心地良い高鳴り
「美月、可愛いね。
初めて付き合った女性が君で本当に良かったよ。
君以外の女性を見る事なんてもう俺にはないだろうな。」
昇太郎は人気のない路地裏に美月を連れ込んでいた。
「やだ、そんなに褒められたら凄く恥ずかしくて穴に入りたくなる。」
昇太郎が羅列する褒め言葉に美月は両手で顔を隠し、片目だけ出して昇太郎を見つめる。
「だったら、恥ずかしさなんてもう微塵も感じなくなるくらいにさせてやるよ。」
そして、昇太郎は徐に美月に抱きついた。
「えっ?」
「美月、君が好きだ。
いや、違うな…。
君を愛している…美月。」
「えぇぇぇえええ………---」
と、美月の絶叫と共に機械音がけたたましく鳴る。
美月はゆっくりと上体を起こし、機械音のする方へ手を伸ばして何かのボタンを押した。
目覚まし時計だ。
どうやら今までの件は美月の眠っていた時の夢らしい。
翌朝なので目覚まし時計がなったようだ。
くしゃくしゃと寝癖だらけの頭を掻き、ベッドから起き上がる。
「何か凄く現実的じゃない夢を見た気がする。」
その一言を呟くと真っ先に洗面台へ歩いていった。
「何か…うろ覚えだけど、昨日確か---」
昇太郎の告白に了承しつつも動揺して顔が先程よりも紅潮する美月。
その勢い止まらず、もうどうにもならなくなった美月は唐突に立ち上がる。
「!!!
どうしました…先輩?」
昇太郎の心配にも沈黙を貫く中、美月は恥ずかしさのあまり、その場で身を翻し猛烈なスピードで逃げていった。
その背中をボーッと見つめる昇太郎は力なくゆっくりと立ち上がり、妖魔出現の現場を抑えた鶴田と合流した。
鶴田に昇太郎は「美月は病み上がりで疲れたから先に帰った」と報告したらしい---
「1人置いてけぼりにした彼には申し訳なかったけど、このくらいで怒る感じは今までの様子からしたらないわよね。」
ボサボサの髪を整え、歯を磨きつつ、化粧を少々していく。
「でも…自分が恋をするなんて、思っても見なかったな。
恋なんてたまの休みに見る映画とかドラマにあるシーンとかでしか見た事ないし、それに今までそんな機会なんて何にもなかったから全然実感が湧かない。
でも、1つだけ確かに感じるものはさっきの夢でもそうだけど、名前で呼ばれたり、彼をちょっとだけでも思ったり、急接近されたりするとこんなに胸が和太鼓みたいに高鳴る。
胸が締め付けられるようで苦しい…。
けど、何故だろう…そんなに言う程苦しくはない。
むしろ、心地良い感じ…。」
恋する感情に浸っているとふと視界内に写る時計が気になり、針を見やる。
「えっ!?
嘘、もうこんな時間!?
急がないと遅刻しちゃう!」
美月は早々に着替えを済ませると、朝食も食べずに家を出て青原支部へ急行した---




