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 瀬野と別れて一ヵ月で、瀬野は仕事を退職した。突然の出来事で、退職理由もよく分からなかったが、俺としては有難かった。やはり毎日仕事で顔を合わせるだけで胸が締め付けられたし、瀬野と会わなくていい環境は寂しかったが、寂しさよりも会った時の苦しさの方が大きかった。


 俺は瀬野に本気で恋をしていた。こんなに自分の感情を持て余す事があるなんて初めてだった。相手が自分の事を想ってくれていなくても一緒にいたいなんて思うとは、今となっては自分を愚かだと思う。

 瀬野の事を忘れようとすればするほど、可愛い顔が浮かぶ。その度チクチクと胸が痛み、瀬野の事を思い出してしまった自己嫌悪に陥る。

 思い切って、風俗にも行ってみた。ゲイ向けの風俗店で、瀬野に似ている人を指名した。悪くはなかった。ほんの少しだけ、前に進めた気がした。

 ゲイのアダルトビデオも買い漁り、自分を慰めた。



 そして、俺は女性に興味が持てないと悟った。性的対象として見ているのは男性だと実感する。二十七歳の秋だった。



 新しい彼氏が欲しいとは思わない。別れて傷付くのが怖いから。それに、一人でいる方が気が楽だし、自分の好きな事を好きなように出来るのが俺の性分に合っているから。


 ただ、同じ事の繰り返しの毎日に飽きてきていた。飽きていても、何も行動を起こせない俺は、あっという間に三十路になった。

 今後の人生も大して面白くない毎日を過ごすのだろう、と思っていた。一通のメールが、それを変える。


『康幸さん、お久しぶり。僕のこと、覚えてるかな?いや、そもそもメールアドレスが変わってて、このメールは届かないのかもね。でも康幸さんって、そういうの面倒臭がりそうだから、届くって信じてる。ごめんね、関係ない事だらだらと書いちゃって。僕、小林です。なんでメールなんかしてくるんだ?って思うよね。康幸さん、今はどうしてるのかな?って気になっちゃって。カナエからは辞めときなよって言われたけど、このメールが届かなければ諦めもつくし、届いても返信が来なければ、この康幸さんのアドレスは消すから安心してね。僕は今も東京で暮らしてるけど、康幸さんも東京かな?よかったら今度ご飯行かない?美味しいナスの味噌汁を出してくれる定食屋さん見つけたの。お返事、待ってます』

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