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強行犯特別捜査班 Final  作者: 村雨海香
4/9

イジメ捜査 4

 話し終えると安積の心は何故か重く沈んだ。これは今までの経験の一部にしかならないからだった。小学生の頃や中学時代をもっと深く掘ると、わかるのだった。

「まさかハンチョウの首の傷はその中山マナミにやられたんですか。」

 結城が口を開いた。安積の首元には少し深めの傷があるのだった。安積は深呼吸していった。

「そうね、やったのは中山じゃあないけど、作戦を言い出したのは中山よ。あの時やった子の手は震えていたは。今も覚えてる、小さな声で『ゴメン、ゴメン』ってずっと言ってた。髪切りの作戦に出たのも中山だったは。切られたのは金曜日。土日に切った事になってたは。」

「親は何にも言わなかったんですか。」

「その時親は共働きで、私は自由だったの。美容院も自分で行ってたし、ご飯も一人で食べる事が多かったしね。」

 安積は一人で過ごした時間が多かったのだった。それに替わって今は強行犯係のみんなが家族だと安積は思っている。安積は服の袖をめくり腕を見せた。

「みんなも知ってると思うけど、これはリスカの跡よ。血管を切れば死ねると思った。でもその時神様は私を救ってしまったの。だから私は今も生きてる。鎖骨を切られた時に逝ってしまってもよかったのに、あの子は少しずらして切ったから、そんな大惨事にならずに済んじゃったの。あの時逮捕されたらよかったのに。何故か送検されなかったのよ。多分そんな大怪我じゃなかったからだと思うの。」

 班員は黙って話しを聞いていた。安積は淡々と話し続けた。

「中山はね、自分では絶対に動かない誰かを利用する卑怯な奴なの。三年のとき同じクラスになったときは正直怖かったは。今度はなにされるんだろうって。でもねあいつはずっと学校を休んだの。卒業アルバムにも写真が載ってないのよ。それにね、あいつどっかで肩壊した見たいで中学の体育大会で踊るソーラン節が踊れないって泣き出したのよ。正直私笑いそうになったは。踊れない位で泣くなんて子供じみてるって。でもうちのクラスはみんなあいつがいないとこで散々笑ってたわ。練習が終わっても泣いてたから靴持っていってあげたのに、お礼の一つも無かったのよ。本当礼儀がなってないは。」

 安積は淡々とおもしろい話しをするように話した。安積の心はさっきと打って変わって晴れやかになっていた。中学や高校で誰にも言えなかった事が今この強行犯係で話せているのだ。

「もしかしたらこの事件も裏で中山がいるかもしれない。今から行きましょ。ケイト、私の事が心配なら、今回私と組んで捜査して頂戴、それなら良いでしょ。」

 結城は身体が熱くなった。憧れの人であり、好きな人と一緒に捜査できるのはうれしい事だった。

「私とケイトは渋谷の居酒屋方面、ハルとヒロ、ナツホとナカは代々木公園の聞き込みに行ってきてちょうだい。」

『はい。』

 返事をすると班員達はみんな刑事部屋を飛び出して行った。安積と結城も後から遅れて部屋を出て行った。


 安積と結城は、岡田が行ったと思われる居酒屋に聞き込みに行った。渋谷の中でも居酒屋は多い。一軒一軒回るのは大変だった。だから、終電まで空いている店に絞り込み、聞き込みに向かった。

「仕事中すみません。ーー署の安積と言います。昨晩この女性こちらの店に来ましたか。」

「ああ、来たよ。結構お酒飲んでたな。」

 奇跡的に一発目で目撃情報を得ることができた。更に運がよく店の店主が覚えていた。

「うちによく来る常連客てか毎日来る常連の友人だったから覚えてたんだ。まあ、何度かうちの店に来てくれてるから名前も覚えてるよ。岡田寛子さんですね。」

「昨晩どんな人たちと飲んでいましたか。」

「学生時代の友人じゃあないかな。常連と言ってもそこまでは詳しくないんだ。まあ友人四人と飲んでたよ。今日ももうすぐ来るんじゃないかな。何時も仕事終わりの八時に来るんだよ。」

