟味した方が良いですかね」
久々に楽しそうに王弟マルクは御用商人を呼ぶように、従者に言付けるのだった。




