買い食い
青原初城駅前のベンチ、美月と昇太郎はここで座りながらクレープとたこ焼きを膝の上に広げ、正に食べようとしているところだった。
このクレープとたこ焼きは駅前のキッチンカーから買ったものだ。
このキッチンカーはいつも決まった時間にしか来ないのでこの辺りの住民しか知らなかったりする。
クレープは大きく2つの種類に分かれ、王道のチョコバナナとチョコスプレーだ。
最近はこのチョコバナナに苺を乗せた苺チョコバナナが新しく登場したが、王道のチョコバナナには邪魔だと苦言を呈したり、好きな人には刺さったりで賛否が分かれるところだ。
一応、苺を乗せたからと言って値段が上がる訳でもなく変わらないらしく、こちらの方がお得だと述べる人もいる。
一方のたこ焼きだが、これは1種類しかなく普通のたこ焼きにソースとマヨネーズをかけ、天かすを添えたシンプルなものである。
値段はたこ焼きの方が高めだ。
昇太郎はいつもと変わらない平静な顔で食べ物を見つめていたが、美月は目をキラキラさせながらたこ焼きとクレープを見つめていた。
「こんなところにこんな食べ物が売ってるなんて全く知らなかった。」
「普段からここでお世話になって『ました』から。」
「ふーん…。
じゃあ、ここでもまた、サボって買い食いしていたと。
そういう認識でいいのね?」
声のトーンが低くなり、見た目は笑顔でも心底笑ってないような表情で迫る美月に昇太郎は2、3回頭を下げながらこれまでの愚行を謝罪する。
「すみません、すみません、すみません!
でもそれは昔の事なんですよ、美月さん!
今はちゃんとパトロールもしっかりして妖魔も見つけ次第退治しているので勘弁して下さい!」
「そうよ。
それが本来あるべき日特隊員の姿なんだから。
今も、そしてこれからも真面目に業務をこなしてちょうだい。」
「はい…すみません。
それと、昨日の周りを気にしなかった不用意且つ不躾がましい行為を催促してしまってすみませんでした。」
(そう、元はと言えば自分の欲望に歯止めを効かせられず、貪欲になってしまった結果、美月さんを困らせてチークキスさせてしまった。
そして、支部長にパパラッチされた。
あれのせいで美月さんを不安にさせ、交際破綻にまで追い込んでしまった。)
「確かにバレてしまったのはビックリして、とても不安になったけどバレた相手が支部長だけで良かったじゃない。
あの人は口が堅いし、誰にも言わないから大丈夫だと思うわよ。
でも、多分会う度にちょくちょくからかわれそうな気はするわね。
何かそう思うと無性に腹が立ってきた…。」
おちゃらけた表情で交際を揶揄してくる尾上を想像して美月はわなわなと拳を握り、身体を小刻みに震わせ、憤慨した表情を見せる。
その様子を見て昇太郎は引きつった表情をして身体を後ろに退け反らせた。
そんな昇太郎を一瞥した後、我が身を振り返ったのか、クレープを一口食べ怒りのコントロールを図った。
ある程度の冷静さを取り戻した後、美月は口を開く。
「だから、そんなに謝らなくて良いと思うわよ?」
そして、次の一言を言おうとしてもごもごしながら呟くように口に出した。
「だって、その…私達って、恋人同士なんだし…。」
「………。」
改めて口にされ、言った方も言われた方も顔をほんのり赤くなり少々気まずい雰囲気になった。
そんな中、美月は昇太郎の方をチラチラと目線だけ寄越して不安になりつつ尋ねた。
「じゃあ、あの話はなしになるの…今度のデート…?」
「デー…ト…。」
昇太郎は以前の記憶を隅々まで掘り起こし、デートという検索ワードを元に探し当てる。
すると、昇太郎がキスする事を条件に美月が昇太郎とデートするという場面が浮かび上がった。
それを思い起こすと先程よりも更に真っ赤な顔になり、美月の事を直視出来ず、頭を抱えて項垂れた。
「な…なしじゃないです!」
「そう…。」
すると美月は大きく息を吸って吐き、安堵の表情をしながら両手の指先同士を合わせる。
「良かった。」
「………。」
自身の返答に満更でもない様子を示す美月に昇太郎は更に鼓動が脈打つ。
そんな良いムードが漂う中、駅の踏切から聞き馴染みのある声が聞こえてきた。




