表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/21

1

 三十八歳。ゲイ。一人暮らし。



 え?俺のモーニングルーティンを教えてくれ?何で?――や、YouTubeで流行ってるからって、これビデオ通話じゃん。―――まあ、別に暇だからいいけど。

 俺は、まず朝起きたら歯磨きをする。口の中をリフレッシュできるし、風邪予防に良いと、本当か嘘か分からないが聞いた事がある。その後テレビを点けて、耳でニュースを聞きながら、コーヒーを淹れる。電気ケトルに水を入れ、スイッチを押す。スーパーで買った一番安い顆粒タイプのインスタントコーヒーをマグカップに一杯入れる。


 ぼーっとしてるとさぁ、テレビからよく『芸能人の〇〇が不倫した』とか、俺の人生には一ミリも影響しない内容を、コメンテーターが暑苦しく語ってたりするんだよ。芸能人に興味が無い俺からすると、逆にその熱意に尊敬するよ。俺は、今まで生きてきた三十八年間、全力で物事に取り組んだ事もなかったし、頑張ってる奴を見ると暑苦しいな、とか、よくそこまで熱中出来るよな、とか思ってた。―何?そういうのは要らない?モーニングルーティンと違うって?知るか。俺は他人のモーニングルーティンなんか興味無いから、見た事なんてねーんだから。


 俺は他人に合わせて愛想良く笑顔を作ったりも出来ないし、一人でいる方が気が楽だし、自分の好きな事を好きなように出来るのが俺の性分に合っている。


 そんな事を考えている間に、とっくにお湯は出来上がってて、マグカップに注ぐ。息を吹きかけて冷ましながら、そーっと飲む。美味いよ。安いインスタントコーヒーだけど、お湯を注いで作る、という一手間をかける事で、何倍も美味しく感じる。そしてキッチンに置いてあるバナナを一本食べる。食べ終わったら、シャワーを浴びて、再び歯ぁ磨いて、仕事に向かう。大体こんな感じ。―――笑うなよ!歯は朝から二回磨くよ!俺の勝手だろ。





 俺は大学生の時まで、自分はノンケ(異性愛者)だと思っていたが、特に好きな女の子も居なかった。

やりたい事も、なりたい職業も無く、親に勧められた大学へ行って、淡々とした毎日を過ごしていた。

 普段から一人で行動していたため、友達なんていなかったが、図書室で読書をしている時に、後ろに座っていた四、五人のグループがこそこそと話をしていたのを盗み聞いた。最初は聞くつもりなんて更々無かったが、

「〇〇学科の小林くんって、ゲイなんだって」

というのが聞こえた瞬間、俺は話の続きが気になって仕方なかった。他人なんかに興味なんて無かった俺が、何故こんなに気になってしまうのか、自分でも自分の事が分からなかった。


 “ゲイ”がいるなんて、絵空事だと思っていた。同性愛者、男で男が好きな人…ゲイという言葉は知っていたが、こんな身近に存在するのかと驚いた。

 小林は、パッチワークのサークルに入っていて、大学の近くのファミレスでアルバイトをしている、とのことだった。どんな奴なのか気になった俺は、ひと目見てみたいという気持ちに駆られた。だが、男の俺がパッチワークのサークルに行くのはハードルが高過ぎるため、小林が働いているファミレスに行く事にした。


 一日目。顔が分からないため、男の店員がいれば、それとなく名札を見て苗字を確認する。小林は居ない。キッチンではなく、ウェイターとして働いていると聞いていたため、もし今日シフトに入っていれば会えるはずだが、三時間を超えた辺りで、長居している事に気が引けて帰った。


 二日目。再びファミレスに来た。小林は見当たらない。俺は、普段人と関わる事自体を避けて生きてきたため、何故そんなに会いたいと思っているのか、自分でも分からなかった。結局その日は一時間くらい滞在して会えずに帰った。


