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4-1.一家で大移動!

 引っ越しの当日がくるまではあっという間だった。

 アレクサンドラ女王陛下にバレないように、期限は十日だったこともあって、移動日を含めたその十日間は嵐のような日々だった。

「荷物にならない小物の貴重品と生活用品だけとはいえ、なんとか荷物もまとまってよかったわ~」

 移動中の馬車の中で、お母さまが安堵の声を漏らす。家族全員一緒に乗れるようにと、大型の馬車を手配していた。

 続く馬車にも、私たちについてきてくれるといってくれた使用人たちが乗っている。

 王国を出るのは容易かった。


 女王陛下のお帰りに王都がわき、お祭り騒ぎ。人の往来や商人の大型の商隊も多く、私たちはそれに紛れて国を出ることができた。


 ──むしろ警備厳しくしなきゃいけないんじゃないの?

 

 生まれ育った国ながら、私がそう思ったくらいだ。


 そうして、王都を出て、何日か掛けてようやく国外に出て、デラスランド公国に入ろうとしていた。

 弟妹は、最初こそ窓から見える景色にキャッキャとはしゃいでいたが、長旅に飽きたのか、お母さまとお父さまの膝の上を枕にしてすやすやと眠ってしまっている。

「役職貴族で、住まいがタウンハウスのみとはいえ、重要な役職である宰相をしていたお父さまですもの。贈り物やらなにやらで、高価なものもそれなりにたまっていましたものね」

 あまり、賄賂に近しいものを好まないお父さまではあったが、それでも社交の結果、それなりに贈り物を送られることは多々あった。

 それにしても大がかりな引っ越しだけに、警備の兵士に見とがめられないかとも思ったけれど、「娘の婚約破棄の結果、王太子殿下から一家で国外追放を命じられてね」などとお父さまが答えれば、易々と王都の門をくぐらせてくれた。王太子殿下の婚約破棄劇だ。その噂があっという間に王都内に広がったとはいえ、警備もゆるゆるとは、いまさらだが頭の痛い国である。

 私はともかく、国の宰相が国外追放になるなど、おかしいとは思わないのだろうか。

 ──うん、思わないんだろうなぁ。

 女王陛下がいらっしゃらないだけで、これだけ物事がおろそかになるなんて、先が思いやられる国だと、私は心の中でため息をついた。

「それにしても、よく十日で新しい家まで見つけられましたね、お父さま」

 私は未来へと思考を切り替えて、お父さまに話を振った。

「うん、大学の頃に面倒を見ていた男がいてね。彼が今向かっているデラスランド公国の将軍をしているんだ。それで、彼がそこの公主さまに、私の受け入れを打診してくれたんだよ。公主さまは快く受け入れてくださってね。我々を受け入れるのに、家やら仕事やらを早々に手配して下さったんだ」

 私はそれを聞いて目をぱちくりとさせる。

 お父さまがこの大陸随一の学校、デラスランド公立大学出身なのは聞いていた。だから、そこを首席で卒業したお父さまが、今まさに去ろうとしているバウムガルデン王国の役人として抜擢され、さらに宰相にまで上り詰めたことも。

 そう考えれば、デラスランド公立大学での知己を頼るということは、ひとかどの人物ばかりだということに、いまさらながらに気付かされた。お父さまが、他国の将軍と友人だったとしても、なんら不思議なことではないのだ。

「他国の将軍閣下がお友達って、お父さまって凄いんですね」

 私は素直に感嘆する。

 すると、お父さまは不思議そうに首を傾げて私を見る。

「そういうアンヌだって、女王陛下から、『バーデン家の青き宝石』なんて呼称を賜るほどなのに?」

「それは、お父さまとお母さまの血を受け継いだおかげでは?」

 宰相に上り詰めたお父さまに注目が行きがちだが、お母さまも、婚前は公女という身分の高さだけではなく、その美しさと才女ぶりを褒めたたえられてきた人だった。

 そんなふたりの間に生まれてきた私なら、才気煥発であってもなんら不思議はない……とごまかしたのだけれど。

 ──実はそれだけではなかった。

 私には、もう一つの人生を送った記憶がある。前世の記憶とでもいうのだろうか。だが、不思議なことにその記憶に残る世界は、今生きる世界とはまるで違った。

 馬が引かなくてもいい鉄の馬車が道を走り、空を鉄の乗り物が飛ぶ。女性たちは身分を問わずに美しく装い、男性のエスコートなしに自由にあちこちに出かけていく。身分を問わないといえば、子供たちは幼い頃から子供向けの本を読み、やがて平等に学舎に通っていく……。

 その記憶を思い出したのは、五歳の頃に高熱を出したときのことだった。

 すると、私にも違う世界で学んだ知識がすべてよみがえった。

 その結果、算術の教師は「お嬢さまはすべてを理解されている。私にはなにも教えることはない」と職を辞した。なにせ、前の世界と同じ十進数で計算すれば良かったので、ほとんど学ぶことがなかったのだ。しかも、なぜか前の世界と同じ0、1、2……っていうあれ、アラビア文字で構成されているときている。偶然にしては出来すぎである。

 ちなみに語学は、バウムガルテン語が、使う言葉が違うだけで、英語と同じ構文で構成されていることをすぐに理解した。周辺の諸外国の言葉も、構文は同じで単語が違うだけだったので、置き換えるべき言葉を覚えるだけで済む。だから、語学の家庭教師も、教えることを教えると、通常よりも早くに終えてしまった。私が学ぶ必要があったのは、単語と、発音の部分だけだったからだ。そうして暇になった私はこっそりお父さまの部屋にある本を抜き取り、他国語を学びはじめた。私は教師に、他国語も話したいとねだった。教育熱心な教師は、諸手を挙げて私の外国語教育に取り組んだ。

 子供の頭に大人の思考が混ざったことで、なにを学ぶにしても易々とやってのけた。多分、前世の私という人も、それなりに頭の良い人、要領の良い人物だったのかもしれない。


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