 安積と結城が時計を見るともうすぐ八時だった。

「職業はなにかご存知で。」

「確か製造業で休みが少ないって愚痴ってたな。」

 外から女性の明るい声が聞こえ始めた。

「あの人達だよ。」

 入ってきた女性達は、座る場所が決まっているように、流れて座って行った。安積と結城は女性達が座った机に向かった。

「すみません。ーー署の安積と結城ですが、少しお話よろしいですか。」

 女性達は少し驚いたが、話しをしてくれた。

「あの、お名前は。」

「時計周りに、宮崎晶子、桜木温子、片瀬典子、私が、広瀬直子です。」

「では、岡田寛子さんとの関係は。」

「寛子とは大学からの知り合いで、私たちみんな製造業で働いてるんだけど、寛子だけ中学教師の道を選んだの。まああの子大学時代から天文学が好きだったからね。」

 広瀬直子が話しをした。

「あの日岡田寛子さんに変わったことはありましたか。」

「そういえば、あの子普段飲み会のときはあんまり昔の話しはしないのに、あの日はずっと二十年前の話とかしてたは。後、旦那さんの話しもしてたは。」

「旦那さんの話しですか。」

「そう、寛子は十年前に旦那さんを病気で亡くしているんです。」

 安積はは衝撃を受けた。あんなに仲がよかった夫婦にこんな残念な別れが来てしまったから。

「ハンチョウ、大丈夫ですか。」

 安積は考えこんでしまっていた。

「あっ、ゴメンケイト。そのほか変わったことはありませんでしたか。」

「そうね、過去を振り返っていただけで他はなにも変わりありませんでした。」

 安積はお礼を言って店を出て行った。

 店を出るとすぐ側にあった細道に入った。安積は嗚咽をもらしながら泣いていた。

「ケイト‥‥‥、先生は本当にオルフェウスになってしまった。過去を振り返ってしまったから。ハルの予想が当たったのよ。」

 結城はゆっくり安積を抱き、落ち着かせた。

「一人で抱え込まないでください。岡田寛子さんの無念を晴らしましょう。」

 安積は頷いた。結城は竹内と永尾に連絡を入れた。


 代々木公園に来ている竹内永尾楢野中野は、岡田寛子の写真を見せながら聞き込みをしたが、全く目撃情報を得ることができなかった。

 竹内と楢野は聞き込みをしながら、話しをしていた。

「ねえ、なんで岡田寛子さんは家と反対の代々木公園に来たのかしら。」

「確かに気になります。そのまま真っすぐ帰ってれば殺される事も無かったのに。」

「岡田寛子さんを殺した犯人とハンチョウを襲った犯人は一緒だったりしないかな。」

「どうしてですか。」

「ほら、ハンチョウも岡田寛子さんも同じ目黒でしょう。だからもしかしたら二人をよく知っている人物かもしれないと思って。後ねもう一つ思った事があるの。岡田寛子さんはどうして目黒に引っ越して来たのか。」

「確かにそうですね。十年前‥‥‥。」

 竹内はあっと大きな声を出した。

「ハンチョウが目黒に住んでたのを知ってたんじゃないかな。なら、旦那さんが亡くなった十年前に引っ越してきた事と繋がる気がするの。」

「確かにそれは考えられますね。でも何処でそれを知ったのかですよね。」

 それに関しては竹内も頭を拈った。そこだけがわからないのだった。

 永尾中野の聞き込みは、うまくいった。男性が一人昨晩は遅上がりでこの公園を通ったときに、岡田寛子が殺されていた場所で袋を開けている人がいたそうだった。ちょっと小太りで背は百五十五センチ程だった。

「何をしていたか見えましたか。」

「いえ、少し様子を伺いながら歩いていると、何かを呟いて睨まれたんでわかりませんでした。」

 永尾も中野も引っ掛かった。どこかで聞いた台詞だった。

「時間を覚えていますか。」

「はい、午前二時でした。」

 礼を言うと、永尾中野は竹内楢野のところへ戻って行った。

 竹内楢野、永尾中野は合流すると、聞いた話しをした。

「さっきね聞き込みしてたら、目撃者がいたの。午前二時頃その人は岡田寛子さんが殺されていた付近で袋を開けていたそうなの。でも、様子を伺いながら歩いていると、なにって言って睨みつけたそうよ。そんな常識外れは多分あの人よ。ハンチョウの言ってた。」

