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強行犯特別捜査班 Final  作者: 村雨海香
2/9

イジメ捜査 2

 翌朝安積が目を覚ますと、署内放送が入った。

『ーー署管内より、女性の変死体を発見。捜査員は至急代々木公園に急行せよ。繰り返す・・・・。』

 結城竹内永尾楢野中野は飛び起き、鞄を持って飛び出して行った。安積も跡を追うようにジャケットを羽織り鞄を持って出て行った。

 代々木公園に着くと地域課が立っていた。その周りには野次馬が集まっていた。安積達はKeePOutのテープを潜り現場を見た。

「女性の身元は。」

 安積は近くにいた鑑識員に声をかけた。

「岡田寛子さん五十六歳、中学教師で目黒区のアパートに住んでいます。」

「死亡推定時刻は。」

「昨晩の午後十一時から午前零時位です」

「ありがとう。にしても綺麗な装いね。どこかに行ってたのかしら。」

「それが携帯電話がなくなっているんです。監察医に詳しく調べて貰えれば何か解るかも知れません。そろそろ遺体を運びます。」

「いいわよ。何かわかったら連絡を頂戴。」

 女性の遺体は収納袋に入れられ運ばれた。荷物も押収されていった。そこに残ったのは不思議な血痕のみだった。

「おかしいですね。」

 竹内が呟いた。

「そうなのよこの事件おかしいわ。」

 永尾も首を傾げた。

「そう、あんなに刺されていたのに血の量が少な過ぎるの。」

 岡田が死んでいた場所は血溜まりが無かった。どこからか引っ張られたのかと思ったが、その血筋は無かった。

「不思議ね。まあそれは後にしましょ。ハルとヒロはこの周辺の聞き込み、ケイトとナカは岡田さんの職場ーー中学に話しを聞いてきて。ナツホと私で目黒の家に行ってみましょう。」

『わかりました。』

 各自散っていった。


 結城と中野は岡田の勤めるーー中学に行った。しかしその日は日曜日でほとんど先生がおらず、部活動をしている生徒や先生しかいなかった。事務室に顔を出すと、教頭が出てきた。

