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綻びのこがね  作者: フジ
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決裁

「あっ、もしもし支部長?」


「もしもし、竜胆君。

どうかな、仕事の進捗は?」


「ええ、その事で報告したい事がありまして、妖魔集団の殲滅はたった今完遂しました。」


「おお…岩叢山の麓にある広々と横たわった雑木林から奴らを見つけ出すから1時間以上はかかるだろうと目算していたが、流石は青原支部が誇る石金の美月か。

30分で終わらせてくるとは…いやはや、一種の神業に等しいね。」


「あっ、いえ…今回活躍したのは私ではなくて、獅子谷さんなんです。」


何も事情を知らない尾上からの大称賛に美月は苦笑いをしながら昇太郎の顔を一瞥し、再び空に視線を戻す。


「…ほぉ…正直な竜胆君の事だから、その話本当なんだろうね。

やはり、私が考えた人選に狂いはなかったようだ。」


「ええ、正直探索中、私自身もこれが1人で遂行していたとなれば眉間に寄った皺が戻らないくらい大変だったと思います。

獅子谷さんであっても送ってくれた支部長に感謝致します。」


「うむ、まぁどんなに優れた人物であっても助け合いは必要という事だな。」


「ええ、仰る通りです。

そしたら支部長、仕事も終わった事なのでこれより、帰還します。」


「待ちたまえ、竜胆君。」


「えっ、支部長どうしましたか?

まさか、追加の仕事が発生しましたか?」


「違う、君達2人、そこで遊んできたらどうだ?」


「………えっ?」


美月は目を丸くしながら時間が止まったようにその場で固まった。


「またレスポンスが悪くなったね。

大丈夫かい?」


「あっ…いや、想定外の事を言われたので少しだけ反応に困っただけです。」


「まぁ、想定外と言えば想定外だね。

まさか、こんなに早く討伐するとは思わなかったよ。

討伐に難航する事を目算して主に食料調達の目的となる予算を1日分くらい入れておいたから。」


「えっ!?

そ、そうなんですか!?」


「何だい、気付かなかったのかい?

支部から貰った支給品バッグの中に財布が入ってるだろう?」


それを聞いた美月はすぐさま肩にかかったショルダーバッグに手をかけ、中を弄った。


すると、明らかに掌に丁度収まるような薄い生地の物体が手に触れた。


それを掴み、中から取り出してみると二つ折りの黒い財布だった。


「ほ、本当だ…。」


「そうだろう?」


美月は中身を見る為に財布を両側に開き、先端部分の札入れを上下に開いて覗いた。


「こ、こんなにあるんですか!?」


「1日分あるんだ。

それが妥当の金額だろう。

だが、問題は金額の大小じゃない。

そのお金はもう決裁を入れてしまっているという事だよ。」


「ど、どういう事ですか?」


「恐らくだけど、その様子ではそのお金は一銭も使ってないと思うんだけど、どうかな?」


「ええ、そうですが…。」


「何かしら使っていればよかったんだけど、全く使ってないとなると決裁した意味がなくなるんだよね。」


「ま…まさか…。」


美月の脳裏に自分にとって動悸最高潮のシナリオがよぎる。


そして、その不安は良くも悪くも的中してしまった。


「流石竜胆君、察しがいい。

そう、お金を使ったという証拠を残す為に洋前で観光目的で遊んでくれたまえ。」


「ちょ…ちょっと待って下さい、支部長!」


唐突に声を張り上げる美月に昇太郎は一瞬身体を震わせ驚いた。


(何か、さっきから美月さん様子が変なんだよなぁ…。

慌てふためいたり、吃ったり、大声出したりでこっちまで不安になってくるよ。

一応、仕事は終わったんだし、上層部からは何も咎められる要素はないんと思うんだが…。)


「何だい、竜胆君。

大丈夫だよ、お金なら全額遊びに使ってくれても構わないよ。

寧ろ、全部使ってくれた方が決裁を入れた身としてはありがたいな。」


「違います、そういう事ではありません!

私達、出張でここに来ているんですよ!?

仕事を終えたなら、その時点で帰還してすぐに次の業務にあたったほうがいいのではないのですか!?」


「そこに関しては何も問題ない。

私が支部内の鶴田君含めた全隊員に今日は2人共勤務終了時間近くに支部に帰還するという事を伝えたからね。」


「なっ…!

…でしたら、この辺りの宿で少し休んで帰還します!」


「それだとあまりにも味気ないだろう。

それに決裁を入れたお金を少しでも使わないと経理部から怪しまれるから、どうせだったらこの青原よりも目新しく、発展した街である洋前でパーッと使ったらどうかね?

君は日頃から斬り込み隊隊長という重責を背負いながら仕事をしてるから、少しばかり他の隊員よりも贅沢した方が釣り合いが取れると思うぞ。

どうかな?

まぁ、さっき君が言った通り、宿で少し使うという事でもいいが、私としてはこの際遊び歩いた方が得だと思うがね。」


「………。」


美月は顔を俯かせ暫くの間、頭の中でどちらを選ぶか逡巡していたが、やがてゆっくりと顔を上げ口を開いた。


「分かりました。

折角の支部長のご厚意を無下にしたくありません。

獅子谷さんと洋前で遊びます。」

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