09 爆発しろ
いつも逃げてしまう。もっとちゃんと話をして、好きだって伝えたいのに。
お菓子も差し入れしたし、手伝いも申し出た。おばさんたちにも笑顔で挨拶している。これ以上、何をすれば好意的に思ってもらえるだろう。
私の特技はイフリーのように技術で助けられるようなものはない。そもそもミシカかガラス工房は家族経営なので、外からは手伝うことが難しい。だからこそ身内になりたいのだけれども、そうすると心が爆発しちゃいそう。
「はあ……」
お花をあげてもいいけれど、火を使う場所に花は可哀想だ。お菓子もだんだんネタがなくなってくる。けれどご飯を作っていくのは、おばさんたちもいるのに失礼だ。
「どうしようかな」
通りかかった公園で、腕組みをして、うなる。
見上げればちょうど水竜様と目が合った。不思議そうに首を傾げ、羽根を少しはばたかせる。
「ね、ね、水竜様」
少し声を落として呼びかける。聞く態勢を整えてくれた水竜様はクアッ、と応じてくれる。
「炎竜様とイフリーのお話とかする? もうこれ以上ネタがないの。どうやって話かけたらいいかなあ」
けれど問いかけに水竜様は急にやる気をなくしたように、力を抜いた。
「え、どういうこと?」
焦って大きな声が出てしまった。水竜様はしかしまだ、ダラッとしている。そしてクアクア何か言いたげに鳴いた。普段そんなに鳴かないのに、なんで今日はそんなに鳴いたの。
「え、え~、全然わかんないんだけどぉ~」
「……シルル」
「わあ!」
慌てていると、背後からイフリーの声がした。振り返れば、やはりイフリーだ。何故か顔を手で覆っている。
「イ、イフリー!」
心なしか顔が赤いような気がする。もしかして熱があるんだろうか。
「もしかして体調悪いの? 顔赤いけど大丈夫?」
近寄って手を顔の前で振ると、その手をぎゅっと握られた。
「……あのね、何もなくてもうちには来ていいから。いつもいつでもシルルは歓迎するから」
「え? 体調は?」
「問題ない」
握られた手はイフリーの口元へ持って行かれる。触れる唇のやわらかさ。熟れた果実のような色をして、彼はささやく。
「俺もシルルが好きだから」
瞬間的に沸騰する熱を感じる。
その日、家まで送ってくれたイフリーと何を話したか記憶がない。