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強行犯特別捜査班 Final  作者: 村雨海香
8/9

イジメ捜査 8

 翌朝、刑事部屋に集まると捜査礼状を取りに行く班と直ぐに中山と山崎の取り調べの班に分かれた。山崎の取り調べに永尾、中山の取り調べに竹内が入った。礼状班には結城楢野中野の三人が向かった。


 山崎は永尾に取り調べ目の前で記録を取った。山崎ユラ四十二歳、職業は元テニスプレイヤー今はテニス教室の先生。住所は目黒区の一軒家、家族構成は旦那本人息子娘が一人ずつ。

 永尾は最低限の事を聞くとバインダーを閉じた。

「これで取り調べを終わります。」

 山崎は驚いた。

「これで終わりなんですか。もっと聞かれたりするもんじゃないのですか。」

「今回係長の指示で今は貴方の記録だけを残せと言われました。」

「どういうことなの。」

「まあ、私たちの係長なに考えてるか判らないとき有るんです。では私は他に仕事があるのでこれで終わります。戻りましょう。」

 永尾は山崎を署の刑務所に入れた。


 その頃竹内も中山の取り調べを行っていた。

 中山マナミ四十二歳、職業は昔はオフィスレディーだったが、商談相手を怒らせクビ、今はパート職に付いている。住所は渋谷のアパート。家族は旦那と分かれて独り暮し。

 竹内もバインダーに挟んである紙に中山の記録を取り、閉じた。

「これで取り調べを終わります。お時間ありがとうございました。」

 中山はかなり苛立った。

「なに、この質問するためだけに私をここに呼んだの。もっと聴きなさいよ、動機とか。」

 竹内は冷静に答えを返した。

「係長の指示なのでこれ以上話す必要はありません。恐らく貴方は係長に取り調べられる事でしょう。」

 竹内は中山の手を引き、署の刑務所に入れた。


 家宅捜査礼状を取りに行った結城楢野中野はまず、東雲弘康の家に来ていた。東雲の家の仮設アパートは、殆どの住人はすでに新しい家へと移っており空き状態だった。結城を筆頭に部屋の中に入ると、そこは整理整頓された綺麗な部屋で、備え付けの棚には奥さんと子供の遺影が置いてあった。また丁寧にご飯も置いてあった。その棚の中に一つ古い箱があった。結城はその箱を覗くと、茶色く日焼けした手作りの本が沢山入っていた。

結城楢野中野は手袋を付け、手作りの本を見ていくと、それは二十年から二十五年前の物ばかりで最近の物は無かった。その中に一つ二十四年前の物があった。安積が高校を卒業したときの物だった。内容は卒業文集のように思えるが、それとは少し違った。自己紹介や、感謝の言葉、将来の夢等が書かれていた。その本の端には赤丸やチェックが付けられていた。安積のページを開くとそこには赤丸が付いていた。安積は将来の夢を書く欄には『子供を守る刑事になりたい』と書かれていた。卒業文には、『私の経験を生かし、昔からなりたかった刑事になってみせる。』と書いていた。山崎の卒業文には『絶対に有名テニスプレイヤーになってみせる』

と書いていた。もちろん、将来の夢は『有名テニスプレイヤー』だった。しかしその本の端には丸が付いているが、その横にはチェックが付けられていた。楢野がフッと思い出した。

「山崎ユラ、思い出しました。確かかなり腕のいいプレイヤーと言われてたんですが、それなりに性格も悪かったんです。前の署に居たときコーチと山崎の傷害事件の担当が当たったんです。まあ、どっちもどっちの結果で終ったんです。山崎はコーチにかなりの精神的苦痛を与えて、それに耐え切れなくなったコーチが手を出したんです。」

「どんな精神的苦痛を与えたの。」

「練習中にお茶とか水って命令したり、後練習がうまく行かなかったらコーチに当たってってかんじです。その後肘の大怪我をして三十代で引退したんです。」

「じゃあこの丸やチェックは現実したとか、しなかったっていう丸って事よね。」

「その線が有効と思います。つまり先生は卒業した生徒の事をしっかり見てたって事ですね。でもきっといくつかの卒業文集は焼けてしまったんでしょう。ハンチョウの時代の記録が残っていたのは幸いです。」

 他に何か無いか捜索していると、中野がファイリングされた物を見つけた。

「結城さん、楢野さん見てください。これ。」

 そこには綺麗に学年ごとに分かれている、新聞の切り抜きがあった。その中には山崎が大きな大会で上位に入った記事、パワーハラスメント傷害事件の記事、そして引退の記事まで丁寧に保管されていた。更にページをめくると安積の記事も出てきた。そこには今まで解決したイジメ捜査の功績が丁寧に貼られていた。その中には一ヶ月前の事件もあった。

