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1-1.青天の霹靂

 それは十八歳の貴族学園卒業パーティーでのことだった。

「アンネリーゼ・バーデン伯爵令嬢! 私はこのサラサ・カガミとの『真実の愛』を知った。その上、彼女は私の子を身ごもっている。わかるか? この国の跡取りがいるということだよ! だから、妻には彼女を迎える。よって、私はお前との婚約を破棄することをここに宣言する!」

「は……? 真実の、愛? 子供?」

 私を名指しする彼は、この国の王太子カイン・バウムガルデン殿下。彼のいう、アンネリーゼ・バーデンとは私のことだ。

 十八歳という歳で、結婚の儀も間近に控えていたはず。けれど、突然婚約破棄とはどういうことだろう。

 私は突然降ってわいた宣告に呆然とした。

「アンネリーゼ。お前は、私の側にいるサラサに嫉妬して、彼女にきつく叱責したり、彼女の制服を破ったり、挙げ句の果てには彼女のことを階段の上から突き落としただろう!」

 その彼が私を指さして威丈高に叫ぶ。彼の声は、しんと静まりかえったきらびやかなホールに響き渡った。

 そして、彼とサラサを援護するように、騎士団長の子息や、学園で教鞭を執っていた教師、神官長の子息、確かサラサの身元引受人になった貴族の家の子息といった、学園内では有名なメンバーが、王太子殿下とサラサの周りを囲んでいた。

 きっと、彼らは王太子殿下とサラサとの恋路を支持するといった意思表明なのだろう。

 確かに私は、彼女に「婚約者が既にいらっしゃる殿方になれなれしくしてはなりませんよ」と諭したこともある。サラサが、既に婚約者のいる騎士団長の子息や、神官長の子息、学園の担任をしていた教師や、サラサの身元引受人の兄君にと、次々と秋波を送っていたからだ。

 ただ、「まだこの世界にきて日が浅いから、そういった常識を知らないのだろう」と考慮して、やんわり諭しただけのはずだった。

 さらにいわせてもらえば、制服を破ったのは私ではない。私以外の、自分の婚約者に色目を使われた他の女性たちであった。私は、彼女たちにその話を聞いて、彼女たちの愚痴に頷きつつ、やりすぎは良くないと諭し、サラサに対しては、彼女が困らないように新しい制服を贈ったはずだ。

 階段から突き落としたというのも身に覚えはない。強いていえば、ちょうど学園の階段の上ですれ違ったときに、勝手に彼女が階段から落ちたのだった。

 だから、私はぽかんとする。

 ──ええと? 身に覚えがないんですけど。

 それに私たち、女王陛下直々にお決めになられた婚約者同士でしたよね?

 王太子殿下は、先ほどいったとおり私の婚約者でもある男性である。彼が指をさして名指ししている令嬢、彼の婚約者であるはずの私。そして、その婚約をお決めになったのはこの国のトップのアレクサンドラ・バウムガルデン女王陛下、彼のお母さまである。

 絶対君主制のこの国の頂点に立つ人。女性ながらも身内の血の粛清を厭わずにその玉座を手にした人で、彼女に逆らえる人は片手の指が余るほどしかいない。強いていえば、彼女の夫である王配、エドワルド王配殿下ぐらいだろうか。

 ……って、話がそれたので戻しましょう。

 そう、「真実の愛」とやらの話である。

 そりゃあ空前のブームであるので、私ですら「真実の愛」については知っている。それがどんなに貴族社会に混乱をもたらしているかも。だがしかしそれは、まだ、庶民や貴族の間だけに流行るものだった。

 婚約者のいる貴族男性が、平民である商家の生まれの女性と恋に落ち、身分を捨てて駆け落ちしてしまったり。

 婚約者のいる貴族男性が、本来の婚約者である姉にではなく、妹と恋に落ち、家内でなんとか収拾をつけたりとか。

 そんな騒ぎをよく聞くようになってきた。

 やがてそれは、高位貴族でもちらほらと耳にするようになってきていて、私の友人の貴族令嬢が婚約破棄されて泣くのを宥めたことも一度や二度ではない。

 女性の方が家格が上で、断固として婚約破棄を受け入れなかったとしても、それはそれで結婚後に愛情のない寒い結婚生活が待っているのだった。その上、「真実の愛」で結ばれた女性との愛人関係に目をつむるという、酷い例もあるのだった。

 けれども、さすがに王族の結婚や婚約に「真実の愛」などというものは、側室や妾などを持つことを除けば、前例はない。少なくともこの国、バウムガルデン王国では聞いたことがなかった。

 王族にとっての結婚とは、家と家、血と血、ときには国と国とを結びつける。国の行く末を決めるためのものだから、「真実の愛」ブームとは無縁のはずだ……った。

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