八方塞がり
「鶴田さん、今日の昼食は何ですか?
あっ、その黄緑の包み紙はまさか…」
「おうとも。
これはここら辺に住んでる人だったら知る人ぞ知る、『幸幸』の焼き鳥だ。
そして、その焼き鳥のお供となるコンビニのレンチンご飯。
因みに種類は皮タレだ。」
「皮タレですか。
やっぱり、どこの焼き鳥でも皮タレ美味しいですよね。
この、食べやすい歯応えでガツンとくる脂身がご飯の箸の速さを加速度的に上げさせるんですよね。」
「男女共に堂々の1位だからな。」
その声の主はパトロール中に休憩時間を迎え、今正にホクホクで出来立ての焼き鳥を手に携えながら食事の席を探している最中の鶴田とその部下だった。
声を聞いた昇太郎は慌てふためいてるが、それとは対照的に絶賛惚気発動中の美月はニコニコとしながら状況をまるで理解していないような表情で昇太郎を見つめている。
そんな美月に代わり、昇太郎は慌ただしく周囲を見回すとベンチの後ろに人一人が隠れられそうな幹を携えた大木がずっしりと身構えていた。
これ幸いと思った昇太郎は今も尚、惚気が全身を支配している美月の両肩を掴み、そのまま強引に大木の幹の死角に引っ張った。
「えっ、ちょっ、何…。」
その数秒後、左側から上機嫌な様子で鶴田とその部下はやってきた。
「おっ、丁度そこにベンチがあるな。
この先の道を向こうまで見ても、それっぽいのなさそうだからここで昼食べるか。」
「そうですね、この電車が見れるベンチで焼き鳥食べながら昼休憩しますか。」
「馬鹿、それだとお前が俺からの焼き鳥のお零れを貰うみたいになってんぞ。」
「あれ、駄目でしたか?」
「駄目に決まってんだろ。」
「「ぶっ、ぎゃはははは!」」
(ヤベえ…ヤベえヤベえヤベえ!
どうしよおおおぉぉぉ………!!!)
交際関係が尾上の他に鶴田にもバレそうな事態に直面し、とてつもない不安を抱かずにはいられない昇太郎はどうしようもない程に心の中で叫んだ。
(あれ、絶対鶴田先輩だよな!?
声の感じで分かってたけども!
ってか、今の時間ってまだパトロールじゃなかったか!?)
昇太郎はすぐさま右腕に付けてあった腕時計で時間を確認する。
(そうか、今日の勤務形態でこの時間帯だったら、今は休憩時間か。
だから、ここで『幸幸』の焼き鳥を食おうとしてるんだな。
ってか、先輩ってあんな感じで笑うんだな。
初めて知ったぜ。
それにしてもあの香ばしく焼いた皮タレの、食欲をそそるカマリをここまで漂わせながら美味しそうに食べやがって…。
自分の先輩ながら腹た…いやいや、そんな事より今はこの状況をどう切り抜けるかを考えないと。)
鶴田に交際関係がバレてしまうかもしれない不安で、コロコロと態度が変わり情緒不安定な昇太郎だったが、我に返り、改めて状況を打破する道筋を考え出す。
(逃げたいのは山々だが、こんなに距離が迫ってる状態でどこかに行くとしても絶対に見つかって言い訳出来ない八歩塞がりな状況に発展する…。
かといって、ここで静々と待っていてもいずれ見つかるのに変わりはない。
…そうだな、とりあえず今は美月さんを強引に連れ出した事を謝罪しないとな。)
昇太郎は全く意識していない様子で美月の耳元で囁くように言葉をかけた。
「すみません、美月さん。
無理矢理身体を引っ張ってしまって…。
向こうから鶴田先輩が来てたので咄嗟に隠れる事しか出来なかったんです。
今少しの我慢ですが、安心して下さい。
先輩達の隙を見てここを離れま…って、どうしたんですか、美月さん?」
明らかに様子が可笑しく、昇太郎は話しかける度に美月は身体を小刻みに震わせていた。
その様子に違和感を覚えた昇太郎は後ろから身体を隅々まで舐め回すように見る。
「美月さん、一体どうしたんですか?
さっきまで身体震えてましたけど…。
まさか、さっき無理矢理身体を引っ張ってしまったからどこかに怪我し…」
「いや…違うの。
そういう事じゃ…なくて…。」
「………?」
美月の妙に辿々しい話し方も相まってより一層不審に感じたが、その不審は一瞬で晴れ、それは更に恥ずかしさに昇華していく事になった。
(美月さんの様子が何か引っ掛かるなぁ…。
それにしても、美月さんって凄く良いかま………)
「あっ。」
(ヤベっ…。
めちゃくちゃ距離近い!)
美月を後ろから抱きついている様子で密着していた昇太郎は美月の不審な態度を痛烈に理解した。