「教頭の安田博人です。」

「ーー署の結城と中野です。岡田寛子さんの事ですが。」

「うちの岡田がどうかなさいましたか。」

「実は今朝、代々木公園で遺体で発見されました。」

「岡田先生がですか。確か今日部活の練習があるのに来ていないと聞いています。」

 安田はそんなに驚かなかった。結城は質問を続けた。

「部活動は何を。」

「ずっとソフトテニス部の顧問だったんですが、今年からバスケットボールの準顧問になったんです。」

「練習はどこでされているんですか。」

「えー、確か今日は体育館の使用が当たってなかったはずなんで、中庭で練習していると思います。案内します。こちらです。」

 結城と中野は安田について行った。その間質問をしていた。

「岡田さんは何の授業を担当していましたか。」

「理科です。地学が好きな先生でした。ここです。」

 バスケットボール部は中庭で筋力トレーニングをしていた。

「中原先生、刑事さんがみえてます。」

 顧問の中原はこちらへ駆け寄った。

「ーー署の結城と中野です。」

「顧問の中原紗織です。どうして刑事さんが。」

「実は今朝岡田寛子さんが代々木公園で遺体で発見されました。」

 中原は口を押さえ、目を麗した。

「寛子先生がですか。寛子先生は殺されるような人じゃありません。だってみんなを平等に見て、贔屓しないとっても優しい先生だったんです。」

 中原は涙を流し始めた。とても事情を聞ける状態では無かった。

「すみません。また別日にお話を聞かせていただきます。では、失礼します。」

 結城と中野は頭を下げ学校を出て行った。


 竹内と楢野は岡田の目撃を追っていた。しかし目撃情報は出なかった。

「ねえヒーちゃん、この事件どう思う。」

「そうですね。まだ初動捜査なのでよくわかりません。」

「私ね、多分ただの殺人事件じゃないと思うの。全く根拠は無いんだけどね。なんか胸の辺りがこう、何かがぐるぐる回っているのよ。」

「胸の内がですか。」

「そう。あと、寛子さん綺麗な装いだったでしょ。もしかかすると誰かと会ってたんじゃないかな。例えば男とか、友人とか。」

「確かにそうですね。昨日は土曜日なのでお酒でも飲んでたのかもしれませんね。」

「代々木公園になにしに来たのかが気になるのよね。やっぱりオルフェウス座かな。」

 竹内があの話しを振替した。昨日安積が一瞬だけ見えた星座の話しだった。

「オルフェウス座って、エウリュディケが散歩中に襲われて逃げている途中で蛇に噛まれて死んでしまうの。でね、オルフェウスは、黄泉の国の支配者ハデスのもとへ行き、エウリュディケを連れて行きたい、と願い出てねハデスは二人が地上へ帰りつくまで、彼女をふりむいてはならない、という条件で願いを聞き入れたの。でもね、オルフェウスはついてきてないか心配になり振り返ってしまったの。そしたら彼女は硫黄の国へ吸い込まれるようにして消えてしまった。それ以来オルフェウスは女性を見なくなり、最終的には手足を裂かれ顔と琴は川に投げ捨てられたっていう話しなの。まあ最後幽霊になったオルフェウスは硫黄の国でエウリュディケに会うのよ。」

「竹内さん詳しいですね。岡田さんは何かから逃げていて代々木公園で襲われた。もしくは何か振り返っては行けない事を振り返ってしまったということですか。」

「うん。私はそう考えてる。この話ハンチョウにしてみようと思うの。もしかすると本当に神話の話かも知れないからね。」

 楢野は竹内の考えている事が解るようで、わからなかった。聞き込みの成果は無かったが楢野はおもしろい話が聞けたと感じてていた。


 安積と永尾は岡田寛子の目黒の家に来ていた。岡田の家はアパートで誰かと一緒に暮らしている感じが全くしなかった。ノックをしても返事はなく無音だった。そのうち隣人が顔を出した。

「あの、どうかしたんですか。」

「あの私たちーー署の安積と永尾なのですが、こちらにお住まいの岡田寛子さんについて何かご存知ですか。」

「岡田さんに何かあったんですか。」

「実は今朝岡田寛子さんが代々木公園で遺体で発見されました。岡田さんと何か関係が合ったのですか。」

 隣人の女性は少し考えてから話しをした。

「岡田さん今から十年前ぐらいに引っ越して来たんです。わざわざ贈り物も届けたいただいたし。その時一人で来たので、独身だと思いました。いつも外で会うと挨拶してくれるし、時にはスーパーの安売りの情報も教えてくれるの。今娘が大学生でバイトしながら授業受けているんですけど、バイトから帰ったら時々食品がドアノブにかかっているらしくて、手紙には、ちゃんと食べて頑張って、と書いてあるそうです。娘は結構喜んでますし、そんなに恨まれる人じゃ無いと思います。」

 安積は何かを感じた。どうして還暦前の女性がわざわざ若者の街に近いとこに引っ越して来たのだろうか。離婚が原因や、学校へのアクセスがいいとかあるが、ここは少し駅から遠いい。安積も目黒住まいなのでよくわかる。しかし安積の住んでいるところは駅近だった。

「そうでしたか。ご協力ありがとうございました。では失礼します。」

 安積達は挨拶をして、岡田のアパートを離れた。アパートの近所で聞き込みをしたが、今日は日曜日。道路には子供一人遊んでいなかっか。仕方なく署に引き上げる事にした。


 安積と永尾が署に戻って来ると、結城中野、竹内楢野は戻って来ていた。安積達は捜査会議をするため、全面ガラス張りだが完全防音の会議室に入った。

 捜査会議はホワイトボードに写真が張られ、『岡田寛子殺人事件』と書かれた。今回ホワイトボード担当は中野だった。安積達は順番に報告していった。

「まずはケイト、岡田寛子さんの学校ではどうだったの。」

 結城は中野からメモを借り聞いた話しと混ぜて説明した。

「岡田寛子さんはーー中学でバスケットボール部の準顧問でした。準顧問になったのは今年四月からで、それまではソフトテニス部の顧問だったそうです。バスケットボール部の顧問中原紗織さんの話では、岡田さんは誰にでも優しく贔屓しない先生だったと言っています。」

