嫉妬心
「支部長と1週間もの間、ずっと仕事してたものね。
私とも仕事はしてたけど、関わりの割合は圧倒的に支部長の方が多め。
昇太郎も支部長の持つ洞察力と情報収集力の高さに心惹かれちゃったかしら。」
先程までの昇太郎を案ずるような言動とは裏腹に嫌味爆発の突き放すような言動を取る美月。
「なっ…!
そ、そんな事は…!」
この言動に昇太郎も動揺を隠しきれずに態度に出してしまう。
「そうよね。
会社にいる人間というのは上に立つべくして成り立つ人間に自然と心惹かれるものだわ。
あの目が100個でもあるかのような人を見る才覚に溢れた支部長は上に立って当然の人よ。
だから皆、支部長の下に自然と集まるようになる。
それに比べて、私は刀一本で生きていたと言っても過言ではないくらいの人間。
前線に出て真っ先に目に飛び込んだ妖魔を斬り捨てていくだけの野蛮な女。
それ以外には何の取り柄もない寂しい女侍よ。」
「う…。
どうして…そんな悲しい事、言うんですか?」
「………!」
ストレートに態度が変貌した事を聞いてきた昇太郎に美月は我に返る。
そうして、まるで泥酔状態から一瞬で酔いが覚めたような感覚になった美月はぎこちなくも一生懸命言葉にして口に出した。
「そう…ね。
上手く言葉に出来ないんだけど、多分不安になってたのかも…。
思えば、1週間前にした、あのデートの約束の直後に支部長が昇太郎に課した課題だもの。
日にちを決める間もなく、支部長の手伝いに付き合わされて、東奔西走する昇太郎を見て話しかける事なんて出来なかった。
全く私の方に来ない様子を見て、もしかしてどこかで歯車を回す順番間違えたのかなとか色々考えちゃって…。
たまに昇太郎を見かけてもいつも支部長と話したり、仕事の打ち合わせとかしたりしていて…それを見ていたら私の役割を支部長が勝手に奪っていった感じに思えて凄く落ち込んだ。
そう落ち込むと同時にモヤモヤもしていて、何だかよく分からなくなった。
恋って一体何なんだろうね。」
「………。」
今の関係の核心に迫るような問いを投げかけられ、思うように答えられず黙り込む昇太郎。
数秒の沈黙が漂い、風の音だけが2人の周りを撫でるように吹く。
「こんな風に思う程、恋に対して無知な私が恋人関係になろうって言う事自体無理があるのに…。
それに私、交際をしてるあなたの事も何も知らないのにこんな関係になろうなんて本末転倒よね。」
「………。」
未だに何も答えられていない昇太郎を一瞥し、何かを悟った美月は表情が暗くなった。
「私、斬り込み隊隊長な事もあって結構強引な性格だし、交際した事であなたに無理させてるかもしれないから、いっそこのままずっと石金のままで…」
「無理なんかしてないです!」
「………!」
美月のネガティブな考えを有無を言わさぬ張りのある声で断ち切る昇太郎。
「前までの俺は剣を振ることにしか生き甲斐を感じなくて、とても詰まらなかったですけど…美月さんと付き合ってからは前よりもめちゃくちゃ楽しいです!
毎夜美月さんとの事を考えて眠れない事もあるけど、それは全然辛くはないんです!
寧ろ、いつも一緒にいたいって思うくらいです!
だから、俺はもっと沢山美月さんの色々な部分を知りたいです!」
そう真正面からハッキリと言われた美月の表情は陰りはなくなり、柔らかな笑みが見えた。
「そう…ね。
そうだわ。
すぐ諦める前にお互いの事、もっと色々と知らなきゃね。
いいわ。
昇太郎の今見えてる世界、私がもっとハッピーにさせてあげる。
だから、私の事だけ見ててね。」
「はい!」
一度離れそうになった恋の間柄は彼の説得によって再び繋がる。
それも前よりもより頑丈によりより堅牢により強固に。
その様はまるで2人の絆や愛の深さを感じられるものだった。
2人はこの事を経て、お互いがどんな事情があっても交際したいという事を改めて再認識したのだった---




