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「特に何もないですが、寛いでくださいね〜」

蕎麦を食べ終え、そのまま瀬野の家にやって来た。瀬野の匂いで満たされた部屋は、必要最低限の物でコンパクトにまとめられている。


「あの新発売のコーヒーにハマっちゃって、普段買い溜めとかしないんですけど、いっぱいストックあるので飲みません?」

プシュッとステイオンタブを開けて乾杯する。爽やかな香りが鼻を抜ける。


「康幸さんって、普段何をされてるんですか?」

「ゲーム」

「へぇ。何か意外です。康幸さんって、読書とかクラシック聴いてたりするのかなぁって思ってました」

「クラシックって…」

俺へのイメージが不思議過ぎて思わず笑った。

「わぁ可愛いなぁ。康幸さん、イケメンなんだから、もっと笑えばいいのに」

ストレートに褒められてドキッとした。少しの間があって、瀬野が口を開く。


「康幸さん。好きです。友達としての好きではなく、恋愛感情の好きです。…何となく、ですが、康幸さんも同じ気持ちだと思ってます。僕達、付き合いませんか?」

これまたストレートな告白。正々堂々とした態度に、初めて瀬野から男らしさを感じた。心臓がバクバクうるさい。これは現実なのか一瞬分からなくなる。顔が火照る。うまく言葉が発せられず、コクっと小さく頷く。何故だか自分が女々しくて恥ずかしい。告白された喜びで泣きそうになるのを堪える。色々な感情が一気に波となって溢れてくる。


「YES…ってことでいいですよね?」

そう瀬野が囁くと俺にキスをしてきた。爽やかでほろ苦い香りがした。



 瀬野に告白をされたその日に、俺達は一つになった。小林の時には出来なかった、丁寧な愛情を持ち寄って。




 甘い毎日は、そう長くは続かなかった。俺は雰囲気を作るのが苦手なため直接的に誘うが、瀬野はそれを拒むようになった。何がいけないのか理由が分からなかった。二人でいる時間も、瀬野はスマホを触り心ここにあらずで、俺は苛立ちと悔しさと悲しさをどこにもぶつける事が出来なかった。瀬野と話し合うべきなのか考えたが、別れ話に発展するのではないかと想像してしまい、怖くて出来なかった。こんな関係性でも瀬野が好きで好きで堪らないし、いつか付き合う前のように俺に興味を持って接してくれる日が来るのではないかと淡い期待を抱いている。

 ずるずるとこんな状態が続いていたある日。瀬野の家で特に何をする訳でもなく一緒にいた。居心地は悪いが、一緒に居られるだけで良かった。お互い無言だったが、瀬野がふっと口を開く。

「康幸さん、僕達別れましょ。…僕、他に好きな人できたから」

「え?」

突然、何の前触れもなく別れを切り出され、頭の中は整理できないでいた。

「僕ってぇ、ちょっと変わってて、付き合う前まではすごく相手の事好きなんだけど、付き合えた途端冷めちゃうの…。康幸さん、変わってるし、すごく気難しいから、付き合えるまではすっごく楽しかったけど…。案外簡単に付き合えちゃったから萎えちゃった」

言葉の意味を理解出来たのは、瀬野の家を出て一人になってからだった。

 言われた瞬間は意味が分からず涙も出なかった。ただ呆然と瀬野の自分語りを聞いていた。今まで、付き合いたいと思った相手とは必ず付き合えていた事、瀬野が今好きな相手は既婚者の子持ちである事、俺と付き合う前より楽しくてワクワクしている事…。自分の心を守る為に、言葉の意味を理解しないようにしたのだろう。


 帰り間際に瀬野からもらった缶コーヒーを飲む。苦くて泣いた。

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