「中山マナミですね。中学の先生だったらよく知ってますし、一番恨みを持っていてもおかしく無いもの。」

 竹内楢野永尾中野は安積結城に伝えるため、急いで署に戻った。


 署にもどって来た安積達は、緊急会議を開いた。

「真帆詳しく説明してちょうだい。」

「はい、目撃情報の結果ですが、男性が一名岡田寛子さんが殺されていた付近で袋を開けているのを目撃したそうです。しかし様子を伺いながら歩いていると、なにと言って睨みつけたそうです。」

「‥‥‥中山。」

 安積は小さく呟いた。

「その可能性があります。それと、死亡推定時刻と目撃時刻がズレているのでおそらく何処からか運ばれて来たのでしょう。」

 ホワイトボードには新たな情報が書き込まれた。全く謎が解けない嫌な事件だった。


 その日安積達は帰宅した。当直は結城と楢野だった。

 安積は岡田寛子の家の方を回ってから、家に帰ろうと考えていた。そしてあの公園に入った。そこで安積は血痕を発見した。ブランコと木の根本に赤い物が光っていたのだった。安積は結城に連絡をしようとしたとき、結城から電話が繋かってきた。

「ハンチョウ、管内の公園で男性の遺体が発見されたそうです。」

 安積はとっさに反応した。

「まさか。また先生じゃあ。」

「それは臨場しないとわかりません。私とナリは現場に急行します。」

「私も行くわ、現場で合流しましょう。」

 安積は結城ので答を聞かず電話を切って走り出した。


 現場には野次馬が群がっていた。安積は白の手袋、靴カバーをつけると黄色いテープを潜って行った。既に結城と楢野は現場にいた。結城と楢野はしたを向いたまま喋ろうとしなかった。

「遺体の身元は。」

 安積が聞くと、結城は鑑識にもらった免許証を見せた。

「東雲弘康さんです。ハンチョウの高校の恩師です。」

 安積はなにも言わず免許証を突き返した。安積は遺体の側に膝を着いた。

「なんで、なんで今頃私復讐されないとダメなの。なんで私を直接狙わないで間接的に狙うの。」

 とても見ていられなかった。結城も楢野も奥歯を噛み、鞄の紐を握り締めた。

 楢野は現場に残り、結城は安積を家まで送った。


 翌朝安積は家を出るのが億劫だった。自分の恩師の捜査なんてしたくない、そう考えていたのだった。安積は殆ど寝てない身体を起こし、シャワーを浴び、重い足取りで署に向かった。

 署に着いたのは、最後だった。誰も安積に触れなかった。しかし安積達の仕事は決まっている、聞き込みや現場検証だ。結城が班員に仕事を振った。竹内楢野は現場検証、永尾中野と安積結城は聞き込みに行くことになった。

 安積と結城は公園へ行くため人の多い通りを歩いていた。

「目黒の思いでの公園に血痕があった。」

 安積は小さく呟いた。結城は聞き逃さなかった。

「先生は代々木公園で殺されたんじゃなくて、目黒の公園で殺されたのよ。中山が先生を殺して代々木公園に運んで遺棄したのよ。許せない。」

「岡田寛子さんの話しは置いておきましょう。今は目の前の東雲弘康さんに着いて調べましょう。」

「東雲弘康六十歳還暦よ。高校数学教師でIQが高い。結婚していて一人娘がいる。奥さんは同じ大学の同級生で職業も同じで教師よ。」

 安積は東雲の紹介をした。結城はしっかり話しを聞いていた。安積が誰かとぶつかった、その時。

「うっぐ、‥‥‥。」

 安積が苦しみ出した。

「ハンチョウ、どうしたんですか。っは、血が。」

 安積は何者かに腹部を刺されたのだった。通り魔にあったのだった。結城は急いで救急車を呼んだ。安積は総合病院に搬送された。

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