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綻びのこがね  作者: フジ
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山兎

幸運な事に山兎が出てきた時の身体の向きが昇太郎に背を向けた状態だった。


(ヤツはこっちに背中を向けてる。

はは…良い事が重なりすぎて思わず小躍りしちまいそうだ。

シメシメ。)


音を立てずに徐々に近寄り背後を取れば、楽に仕留められる事に昇太郎は心中で歓喜した。


昇太郎は一歩一歩で踏み締める時に踵から地面に着き、ゆっくりと足首を前方に動かしながら足裏、爪先と地面に着け、常に音を出さないように気を付けた。


また、小石や落ち葉が密集している箇所は極力避け、出来るだけ平坦な道を歩いて獲物に近付いていった。


そして、着実に獲物との距離を縮め、刀の射程圏内に入った時、刀を両手で持ち、その刀を上にゆっくりと持ち上げた。


持ち上げた瞬間、山兎は日々狙われる弱者故の本能で気が付いたのか、唐突にこちらを振り返った。


だが、気付いた時にはもう既に遅く、すぐにでも刀を振り下ろせる状態にあった昇太郎。


山兎がこちらを振り返ったのと同時に昇太郎は真上に持ち上げた刀を勢いを付けて振り下ろした。


「やぁぁぁあああ………---」


「まっ、俺にかかればこんなもんよ。

兎の1匹や2匹、戦略的且つ冷静に動けば楽に仕留められる。

昇太郎、狩猟達成…ってかぁ?」


あの後、昇太郎の一振りで絶命した山兎を昇太郎はその場で焼こうと決めた。


その地点の周りから適当に落ち葉や木の枝を拾い集め、それを一箇所に置いた。


今回は森林地帯での仕事なので支部からは念の為にマッチが支給されている。


昇太郎はこのマッチを使い、一箇所に置いた落ち葉や木の枝に火を付け、焚き火を起こした。


青原支部はサバイバルも想定した仕事の為、昇太郎を含む隊員全員は狩猟時の野生動物の捌き方なども訓練されている。


その為、山兎の捌き方も人並みに出来るのだ。


そうして捌いた山兎を昇太郎は焚き火で焼いていた---


一方、両目をギラギラに光らせ、妖魔集団を探していた美月は休憩の為、ショルダーバッグから水を取り出し飲んでいた。


「ふう、少し休憩。」


丁度美月が足を着いて座れるくらいの高さの切り株があったので彼女は腰を下ろした。


そして、水を一口飲む。


(探し出して30分くらい経つけど、妖魔の足跡どころか、気配も感じないわね。

流石、岩叢山の麓の雑木林なだけあって広いわ。

まだまだ潜伏出来る場所がふんだんにあるっていう証拠ね、これ。)


再び水を一口飲む。


(そういえば、昇太郎はちゃんと探してるかしら。

「最近はサボり癖も減ってきて良い感じですよ」ってこの間鶴田さんが誇らしげに言ってたけど、今こうやって目を離している隙にサボってそうな予感がする。

でも、だからと言ってまた合流するって言ってもこれだけ広い雑木林の中を彷徨い歩きながら彼を見つけるのは大変そうね。

妖魔集団を見つけるのも一苦労だもの。)


そして、美月は開けたペットボトルの蓋を再び閉め直して、ショルダーバッグに戻した。


(ここは一つ、彼を信用して引き続き妖魔探索に出ましょうか。)


そう思い、切り株から腰を上げるとどこからともなく突然食欲をそそるような芳ばしい匂いが鼻腔を通り抜けた。


(あっ…何か、凄く良い匂い…。

朝ご飯は食べたけど、この匂いを嗅いだら何か…急にお腹が空いてきた…。

こっちの方から匂いがする…。)


美月は匂いのする方へ歩いていった---


また一方で昇太郎は食べ頃になるまでじっくりと山兎を焼いていた。


じわじわと狐色に変わって焼き上がっていく様に昇太郎は垂れる涎を抑えられずにいた。


だが、昇太郎は先程から振り返りはしないものの後ろをしきりに気にしていた。


というのも、先程から背後から「何か」が近付いているのだ。


振り返らない理由はその「何か」は殺気を放っていないからだ。


殺気を放っていれば自身を殺そうとしているので食事どころではなくなり、その「何か」を即刻対処するが、全く殺気は感じられない。


何か別の目的があるものと考えて昇太郎は振り返る事はなかった。


(さっきから何か知らねえが近付いてやがるな。

他に野生動物がいて、俺が今調理してるとこがそいつの通り道かもしれないな。

まぁ、いずれにせよ気にする事はない。

さっさと焼き上げよう。)


そう思い、再び焚き火の方に目を向けると丁度良い具合にこんがりと山兎が焼き上がっていた。


食べ頃状態の山兎の焼いた芳ばしい匂いが昇太郎の鼻腔を通り抜け、昇太郎の食欲を駆り立てる。


(良い感じの焼き具合にこの匂い!

う〜ん、最高!

冷めない内にさっさと食べよう!)


昇太郎は木の枝に刺した山兎の肉を手に取り、それに齧りつこうとする。


「あー………あっ?」


だが、ふと左隣に何者かの気配を感じ、左を見るとそこには…


「………。」


今にも昇太郎が齧りつこうとしている山兎の肉を美味しそうに見つめる妖魔の集団がいた。

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