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ARCADIA ver2.00  作者: Wiz Craft
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 S22 希望の細光

 戦場へ駆けつけたマイキーとジャックは、荒れ狂う戦陣の中を一直線に駆け抜けそのまま敵の野営地へと向う。乱れ飛ぶ悲鳴にも、無情に。戦地に湧く犠牲者はこの際、看過するしかなかった。彼らの念頭に置かれた作戦はただ一つ。その作戦を思い当たるに当たって、そもそもこのクエストの指令を二人は思い返していた。


――君達の任務はこの荒原に存在する彼らの野営地の在処を突き止め、指導者を打ち倒す事にある。頭を失った蜘蛛は息絶える。それは組織とて同じ事だ――


 指令文を信じるならば、この争いにおける現在の唯一の希望は敵の頭を打ち倒す事。

 頭を失った蜘蛛は息絶える。敵の頭さえ討ち取れば、この苛酷な戦いに終止符を打つ事が出来る。

 視界の片隅では、今一人の女性冒険者が敵の矢弾の的となり地面へと崩れ落ちるところだった。その余りにも凄惨な光景にふと足を止めるジャック。


「足を止めるな、ジャック! こんな末端と争ったって仕方が無い。僕らが目指すのはあくまで敵の頭だ」


 崩れ落ち結晶化した女性の横顔に一瞬に既視感を覚えたのは気のせいだろうか。ジャックは頭を振り払うように、戦場を駆けるマイキーの後へと続く。

 戦況は既に大きく傾いている。このまま正面衝突を続ければ、冒険者達の敗北は必死だった。

 乱れ飛ぶ矢弾を必死に払い除けながら、ただただ野営地の入口を目指して走り込む。

 敵の指揮官は高確率で戦況の全景を見渡せる場所で指揮している可能性が高い。ただただ根拠も無いその可能性に全てを掛けていた。

 正直言って敵の指揮官であるグリーンゴブリンチーフが三人という少人数である可能性すら危うい。現在は分散してボナパルト達が攻略に当たっているようだが、彼らの活躍をただ期待して待っている様では、もはやこの作戦は成立しない。


「僕らで指揮官を倒すんだ」


 意気込むマイキーが正面から突撃してきた敵戦士を側面に流すと同時に、その胸元を短剣で抉る。体勢を崩した敵戦士を正面から斬り付けるジャックの強撃に今沈み落ちる一体のグリーンゴブリン。

 野営地は目前だった。最前線とも言えるこの地では、共闘する冒険者の数もほんの僅か。大量の光芒が迸る中、味方敵問わず、懸命に声を張り上げながら互いに切り掛かる。

 その中でも一際目立って背高で豪腕を振るうグリーンゴブリンが一体。敵の周りで冒険者達は頻りに掛け声を上げ連携しながら、波状攻撃を仕掛けていた。


――グリーンゴブリンチーフだ――


 敵の存在を視認すると同時にマイキー達の目の色が変わる。

 周囲の敵陣には目も呉れず、ただ目標に向って戦場を両断する。駆けつけたマイキーとジャックの姿に前線で戦っていた冒険者達は僅かに希望の色を浮かべる。


「助力か……助かる」


 そこには、この作戦の先導者であるボナパルト陣営の一人の冒険者ライザーの姿が在った。

 彼が前衛で敵指揮官と一対一の勝負を図り、周囲のゴブリン兵隊達の相手を残りの冒険者達が相手をする。


「もうすぐ、ボナパルト達もここへやってくる筈だ。頭さえ潰せば敵は崩れる。君達は周囲のゴブリンの相手を頼む」


 無精髭を生やした屈強な味方指揮官の言葉に頷くマイキー達。


――この人が居るならば――


 全てはその思いから、圧倒的に戦力では劣る前線において雑魚に向って突撃するマイキーとジャック。まさに全身全霊を込めて、肉体の限界まで力を引き出すつもりで戦場で吠える二人の姿に絶望に沈んでいた周囲の冒険者達も自然と鼓舞される。

 前線に存在する冒険者は僅か二十人にも満たない。対して、敵の勢力はその倍以上。五十体は固いと見られた。


「ジャック、集中撃破するぞ。まずは僕はこのスピードで敵陣営を攪乱する。お前はその盾を活かして敵の陣営に切り込め。まずはマジシャンから潰す」


 敵の中でも最もHPが低く、防御力も低い魔術師。加えて、その高い魔法攻撃力は早めに潰す必要がある。

 マイキーの掛け声を聞く前から阿吽の呼吸で動き始めていたジャックは、敵陣営に向かって駆け抜けるマイキーの姿を追う。激しく降り注ぐ矢弾を盾でジャックが弾き落とす中、マイキーは超人的な反射神経でそのほとんどを躱して行く。