 三日目。流石に今日会えなければ、諦めようかとも考えていた。しかし、ファミレスに入った途端、

「いらっしゃいませ〜」

と一際特徴的な声で発声している店員が居た。名札を見なくても分かる。これが小林だ!明らかに、鈍感なタイプの人間でも感じる違和感。仕草が柔らかく、声も高め。近くで見た時に気付いたが、顔も化粧をしている。今でこそ、男で化粧をしている人も普通に居るが、当時は男が化粧なんて考えられなかったと思う。そして、柔軟剤の匂いなのか、ベリー系のほのかに甘い香りが漂う。飲食店で匂いを発していいのか、と思うだろうが、決して主張が激しい訳では無く、食事をしていても嫌味に感じない、清潔感がある香りだ。身長は、百六十センチくらいだろうか。男にしては小さめで、体も細い。化粧をしている顔は更に白さを増しているが、地肌も白い。化粧も決して濃い訳ではなく、近くで見ないと分からないくらいで、目鼻立ちもしっかりしている。美形だ。思わず見惚れてしまった。


「ご注文が決まりましたらベルでお知らせください」

と語尾を上げて、ハイテンションで小林に接客された。こんなに綺麗な顔立ちでゲイなのか、と不思議な異世界にでも来たような気分になる。


 ピンポーン。

「お決まりですか?」

と大学生くらいの若い女性店員が来た。一日目と二日目と同じく、ドリンクバーとペペロンチーノを頼んだ。よく三日間も同じ物を頼むな、と自分でも呆れる。そんなにペペロンチーノが大好きな訳でもないが、食べやすいし、安くて早く提供してもらえるため、ペペロンチーノを頼む。目的も達成できたことだし、早く食べて早く帰ろうと思った。

 コーヒーが飲みたくなり、ドリンクバーコーナーに向かう。すると、小林がこちらを見ながら向かってくる。少したじろいでいると、

「お客様、失礼ですが靴紐が解けていますよ」と、いつもやかましいくらいに元気良く接客しているのに、声のトーンも落ち着いた小さめの声で言われ赤面した。勝手にこういうタイプの奴は、気も遣えないだろうと思っていたのに違っていたこと、靴紐が解けているという小恥ずかしい内容に、普段人と関わらないようにして来たため耐性が無いのとで、一気に顔に血が集中するのが分かった。何も言えず、ホットコーヒーが出来上がると、そそくさと自席に戻り靴紐を直す。


 (ペペロンチーノが来たら、急いで食べて帰ろう)


 頭の中はその事でいっぱいになり、コーヒーを口に運ぶ。

「熱っ」

普段ならコーヒーの温度を考えて、少し息を吹きかけて冷ましながら飲んでいるが、帰りたいという気持ちでいっぱいで、コーヒーの事は何も考えていなかった。コーヒーの熱さで、頭がクリアになる。舌を軽く火傷したようでジンジンする。

 俺は自分では気付かない内に、小林を目線で追っていた。若干オカマのような仕草をしているが、背筋はピンと伸びているため綺麗だ。誰にでも無条件に屈託の無い笑顔を向けている。俺には出来ない事だ。小林は接客が向いているんだな、と考えていると、小林と目線が合う。即座に目線を逸らす。


 何で目が合うんだ?

……俺がずっと小林を見ていたからか?俺が?

他人の事なんかどうでもいいと、常々思っていた俺が、小林に興味を持っているということか?…自分に驚く。


「お待たせ致しました。ペペロンチーノでございます」

突然目の前にペペロンチーノが出て来て、更に驚く。考え込んでいて、周りの音に気が付かなかった。しかも、ペペロンチーノを持って来たのは、小林。心臓に悪い。

「あの、…もしかしてお客様って、〇〇大学ですか?」

突拍子もなく小林に質問され、驚いた俺は飲みかけのコーヒーを床に落としてしまう。幸い、小林や俺に被害は無く、コップも割れなかったが、申し訳ない気持ちになる。

「申し訳ございません!お怪我はありませんか?」と、小林も慌てて謝ってくる。

「いや、俺が落としたんで…」

コップを拾おうと手を伸ばした瞬間、小林と手が触れ合った。

「あ」

「あ、すみません…」

小林にまた謝られ、小林がコップを拾い、溢れたコーヒーも手際良く片付けた。


 結局、同じ大学に通っている、と答えることなく、その日は帰った。

 しかし何故、突然、小林は俺の大学のことを聞いてきたのか謎は深まる。

処女作です。

文章の量は大体百文字〜五百文字くらいと少ないですが、毎日更新しています。コツコツ楽しみながら書いていますので、ぜひ読んでみてもらえると嬉しいです。

たま〜に読み返して修正なども加えています。誤字脱字などのご指摘や、ご感想などもいただけると超喜びます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 展開にドキドキします!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