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7-5.

 扉の閉まる音を確認してから、アルベルトは深くため息をつく。

「タチが、悪い」

 ──たとえ話のようにいったが、自分は本当に彼女を捕まえてしまいたかったのではないか?

 もともとアンネリーゼは、実はアルベルトにとって初恋の少女だった。

 初めて大国バウムガルデンで出会ったときの、容姿の愛らしさ、幼くしてマナーも他国語も操れるという才女ぶり。

 当時、将来公爵家を継いで公主となることが決まっていたアルベルトは、「彼女だ!」と確信したのだ。

 だが、女王アレクサンドラの手によってその希望は潰されたのだが。

 しかし、小鳥(アンネリーゼ)は女王の鳥籠から飛び出し、自分の手の内に飛び込んできた。

 その小鳥は、想像していたよりも愛らしく、そしてより聡明に成長していた。さらに、婚約破棄を受けて国を捨てたという話だったが、その悲壮感も感じさせない。

 明るく機知に富み、そしてなにより、類を見ないほどの発想力。

「……私のものに、したい」

 アルベルトは無意識に呟いた。

 そして、そのことにあとから驚いて、口もとを手で覆う。

 ──私は今、なにをいった?

 アルベルトは困惑する。

 確かに、アンネリーゼはアルベルトにとっては初恋の少女だ。だが、そんなもの誰もが経験すること。再びあったからといって、自分は単純に恋に落ちたりしない。

 けれど、そういうものとは違うと思い直す。

「……今のアンネリーゼに、恋をしている? いや、あらためて恋をした?」

 そう。初対面のことが影響ないとはいい切れないものの、アルベルトは、舞い戻ってきたアンネリーゼ自身の有り(よう)全てに感嘆し、そしてあらためて恋に落ちたのだとようやく自覚した。

 アルベルトはきびすを返して明るく日が差す窓に向かう。

 そこには一本の植木があって、つがいの小鳥たちが春を謳歌する歌を歌っていた。

「おいで、私の小鳥(アンネリーゼ)。今度こそ、君を私のものにしてみせる」

 ──あのように、なれたら。

 アルベルトは、仲睦まじいつがいの小鳥たちのようすに、目を細める。

 再び芽生えた恋心をそっと大切に包み込むかのように、アルベルトは両腕で自らの身体を抱きしめ、瞼を閉じ、愛しい女性のことを思い出すのだった。


 ◆


「全く、肝が冷えたぞ、アンネリーゼ」

 お父さまが私を窘める。

「済みません、お父さま」

 私は真摯にお父さまに謝った。

「だが……」

 そのままお叱りの言葉が続くのかと思ったら、お父さまの様子から見てそうではないらしい。

「どうかなさったのですか?」

「いやな、珍しいな、と思って」

 私の問いにお父さまが答える。

「珍しいというのは私のはしゃぎようですか?」

 そう問いかけると、それはない、といった様子で笑って手を振って否定した。

「お前は昔から型にはまらないおてんばじゃないか。まあそれこそ、王宮で王太子の婚約者として王宮に招聘(しょうへい)されてからは、それらしく演じていたようだが?」

 横目でチラリと目線を送ってきて、お父さまが私に笑いかける。

「だって、あの『赤の女王』の御前で、じゃじゃ馬なんかできるものですか」

 私はあえて大げさに恐ろしさに震えるそぶりをして見せた。

「あっはは。まあ、それはそうだ。っと……」

 お父さまがなにかに気付いたようで、私を廊下の端に下がらせる。そして、お父さまは私の隣に並んだ。そして、お父さまは私たちとは反対側から来た方々に向けて頭を下げた。私は咄嗟にそれに倣ってお父さまと並んで頭を下げた。


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