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5-2.

「おねえたま、はやく、よんで!」

「よんで!」

 くいくい、と服の裾を引っ張られて、毛足の長いふかふかの絨毯の上にふたりと同じく座り込む。場所はエルマーとアルマに挟まれたちょうど真ん中。行儀は悪いかもしれないが、幼い子供たちには、絨毯の上に座り込むことを許されているのだ。

「じゃあ、まずはエルマー向きのお話にしましょう」

 結局、桃から生まれた子供が成長して、鬼退治に行く話が、こちらの世界にあわせてデフォルメしたら、祖国を奪われた幼い王子さまが、心優しい老いた夫婦に助けられ、成長して、祖国を取り返す、という話になっていた。

「わぁ、かっこいい! すごい!」「しゅごい!」

 剣を手に戦う絵がついたシーンでは、ふたりとも大興奮して私の腕にしがみついてきた。

「そうね、凄いわね」

 興奮するふたりに合わせながらも、ちゃんと読んでいる場所を指さすのを忘れない。

 そうしてひととおり読み終える頃、お母さまも興味を持ったのか、側へやってきた。

「はい、おしまい」

 私がパタンと絵本を閉じる。弟妹たちが、ぱちぱちと小さな手で拍手をする。

 ──うーん、可愛いなぁ。

 実をいえば、双子たちとゆっくりこんな時間を過ごせたのは初めてだ。双子たちは、私が十歳の頃に私が王太子の婚約者として召し上げられてから生まれたので、ゆっくりとともに過ごす時間などなかったのだ。

 ──ああ、可愛い。天使!

 小さくてぷっくりしたおててで、両側から揃ってぱちぱちしてくれるの、最高!

 婚約破棄されなければ、一生この幸せを味わえなかったのだから、あれも不幸中の幸い……、って、あんな酷い過去はこの幸せなときに思い出すものじゃないわね。

 私は気を取り直して、二冊目の本を読もうとしだす。

 すると、側に来ていたお母さまが興味深そうにかがんできていた。

「お母さまもご一緒されますか?」

 誘ってみれば、嬉しそうにバラが咲きほころぶように微笑んだ。

「あら嬉しい。なんだか三人でとても楽しそうにしているのだもの。気になって仕方がなかったのよ」

 そういうと、お母さまはエルマーの側に一緒になって絨毯の上に座り込んだ。

「じゃあ、(すす)被りの令嬢のお話です」

 私はタイトルを読みあげる。どこの誰に窘められる訳でもないだろうが、確か「灰被り」だったそのまんまのタイトルにするのもなんだし……とためらいがあったので、ちょっと濁したタイトルにする。

 読み始めると、継母や連れ子の姉たちに虐げられるヒロインに同情してか、女の子のアルマは瞳をうるうるとさせる。やがて、置いていかれた靴を手に王子がヒロインを見つけ出すシーンでは、瞳を輝かせた。

 お母さまも、ハラハラとしながら物語の結末を追っていたようで、最後にはほっと一安心、笑顔になっていた。

「ちょっと貸してくれる?」

「はい」

 感心した様子のお母さまに二冊の絵本を手渡した。

「へえ。自分で絵と物語りを書いた紙を、糸で綴じ合わせたのかしら」

 お母さまは、構造をすぐに理解したようだ。

「はい、そうです。子供向けの本ってないですから、自分で作ってみました」

「エルマーとアルマは興味津々ね。ねえ、アンヌ。これ、他のお話もあったりするのかしら?」

「はい、お母さま。まだ書きかけですが、エルマーとアルマのそれぞれ二人分が一冊ずつ作りかけです」

 そう、次に書き始めている話があった。

 エルマーには、魔法のランプを手に入れた青年のお話。アルマには、茨のお城で眠りについたお姫さまの話を書いている途中だ。

「もし良かったら、あなたの手が空いているときでいいから、これを作って欲しいわ。この子たちも、随分と興味津々なようだから……」

 そう頼まれている合間にも、小さな手が伸びてくる。

「じぶんで、よむのぉ!」

「おかあさま、おうじさまと、おひめさまの、かえして~」

 懇願する双子たちの手だ。

「二人に、渡してあげてください、お母さま」

「ええ」とひとつ頷いてからお母さまが弟妹に絵本を手渡した。

「お姉さまがあなたたちのために、作ってくれたものよ? 大切にしてね?」

 手渡すときに、そう念を押すのを忘れない。

「「はぁい!」」

 お母さまの言葉に、弟妹たちの声が重なる。

 ふたりとも、とっても気に入ってくれたようで、アルマはしっかりと抱きかかえており、エルマーは自ら開いて、読み出そうとしていた。

「あれぇ? このもじ、わからない……」

「うーん、アルマも……」

 結局、まだまだ文字を覚えかけのふたりには難しいようで、早々に躓いている。その結果、その日は一日私がふたりに付き合うことになったのだった。


「白き妃は隣国の竜帝に奪われ王子とともに溺愛される」短編をUPしています。

2万字ほどの短編ですので、ぜひ、お気軽にお読みに来てください!

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