自宅訪問
そして、視線は一点を捉えたまま放心状態になった。
「とりあえず、ここの近くにある、あのまちなか広場で待ってて。
今日の業務全て終わらせたらすぐに行くから。」
今のタイミングで丁度弁当を全て食べ終わった美月は昇太郎の返事をまともに聞かずに言いたい事を言うだけ言って支部内に帰って行った。
美月が帰ってしまった後も昇太郎は暫くの間、その場で放心状態になっていた---
(どう対応したらいいどころか、浮かんでくるのは先輩の耳元で言ったあの言葉。
これじゃあ、まともに対応策も考えられねぇ!)
頭を抱える次は頭を上下に振り始める、さながらロックバンドのヘドバンのよう。
暫くはそんな事を続けていたが、やがて次第に落ち着きを取り戻し、最後は項垂れるように顔を俯かせた。
(悩んでてもしょうがない。
なるようになれだな。)
そう心の中で開き直ると聞き慣れたパンプスの音が遠くから聞こえてくる。
段々と音が大きくなり、止まった頃に顔を見上げると、心なしか頬が少し赤く染め上げている美月がいた。
「ど、どうも先輩。
さっきぶりです。」
「うん…。
それじゃあ行くわよ、あなたの家に---」
「えと…着きました。
ここが俺の家です。」
「ふむふむ、まぁ普通ね。」
「ええ、普通ですね。」
ほぼ黒塗りの外観の家を見て、それ以外はあまり派手な装飾もない所を見た時には妥当な感想であった。
敷地に入り、玄関前まで歩いていく。
「そういえば、今日は何の用事で俺の家に来たんですか?」
「えっ!?
そ、それはぁ…」
昇太郎から目を逸らしながら言い淀む美月。
そうこうしているうちに玄関前まで来てしまった。
昇太郎は美月の返答を待ちながらトートバッグを弄る。
すると美月は両手を忙しく動かしながら口を開いた。
「えと、ほら…付き合うって事は恋人…って事じゃない?
つまりは彼氏彼女じゃない?
彼氏の食べる物の好みとかも把握して、それを実際に作らなきゃ駄目だし、洗濯物とかも干さなきゃ駄目だし、色々と彼氏に対してやる事一杯あるじゃない?
でも、それをやれって言われたら今出来るか分からないし、そもそも私、料理を作る事自体やってなくて全部飲食店とかコンビニで済ますから絶対出来ないわ。
あっ…違う違う!
そんな事はどうでもよくて、とにかく、いずれはそういう事をしなきゃ駄目なんだから今のうちにあなたの家でその予行演習をさせて欲しいっていう事よ!」
「あぁ、そういう事でしたか…。
なるほど…分かりました。」
(先輩…それは彼氏彼女の関係じゃなくて、最早それを飛び越えて結婚してます…。)
美月の理由に苦笑いしながらも昇太郎は黙って傾聴していた。
そんなやり取りをしていると昇太郎はトートバッグから取り出していた財布の中から家の鍵を取り出した。
それを鍵穴に挿し込み捻って玄関を開ける。
「どうぞ!」
「お邪魔します。」
開けると昇太郎は脇に避けながら美月を案内する。
当然ながら恋人でお客さんであり女性なので先に家に上げさせる。
レディファーストは守る主義である。
玄関を抜け、リビングに出るとそこにはあった…
「………。」
「えと、僭越ながらお聞きしますが、そのゴミでも見るような目は何でしょうか?」
「見て分からない?
凄く…いや、物凄く散らかってるんだけど。
これだったら、ゴミを見る目にもなるわ、ゴミだけに。」
「ですよね…。」
数多の服やら本やら日用品などが雑多に置かれている光景が。
この光景を見た美月の辛辣な感想に昇太郎はガックリと項垂れる。
「まぁ、こんな事は大方予想がついていたわ。」
「えっ?
それは何故ですか?」
「だって、昇太郎の机はいつ見ても汚いじゃない。」
「す、すみません。」
美月のストレートすぎる言い方にまたしても昇太郎は気落ちしながらも謝った。
「でも、この数日間で俺の事、結構見ていてくれていたんですね。
指摘されたのは申し訳なかったですけど、その事実は凄く嬉しいです。」
「それは………うぅ、うるさい!」
まるでやり返されたかのような感覚に陥った美月はしどろもどろになりながらも無理矢理切り返して側にあった毛布を投げ付けながら罵倒する。
「うわっ、な、何だ?
毛布?」
投げ付けられた毛布を毛布と認識していると美月が突然指を差してきた。
「とりあえず、そのベッドで昇太郎は寝ててちょうだい!」
「えっ!?
な、何故ですか!?」
昇太郎は毛布を投げられるなり、突然寝ろと言われ、何が何だか分からず困惑しながらも、とりあえず理由を尋ねた。
すると、美月は待ってましたと言わんばかりに胸に手を当てドヤ顔で言い放った。
「決まってるじゃない!
私が今からこの部屋を掃除するからよ!」




