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小林と別れ、時々大学内ですれ違う事もあったが、小林の態度は別れる前より明るかった。これで小林にとっても良かったのだと思う。数ヶ月後に小林が新しい男と付き合ったと、カナエから直接聞かされた。何でも、相手の男からの猛アプローチで、小林はあまり乗り気ではなかったようだが、カナエが「今のともちゃんには、愛してくれる人がいいよ。いいじゃん、付き合ってみて合わなけりゃ別れればいいんだし。相性良ければ続くんだから」と推して付き合うことになったんだとか。「良かったな」と返したら「それで終わり?やっぱ、別れて正解だわ。ごめんね、期待したアタシがバカだった。じゃあね」と言われた。カナエの後ろ姿を見ながら俺は、きっともうカナエと関わる事もないだろうと悟った。小林がいたから生まれた関係だから、小林と別れてしまえばカナエにとって俺の事はどうでもいい存在のはずだ。少し肌寒さを感じる十月。明日は少し暖かい服を着よう。
俺は小林と付き合う前と変わらない淡々とした日常に戻り、就職活動に追われた。
何度も面接で落とされた。愛想良く受け答えなんて出来ないし、根が暗いのがマイナスポイントだと自分でも感じているが、これが俺の性格だ。
そこまでやる気もないが内定をもらった商社に入社し、俺の苦手な営業部に配属されてしまい、俺なりに我慢して来たが、取引先のワガママに我慢出来ず、「いい加減しろ、クソ野郎」と怒鳴ってしまった。
その後、俺の上司が謝罪をしたそうだが、俺はその取引先の顔も見たくないし、絶対に謝りたくないから辞表を出して一年で仕事を辞めた。俺にしてみれば、よく我慢してきたと思う。その後半年くらいは、何もする気が起きず、実家でニートをしていた。いつ父の怒号を浴びせられるかヒヤヒヤしたが、父さんは俺に対して終始無言で、何を考えているのか分からなかった。母さんは「そろそろ何かアルバイトとかでも始めないと、お母さん達が死んだら康幸どうするの?」と心配してくれた。「その内働く」と返し、居ずらくなり家を出た。する事も無く、近所の公園のベンチに座り虚空を見つめる。
(確かにこのまま何もしないでいるのはいけないよな…)
俺自身も焦っていない訳ではなかったし、このまま親の脛を齧り続けるのもいけないと思っていた。俺は、重い足取りでハローワークへ行った。いろいろなアルバイトの中で、接客とかはしたくないから、ビルの清掃の仕事に面接した。人手が足りないらしく、すんなり採用された。その職場は、俺以外全員五十代以上で、人と関わる事が苦手な俺からしたら、過ごしやすい環境に思えた。最初は、掃除用具の使い方や掃除の方法がいろいろあり、覚える事に苦戦したが、人と関わる必要性があまり無いため、天職に思えた。今更になって、よく営業の仕事をしていたな、と関心さえする。二年くらい経ったあたりに、この職場に珍しく二十歳の男がアルバイトで入って来た。




