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5-3.

 その数日後。

「アンヌ。相談を持ちかけられたんだが」

 お父さまが私の部屋にやってきた。ようやく双子のための絵本の第二弾が出来上がった頃だ。

「はい、なんでしょう?」

 マリアに「お茶の用意をお願い」と耳打ちしてから、お父さまに私の部屋のソファを勧める。

 互いに向かい合う形で腰を下ろすと、お父さまがおもむろに口を開いた。

「絵本とやらのことなんだよ」

 ああ、あの双子たちにあげたものかと思いつく。

「ちょっと待っていてください」

 私は自分の部屋にいって、部屋にあった新作の二冊を手に取って戻ってくる。

 そして、「これですね」とお父さまに渡す。

「ああ、そうそう。こんなのだと聞いている。これのことについて、エルマーとアルマの家庭教師の先生に相談を受けたんだよ」

 ──ん? なにかまずかったかしら?

 教育上良くない話だったとか?

 でもなぁ、前の世界では幼児教育に欠かせない、名作として扱われていたお話だったはず。そんなに問題はないと思うんだけど……と私が戸惑っていると、お父さまが再び口を開けた。

「家庭教師の先生が、この本を非常に褒めていてね。我が家だけに留めずに、余所の子供の手にも届けたいとおっしゃっていてね。家庭教師の先生が引き受けている、他のお宅でも使いたいとおっしゃっていてね」

 ──え? 余所の子の分!?

 エルマーとアルマのためになら頑張って書けるけれど、よその子の分まで量産なんて手に余るんですけど!?

 私は困惑した。

 いくら暇とはいえ、絵本作家を生業とするつもりはなかったからだ。

 私は、エルマーとアルマに挟まれて、あのふくふくぷにぷにしたおててで、読了後に拍手をしてもらえれば十分。彼らに楽しんでもらえば満足だった。

 そういったものが顔に出ていたのだろうか。すぐにお父さまからいい直しが入る。

「ああ、別にアンヌに作って欲しいといっているわけじゃないんだよ。これをね、特許と著作権を申請して、他の誰でもが作って売れるようにしないか、っていう話なんだ」

「特許。著作権」

 そんなものがこの世界にはもうあるのか、と半ば驚き、それが口に出た。

「それはどのように取ったらいいのですか?」

 私はそういったことにはまるで知恵がない。ただし、前の世界での知識でぼんやりとした概要は把握しているのだが、それとは同じようなものなのだろうか。

「まずは、商人ギルドに自分の名前で登録すること」

「商人ギルド」

 聞いたことはあったが、関わったことはなかったので、私は思わず復唱してしまう。

「そう、商人ギルド」

「まあ、商業を生業とする人の集まりのようなものかな。そこが、これから説明する著作権や特許についても管理しているから、必須かな」

「そうなんですね……」

 私が商人ギルド員になることは、半ば決定事項のようだ。

「それから、著作権とは、作品を創作した人が持つ権利だ。例えば今回の絵本ならば、アンヌが生み出した話について、アンヌがどう使われるか決められる権利のことかな。もちろん、他の誰かがアンヌの生み出したものを利用する場合には君にお金が入る仕組みになっている」

 それならば、おぼろげに前世で知っていた著作権と似たようなものだろう。私はそう理解した。

「それから、特許については、この絵本、というものについて登録する」

「はい」

「特許とは、一定の技術を持った技術や発明を、発明者が独占で利用できるよう定めることだ。そして、技術を有料で他者に公開することで、発明者は対価としてお金を得ることができる。ちなみに、誰でも無料で使えるように定めることも可能だけれどね」

「……お金、ですか」

 そこまで説明を受けて、私は頭を捻る。

 うーん、どうしようか。

 絵本っていっても、これって、前世の記憶で複製したようなものよね。しかも、お話も前世にあったものがベース。私が考え出したものじゃない。

 なのにお金にこだわるのって、なんだか汚らしい感じもするのよね……。

「お金にはこだわりませ……」

 そういいかけたとき、お父さまが咄嗟に手を伸ばして、私の口もとを塞ぐ仕草をした。

「君にはしたいことがあるんじゃないのかい? この国に入ってきてみて、見たこと……」

「したいこと……見たこと……。あっ!」

 教会の炊き出しの光景を思い出した。

「私がもし絵本を商売にして、継続的にお金を稼ぐことができたら、教会に持続的に寄付することも可能ですか?」

 私は身を乗り出して尋ねた。

「正解。まぁ、君は絵師でもなんでもないんだから、どこかの信用できる商会にでも絵本作成は任せて、権利金だけ受け取れば良いんじゃないかな」

「そんなことも可能なんですね」

「君の発明がもとで子供たちの教育が進むのは素晴らしいし、それから生まれたお金で、貧しい人々に継続的に手助けをするのは尊い行為だと思うよ? どうかな?」

 私は、お父さまの提案に、即頷いた。

 ──私は商人ギルドに籍を置く、事業者になることにほぼ決定してしまった。

 せめて、これでエルマーやアルマにタダ飯ぐらいのとして居候として迷惑をかけることは無くなったかな?

 そう、少しだけ安心したのだった。


「白き妃は隣国の竜帝に奪われ王子とともに溺愛される」短編をUPしています。

2万字ほどの短編ですので、ぜひ、お気軽にお読みに来てください!

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