理不尽な依頼
「………。」
尾上の返しを聞いて言葉を失い、数秒の沈黙が続いた。
そして、うんともすんとも言わない美月に尾上は少し声のトーンを高くして声をかけた。
「あれ、竜胆君?
聞いてる?
もしもーし、竜胆くーん、聞こえてるかーい?」
「あっ…あぁ、はい。
聞こえてます、聞こえてます。」
「よしよし、大丈夫だね。
それじゃあ、さっきの件、了承してくれるかな?」
「えと…すみません、支部長。
さっき、お願いされた仕事内容をもう一度仰っていただけますか?」
この美月の言葉を聞き、尾上は電話越しで少し訝しんだ声を出しながら先程の仕事内容を復唱した。
「あら、そうかい。
聞こえなかったのかい?
電波障害かな?
まぁいいや。
そうしたら、もう一度言うけど、仕事内容は獅子谷君と2人で妖魔退治をしてほしい…だ。」
「…は…はい…。」
「よし。
じゃあ、よろしく頼んだよ。
詳しい内容はまた後日連絡するから、それまで通常業務をやっていてくれ。
それでは、また後日、電話でね。」
一方的に話を捲し立て、半ば仕事を押し付けるような形で電話を切る尾上。
内容を全て理解した美月の視界内は何もかもが歪んで見え、足下も覚束なくなり、フラフラとした足取りで所構わずに進むと、やがて壁に額を思い切りぶつけた。
「うん、何の音だ?」
「誰かが足下を碌に見ないまま、どっかにぶつかったんじゃないか?」
「はは、違いねぇ。」
その衝撃で我に返った美月は今まで尾上に頼まれた仕事内容を走馬灯のように思い返し、全てを思い出した後には顔が真っ赤に染まっていた。
だが、支部長という上層部からの仕事と割り切り、私情を押し殺した美月は怒りの電光石火タップでスマホの昇太郎へのLinkitに先程の尾上からの仕事のメッセージを送った。
「ふぅ、ちょっと一区切り。」
「おっ、何だ?
もうそこまでやったのかよ。
ここ2、3日、調子良いじゃねぇか。
何か、嬉しい事でもあったのか?」
「そうですね、たいした事じゃないですけど誰かに仕事を褒められるとやっぱり嬉しいです。」
「そうかよ。
同僚にでも褒められたか?」
「まぁ、そんな感じです。」
一方、当の昇太郎は順調に鶴田から振られた追加分の仕事を淡々とこなし、気が付けば半分以上は終わっていた。
小休止中にコーヒーを飲んでいると、突然ズボンのポケットから振動音が鳴り出した。
「何だ、電話か?
いや、美月さんからのLinkitだ。
多分、仕事だと思うが何だろうな。」
通知のバナーをタップし、Linkitへショートカットして、コーヒーを一口飲みながら内容を見ると思わず口に含んだコーヒーを吐き出した。
「んあ?
って、獅子谷お前…きったねぇな!
何やってんだよ!?」
「すみません、すぐに拭きますので!」
「おう、まぁ急がなくていいからしっかり丁寧に拭けよ!」
だが、この後の昇太郎は散々でデータを保存しなかったり、廊下で転んだり、書類をぶちまけたりと鶴田が一日中監視しながらでしかまともに追加分の仕事をやり切れない状態であった。
こんな散々な目にあった昇太郎だが、鶴田から与えられた追加分の仕事は鶴田と共にやり遂げたようだった。
美月に関しては他の同僚に悟られまいと無表情を貫き通し、書類を淡々と片付けていった。
だが、様子が変だった美月に流石に気付いた同僚達が美月がやった書類を確認すると所々にミスがあったので同僚達は何も言わずにミスを直したようだった---




