不完全燃焼
「ごめん、私もよく分からない。
どういう時に何をして何をしちゃ駄目なのか、全てが初めてなの。
でも、あなたがさっき言ってた『段階を踏む』っていう事を考えれば最初はこれが妥当なのかなっ…て思って…。
その…頬へのキス…なんじゃないかな?
まぁ、その…私も今までの経験則と知識を基に今の行動を取ったから間違ってるかもしれないけど…。」
苦し紛れに聞こえる言い訳をペラペラと述べて自分で恥ずかしくなり、段々と顔を昇太郎から背ける。
「うぅ、自分で言ってて何か恥ずかしい…。
じゃあそういう事だから、私はこれで帰るわね。」
最後には苦笑いを浮かべながら強引に話を切り上げ、家に帰ろうと踵を返す。
(俺は今猛烈に震えている。
嬉しい、嬉しいんだ!
美月さんから口じゃないにしろほっぺにキスをされた事が!
でも、そんな事では俺はまだ満足出来ない!
元々、俺から切り出した事なのに逆に美月さんからされて終わりだなんて不完全燃焼で夜も眠れないくらいだ!
本当にしたいのは俺からだ!)
止めどなく溢れてくる感情を抑えられない昇太郎は帰ろうとする美月の腕を咄嗟に掴む。
掴まれた美月は少し肩を震わせて驚き何事かと思い後ろを見る。
そこにいた昇太郎はいつになく真剣な眼差しで口を開いた。
「俺からのキスも…お願いします!」
突然の事を言われて驚きを隠せない美月。
深々と頭を下げる昇太郎。
頭を上げると美月は顔を赤らめ、もじもじしていた。
「ごめん…今は、無理。」
「え…えぇえ、そんなぁ!
美月さんからやって俺からは出来ないって、そんなの…狡いですよ!」
「『やらない』って言ってる訳じゃないわ。」
「えっ…それって、どういう…。」
その先を言いかけて昇太郎は言葉を慎む。
そこには顔はこちらを向き、目だけは背け、瞳をうるうるさせた美月がいた。
口は開いたり閉じたりを繰り返している。
何かを言いたそうにしている事に気付いた昇太郎は黙って美月の言葉を待つ。
そして、気持ちが固まった美月は口が震えながらも言葉を発した。
「それ…は、今度の…デートでね。」
「デ…デート…。」
男が湧き立ちそうな歓喜のワードを口にし、思わず昇太郎はそれを反芻する。
恋人とは成立した後ににただいつも送る日常を淡々と送るような、そんな薄っぺらいものではない。
手を繋いだり、キスをしたりもする。
最終的には愛し合い、求め合う存在でもある。
大分、表面的な事ではあるが昇太郎と美月は今回の一件でそんな恋人という定義の一部分を知った---