 まさに背水の陣。凄まじい集中力を一時も切らせる事無く、敵の後方へと回ったマイキーは一直線に敵陣営を切り裂き、敵魔術師の一体にクリティカルヒットを浴びせる。

 大量の光芒が立ち昇る中、マイキーは間髪入れず連続で敵の胸元を突き刺すと、首元に手を回し敵狩人が放った矢弾に対して捕捉した魔術師を盾にする。全身に矢弾を受けた一体の魔術師が光芒と共に消滅すると、素早く間に割り込んだジャックがもう敵の攻撃からマイキーの身体を守るようにその盾で矢を弾き落とす。


「マジシャンはあと一匹、クレリックは二匹居る。潰すぞ」


 そんな二人の勇姿を見ていた数人の冒険者が援護に駆けつけ、敵の狩人陣営に切り掛かる。


「こいつらは俺達に任せろ。敵の戦士が来なけりゃこいつら程度俺達で殺れる」


 冒険者の言葉に振り向いたマイキーは「頼んだ」と言葉を返すと、そのまま詠唱体勢に入っていたもう一体の魔術師の顔面に斬り付け、同時に片腕を取り担ぐように背負い地面に叩きつける。

 ロッドを手から零したグリーンゴブリンが予期せぬ衝撃に口篭り、詠唱を中断するや否や馬乗りになったマイキーはその胸にバロックナイフを深々と突き立てる。


「ジャック、お前はクレリックを殺れ! こいつは僕一人でも後は殺れる」


 掛け声が飛ぶ中、宣言通り敵の身体の自由を奪ったまま、マイキーのその右腕に握られた短剣が再び振り下ろされる。巻き起こる光芒と共にまた一体のグリーンゴブリンが消えて行く。

 戦況が次第に変化を見せ始める。追い込まれた精神に火の付いた冒険者達の底力とでも言うべきか。

 数では圧倒的に上回る敵陣営ではあったが、僅か二十名の冒険者の精神が連中を凌駕し始める。

 だが、そんな冒険者の希望をまたも打ち砕くかのようにその凶刃は振るわれた。

 グリーンゴブリンチーフと一体一の戦闘を挑んでいた先発調査隊の指揮官の一人ライザー、無精髭のその男が苦悶の声を上げて地面に崩れ落ちる。

 赤く光り輝く闘気はパワーチャージの証。だがその輝きを纏っていたのは冒険者では無く、敵指揮官だった。


「指揮官!」


 駆け寄るマイキーの眼前で赤点滅を始めたライザー。そこに振り上げられるは鈍い輝きを放つ両手剣クレイモア。頭部の強烈な打撃を受けたライザーは脳震盪から身動きを完全に封じられていた。

 今俯き倒れるライザーの背中に向けて振り下ろされる敵の大剣のその軌道に誰もが目を伏せたその瞬間。

 戦場に一瞬の黒い影が舞い、振り上げた敵の両手剣を弾き飛ばす。


「指揮官が殺されては致命的。流石にこれ以上の流れは許せんよ」


 その奇跡的な救世主の姿に表情を崩すマイキーとジャック。

 真白な髭を撫でながら微笑を浮かべるその冒険者の姿には見覚えがある。あのラクトン採掘場での死闘で指揮権を握っていたあの老人。ジ・オングだ。

 倒れたライザーを抱きかかえるように癒しの光を当てるのは黒髪の女性はメサイアだった。


「ざっと戦況を見回してきたが芳しくないのぅ。だがボナパルト公らは既に二体の指揮官を討伐した様子。今は雑魚を駆逐しながら此処前線を目指しておる」 


 ここで、ジ・オングのその眼光が一層の鋭さを増す。


「戦況は圧倒的に不利じゃが、仮にこやつが敵軍の最後の砦だとすれば。打ち倒せばどうなるか、見物ではないか」


 その言葉に、一気に生気を取り戻し瞳を輝かせる冒険者達。


「こいつを倒せば……終わり」


 それは突如戦場に差した唯一の希望の光だった。

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