11 鱗の感触
工房作業はやりたくてもできない。いや、やろうと思えば出来る。でもそれを選ばなかったのはアーカ自身だ。
ミシカカガラス工房は初代ミシカカが開いた由緒ある工房だ。先代の父が急死したことで弟を当代に据え、家族一丸となってなんとか頑張ってきた。アーカも家を出たものの手伝いに家と実家を行き来していた。だがそれも必要がなくなりそうだった。
いずれ必要とされなくなるだろう、そう思うとさみしくなる。アーカの視線の先にはイフリーとシルルの初々しい姿がある。先だって漸く想いを通じ合うことが出来た二人だ。アーカにも旦那と甘酸っぱい時期を過ごした覚えがある。今だってまだ新婚といってもいい。子はまだだが、二人で未来のもしもを話すのが楽しい。年齢のこともあるので早く子どもは欲しいが、授かり物は神のみぞ知るものだ。
弟の邪魔はすまい、と思いながらも実家にはやはり寄りたくなる。おいしいお菓子を手に入れたのでお裾分けがてらに様子見に行く。
母に二人のことをそっと伺うと、順調だと返ってくる。二人でにんまり笑う。
軽く挨拶して、そそくさと帰ろう。ついでに、といっては悪いが炎竜様にも手を振る。アーカを一瞥した炎竜様はいつもと違い、珍しく傍に駆け寄ってきた。
「なぁに~? いつもは頷いて終わりじゃない。……また来るわ。実家だもの、あの子たちをよろしくね」
つるつるとした鱗を撫でると気持ちよさそうに目を細める。偉大な炎竜様だけど、アーカにとっては家族の一員なのだ。