「優しい先生ね。」

 安積は小さく呟いた。

「それと担当科目は理科で、地学の好きな先生だった見たいです。」

「そうなの。じゃあハルのところは。」

「私たちのところは、目撃情報を掴む事ができませんでした。そこで二つ仮説を立てました。」

 みんな竹内の話しを真剣に聞いていた。

「一つは、綺麗な装いだったので、昨日誰かと飲んでいた。友人あるいは男と考えました。そしてもう一つが星座です。」

 これにはみんなが反応した。安積が言った。

「どういう事なの。」

「昨日のハンチョウの話しです。オルフェウス座の神話はエウリュディケという女性が散歩中、襲われて逃げている途中で蛇に噛まれて亡くなってしまうんです。亡くなった婚約者を救うためオルフェウスは神にお願いをします。そのかわり彼女を振り返らないと言う約束をしたんです。しかしオルフェウスは振り返ってしまい婚約者は消えてしまうんです。それ以来オルフェウスは女性を見向きしなくなるんです。その後オルフェウスは手足を裂かれ、頭と堅琴は川に捨てられてしまうんです。でも幽霊となったオルフェウスは硫黄の国でエウリュディケに会うという話しなんです。それで私たちは、岡田さんは、誰かに追われていた仮説と何かに振り返ってしまった仮説を立てたんです。」

「でもそれはあくまでも仮説でしょ。」

 永尾が言った。彼女は元鑑識係のためどうしても根拠や正確性を求めてしまう。

「だから言ったでしょ、仮説だって。」

 竹内も言い返す。二人が喧嘩になりそうになっているところを楢野が止めた。

「すみません。今竹内さんが言った仮説は自分が言った事なんです。だからナツホさん、これは竹内さんの仮説ではないんです。」

 安積は手を叩いて注目させた。

「そこまでよ。今は会議中なんだから、報告が先よ。ハルは星座説ねわかったは。じゃあ私たちの報告結果ね。私たちは岡田寛子さんの家に行ったけど、岡田さんは五年前に目黒のアパートに引っ越して来たみたいなの。で、隣人の話では岡田さんは引っ越しの贈り物もしたみたいで、その時は一人で来たから独身とみたそうよ。それに隣人は大学生でバイトから帰ったら時々食べ物が玄関先に置いてあったそうななの。」

 中野はホワイトボードに書いた。

「それと岡田寛子さん私の知っている人と共通点が多いのよ。」

 中野の書く手が止まり、ホワイトボードを見ていたみんなも注目した。結城が問いた。

「どういう事ですか。」

「私が知っているのは、梶野寛子先生中学の時の担任なの。年齢も足したら丁度だし、教科も理科で同じ。しかも好きなのが地学っていうのも同じなの。誰にも優しくて贔屓しないそんな人そんなにいるかしら。」

「確かにそんなに一致する人はいないですね。一致しないとこはあるんですか。」

「一致しないのはまず名前。それから独身という二つなの。梶野先生は旦那さんとかなりいい関係だったのよ。でももしそうだったら、いったい誰が。」

 全員が頭を拈ったが、まだまだ証拠や証言が少なすぎて導くに導けなかった。

「これは長丁場になりそうね。定時で一度家に戻って夜に聞き込みに行きましょう。」

 定時を過ぎるまで、安積達は報告書作業に取り掛かった。そこに鑑識の報告書がきた。

「安積さん、岡田寛子さんの検死結果が出ました。」

「ありがとうございます。」

「検死の結果より岡田寛子さんは出血性ショック死で、体内から高濃度のアルコールが検出されました。手帖には渋谷の居酒屋で友人と書いてありました。それと安積さん宛に手紙が入っていました。」

 安積に白い四角の封筒が渡された。蝋燭を熔かした風のシールで封がされており、表には安積ミツキ様とーー署の住所が書かれていた。安積が封筒の中を見るとそこには思いがけない事が書いてあった。

