悪夢の始まり 2
昼休みになり、教室では仲間毎に整理区画され、不適格者の浩二は一人机の位置を動かさず、弁当を無言で口にほおばった。今までは何とも思わなかったが、今日は違う。苦痛だ。1時限目から4時限目までの間で一日分のカロリーを消費したかもしれないほどの疲労感を感じていた。1限目国語、2限目英語、3限目数学、4限目理科、全て座学だったにも関わらず、腹は体育をしたぐらいに減っていた。空腹をこれほど感じることは無かったかもしれない。浩二は無心でごはんを口にほおばった。原因は勿論、薫という転校生が来たからだ。 冷たい視線は次第に彼の体を食事中でも容赦なく浴びせられた。薫は昼飯の時でも常に周りには群れた同級生が輪になっていた。ただ何かしら感じる視線、背中の一ヶ所をレーザーで焦がされたような感覚が常につきまとっていた。
放課後、浩二は一目散に教室を出た。今日、あの転校生が来てから今までの学校生活が大きく変わってしまった。それも悪い方向だ。息苦しさえ感じた。だが、このまま家に帰ることは出来なかった。校門には、彼が薫が待ち構えていたのだ。ズボンに手を突っ込み、足を組みながら彼は浩二を見つけると微笑ながら近づいてきた。
「ねえ、一緒に帰ろうよ」 ひどく明るい声だった。
「嫌だ です」 浩二は声を絞り出した。
「どうして?」 薫は聞き返した。
「ぼ、僕はあなたとそこまで親密じゃないから。。だ」浩二は腹の底から絞り出すように答えた。
「悲しいこと言うね 僕は浩二君と仲良くなりたいんだよ」ため息をつきながら薫は残念そうに答えた。
「き、君はさ。。」と浩二が続けたところで
「薫でいい」と指摘が入った。
「か、薫君はさ、どうして僕と仲良くなりたいんだい」 震える声で尋ねた。
「僕と君は境遇が似てるからさ 転校してきた者同士じゃないか 自分と似た境遇を持つ人間に好意を持つ事は自然なことだと考えるけど違うかい」 薫はゆっくり歩きながら浩二に近づきながら話を続けた。
「き、君は僕と違ってイケメンだし話も面白いから、友達が既にいっぱいいるじゃないか 確かに転校してきた事実は同じだけど君の方が優秀で、僕は劣等している。簡単に境遇が似てるなんて言わないでくれ」 吐き捨てるように浩二は言った。
「ああ、クラスの蝿どもか あいつらは自分の事しか見えていない自己中心的なクズどもさ。見ただろう。あれは僕に近づいて付き合いたいというステータスを気にする雌バエの連中だよ。それに集る雄バエ。そんなやつらさ」
「ひ、酷い言い方をするんだね」 浩二は震えた。自分にも同じような感情を抱いているのだろうか。
「僕はね、あいつらがうるさいから蝿取り草になりたいんだ 蝿取り草になってあいつら蝿どもを除去したいんだ。こんな感じね」 薫君は指を鳴らした。すると後ろから大きな爆発が聞こえたのと同時に衝撃波が浩二の背中に当たった。 え、何で。浩二は混乱した。学校が爆発?嘘だろ。
赤い炎と黒い噴煙が見慣れた校舎から隆々と上がって来ている。そして校門に薫君の姿は無かった。