「この事件は東都新聞が掴んだスクープだったから、かなり大きく報道されたのよね。」

「そうですね。ちょっとの間私記者に囲まれたり、街を歩いていても声をかけられる事がありました。正直ちょっと怖かったです。」

「でもどうして今更だったんでしょう。ハンチョウを狙う機会はいっぱいあったはずですけど。」

「ハンチョウの精神状態が崩れているのを狙った。今狙えばきっと捜査が難航すると思ったんじゃない。」

 楢野中野、結城は『そんな簡単に崩れるハンチョウじゃない』と、笑ったのだった。

 結城は卒業文集とファイリングされた物を持って、東雲の部屋を後にした。


 結城は歩きながら安積に、これから岡田の家に行くと電話をした。しかし電話中に何度も車の音が聞こえたのだった。結城が疑問を抱きながら岡田のアパートに向かうと、誰かがいた。髪は少しくせっ毛の黒髪で、黒のパンツスーツを来た少し小さめの女性。安積がいたのだった。結城は急いでアパートの前に行った。

「ハンチョウまさか梶野先生の家に行き前に電話してと言ったのは、家宅捜査に参加するためだったんですか。」

 安積は頷くとニッコリと笑ったのだった。

「だって朝は検査があるから行けないなって思って、梶野先生のときなら行けるかなって。それに、ケイト達がいないと、部屋ん中入れないしね。」

「もう出てきて大丈夫なんですか。」

「ええ、ちゃんと退院許可も貰ったわ。これから私も捜査に参加するわ。」

 結城は頭で嬉しいけど、回復のスピードがおかしいと思ったのだ。

「さあケイト、ヒロ、ナカ行きましょう。」


 家宅捜査の許可を取り安積達は家の中へ入って行った。中は綺麗とも汚いとも言えない部屋だった。

「梶野先生らしい部屋ね。確か机の上も綺麗とも汚いとも言えなかったわ。で、東雲先生の部屋はどうだったの。」

「そうですね、とっても綺麗でした。奥さんとお子さんの写真が棚の上に置いてあり、ご飯も供えてありました。それとこれ東雲さんの部屋から持って来たんですが。」

 結城は卒業文集とファイリングされ物をわたした。

「卒業アルバムは無かった。」

「はい、隅々まで捜しましたが、卒業文集が二十から二十五年までの分と、そのファイルが一冊しかありませんでした。」

「きっと家事で焼けてしまったんでしょう。でもいいわ。ありがとうケイト、御手柄よ。」

 結城はとても嬉しかった。憧れの先輩から褒められるのは。結城は嬉しさを隠すように作業に取り掛かった。安積は首を傾げていたが、楢野中野はクスクス笑っていた。

 作業に取り掛かっていると、安積は一つ箱を見つけたのだった。その箱を開けると中には沢山の手紙が入っていた。九十三と書かれた封筒が沢山現れ、その中にクラスメートの名前が沢山あった。

「これ確か卒業前にみんなんで先生に感謝のメッセージ書いた時の文よ。文通の返しもあるじゃない。ねえ、誰か机の上に書きかけの便箋無いか見てちょうだい。」

 中野が机の上を見ると便箋は無かったが、棚の中には書きかけの手紙が沢山あった。その中に中山宛ての手紙も有ったのだ。

「ハンチョウ中山宛ての手紙ありました。もう一つ新聞記事のファイルが。」

「ナカ、ありがとう。これは私が預かるわ。後は文集かアルバムがあればいいんだけど、あっ。」

 安積はクローゼットの中からアルバムが並んでいるのを見つけた。そこには挟むように文集も一緒にあった。

「やっぱり先生持ってた。文集を見ると、・・・・・・、やっぱりあの字は中山よ。」

 中山の字はちょっと丸みがかった字で、山崎は教科書のような字だった。

「しかしハンチョウどうして山中の卒業文集があるんですか。ずっと学校に来てなかったんですよね。」

「梶野先生は優しかったからきっと家までプリントを届けたのよ。でも文集は書いて写真は撮らなかったのね。本当嫌な女ね。私は今も嫌いよ。でもやっと法で裁ける時がきたの、絶対に後悔させてあげるんだから。」

 安積は力強く手を握った。


 家宅捜査を終え署に戻って来ると、安積は鑑識係に文集と岡田が書いた安積宛ての手紙を渡した。結果が出るまで安積は高校時代の卒業文集や、アルバム、中山に書かれた手紙を見ていた。

「安積さん、鑑識の結果挙がりました。ちょっと変化はありますが、癖は同じです。」

 安積はお礼を言って中山の取り調べに向かった。

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