「岡田寛子です。お元気ですか。私は定年前のおばさんになってしまいました。安積さんも、もうおばさんと言われる年齢ね。今貴方は何をしているのかしら。社会に貢献していればうれしいわ。今の貴方はイジメを受けていないかな。もし時間ががあればお返事ください。文通したいけど、時間がないかもしれないから、私の電話番号とメールアドレス書いておくわね。特別よ。梶野寛子改めて岡田寛子より。『この人が死んだのは先生のせいでもあるけど、あんたのせいでもあるのよ。』」

 安積は涙を流しながら読んでいた。しかし最後の字は岡田寛子と全く違う字だった。

「ごめんなさい、でも堪え切れなくて。鑑識さんこの手紙もらっていいですか。」

「いいですよ。」

 安積は手紙と鞄を持って部屋を飛び出して行った。


 その帰り安積が家の側の道を歩いている時だった。突然背後から襲われた。安積はとっさに相手を突き放した。しかし相手は何度も突っ掛かってきた。フードを被って顔がよく見えなかった。組み合っているとき安積は相手の手に爪を引っ掛けた。しかし相手はポケットからナイフを出すと、一瞬にして安積の腕を切った。安積の腕から血が溢れた。相手の手にも血が光っていた。安積は最後の一手を打とうとしたとき、相手は逃げ出した。安積は爪の中に入った皮膚辺を一つのハンカチに包み、もう一つのハンカチで腕を縛りーー署に急いだ。

「石橋さんいます。」

「石橋係長なら帰られました。安積さんどうかしましたか。」

 安積はさっきハンカチに包んだ皮膚辺を渡した。

「これのDNA鑑定してほしいの。至急お願い。」

「わかりました。最優先で行います。」

 安積は刑事部屋に戻り一息ついた。その瞬間痛みが走った。腕を怪我したことを忘れていたのだった。

「はあ、やっちゃったな。」

 安積が机に突っ伏すと声がした。

「なにしているんですか。早く病院行きますよ。」

 目の前に結城がいた。安積は驚き飛び上がった。

「何で、いつの間に。」

「そんなことどうでもいいですから病院行きますよ。」

 そのまま安積は結城に引っ張られて行った。


 病院に行くと人は少なくすぐに順番がきた。傷はそんなに深くなかったが三針も縫った。腕に包帯を巻いて、三角巾を渡されたがそれは着けなかった。安積と結城が病院から戻ると、すでに他の班員は集まっていた。

「ハンチョウ、怪我大丈夫でしたか。」

「犯人の顔は見かしたか。」

 班員は言いたいことを口々に言っている。

「みんな、一回静かに。怪我はそんなに深くないから大丈夫。安心して。それより鑑識の結果報告きた。」

 竹内が出した。

「来ました。しかし一致した人物はいないようです。」

 安積は落胆した。もしこれで一致すればどれだけ楽だっただろうと。今安積はナーバスになっている。誰が自分の恩師を傷つけたのか、早く犯人を見つけたい。そ思っていた。

「ハンチョウ、貴方はここにいてください。今の貴方が夜の聞き込みに出るのは危険です。」

 結城は安積の聞き込みを止めた。しかし安積は早く犯人を見つけだし法で裁きたいと思っていた。

「ケイト、嫌よ。私も捜査に出るわ。それに今度はナツホもいるのよ。」

 結城は机を叩いて言った。

「今貴方は命を狙われているのかもしれないんですよ。そんな状態で捜査に出ないでください。前も言いましたけど、貴方がいなくなっては困るんです。だから私の言うこと聞いてください。」

「じゃあ私は恩師が殺された事を黙って見てろって言うの。それなら私もオルフェウスみたいに死んで向こうで一緒に暮らしたいわよ。あの人も高校の恩師も私にとってかけがえのない人なんだから。」

 安積は結城に強く言った。二人は殆ど争うことは無い。しかし安積は仲間が危険な目にあったり、仲間にひどい目に遭わされたりすると、容疑者だろうが同業者だろうが関係なく言うのだった。しかし最近は仲間内で喧嘩することが増えていた。得に結城は多かった。

「わかりました。貴方を出さない代わりに私たちも出ません。その代わり貴方と先生の関係を教えてください。」

 結城は真っすぐ安積をみた。わかったと言うと安積は話し出した。

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