10 キックの疑問
「おじいちゃん、うちっていつからあるの?」
風の灯り亭はミドラ区では古い建物だ。キックはまだ五歳だが、宿の仕事も手伝っている。お客さんにもえらいね、と褒められることが多い。そしてお年寄りのお客さんには昔からここに泊まっているのよ、と言われることがある。昔からっていつからだろう。十年前か、二十年前か、それとももっと前なのか、キックは知らなかった。
キックの祖父であるシュリーは風の灯り亭の店主をしている。まだ現役を退くつもりはない。
「この宿か? うーん、いつから……俺が聞いた話だと三百年は経ってたはずだな」
「そんなに! 風竜様も最初から一緒だったの?」
すごいすごいと手をたたくキックにシュリーは唸る。
「それがなあ、最初はいなかったらしい」
「えー?!」
「んー、ちょっと後で落ち着いてお話しようか」
今はまだ昼前の掃除の途中である。遅く起きたお客様もいるので、忙しいのだ。キックにわかったー、と言われながらシュリーは昔聞いた話を思い出していた。
シュリーが両親から聞いた風竜様たちのお話は、ランランカの街がもっと小さな街だったときに遡る。大嵐の時に見廻りに出たご先祖様が親からはぐれたミニドラゴンを見つけたのだ。
風竜様だけでなく、水竜様と炎竜様もいて、一緒に草むらで泣いていたところを保護して連れ帰ったのが始まりだったという。風の灯り亭とその当時の村長とガラス工房のそれぞれで育てることになり、今に至る。最初は人になれなかったが、そのうちに宿の名物になり、外から来た者に物珍しがられ話題になった。
シュリーがキックにそんな面白い話でもなかっただろう、と残念そうに伝える。だがキックはにっこり笑った。
「ううん。だって風竜様が居てくれてうれしいもん!」
キックが本当に嬉しそうにしている。
「風竜様のこと、大好きだもん」
「……そうだな。じいちゃんも大好きだよ」
孫の言葉にシュリーは彼の頭をやさしく撫でた。




