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ARCADIA ver2.00  作者: Wiz Craft
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【Interlude】双卵壊死

 この世界に降り立ってから危機という窮地は切り抜けて来たつもりだった。双子の姉ダリアと共にあのアルゼロデスとの死闘さえも切り抜けて来たのだ。戦場を舞う二人の姿は美しき妖精乱舞。敵との間合いの取り方にも自信は有った。対モンスター戦においてならば余程の実力差が無い限りは手玉に取る自信は有ったのだ。だが今向かい合う敵は二人にそんな自由を与えてはくれなかった。

 自分達と同様に考え、連携し、弓によって矢の弾幕を降り注がせる敵狩人。いつしか二人は敵の射程からただ逃げ惑うばかりとなっていた。降り注ぐ矢弾のその一撃一撃が自棄に為る程重い。考える間も反撃する間も無く、敵の弾幕からただ逃げ惑い、被弾した衝撃に表情を歪める。

 そして、いつしか身に受ける弾幕を前にその最悪の事態は発生していた。何故こんな事になったのか。悔やんでも悔やみ切れない。捉えどころの無い怒りと悲しみがエリーゼの胸の内を駆け巡っていた。

 巻き起こったのは悲鳴。聞き馴染んだその音声の出所を探った時にエリーゼは凍りつく事になる。

 それは、今からほんの数分前の事、エリーゼが心から信頼しパートナーと認めた姉は敵の凶撃によって無残にも打ち砕かれた。敵の弾幕に気を取られていた彼女は、側面から近付く敵戦士の気配に気付かなかった。

 薙ぎ払われた両手剣を受けて宙を舞った姉ダリアの姿。彼女は地面に崩れ落ちると大量の光芒を撒き散らしながら駆け寄る妹の姿を追っていた。


「姉さん!」


 無残に地表に墜落し投げ出された姉の身体に駆け寄る。エリーゼの視界では、今生命の灯火を吹き消された、その最後の鼓動を高ぶらせるかのように激しく脈打つ姉の姿が在った。


「エリー……ゼ」


 衝撃から彼女の意識の大半は奪われかけていた。呂律の回らない口調で寄り添った妹に精一杯の想いを言葉にする。

 結晶化する直前にダリアが妹に残した言葉。それは……


――逃げて――


 戦場に散った姉を前にエリーゼは動く事が出来なかった。ただ姉が散った中空を見据えその手を強く握り締める。

 あまりにも無力な自分自身の力が恨めしかった。同時にこの時彼女の中ではある覚悟が生まれていた。その選択は戦場に散った姉の想いを裏切る事になる。だが、それでも彼女の決意は固い。

 薄命を悟りながらも雄叫びを上げながら、精一杯の力で戦場を駆け回る。向う先はグリーンゴブリンの陣営。


「私達は、あなた達程度には屈しない……絶対に!」


 激しい感情を放流と共に矢弾が乱れ飛ぶ。

 放たれた矢に脳を射抜かれ、地表に崩れ落ちる敵マジシャン。僅かなHPゲージを仲間のクレリックに回復されていたところを徹底的に打ち抜いた結果だった。


「次はあんたよ」


 敵のクレリックに向けて矢を放とうと背中の矢筒に手を回す。素早く手に握った矢弾を弦で引き狙いを定める。

 標的とされた敵のクレリックはエリーゼの姿を見つめながら、頻りに何かを訴え掛けながら騒ぎ始める。


「Damd Ar Bitch,Grasco Gar Damn!!」


 喚く言語に憤りを隠さないエリーゼは渾身の一撃を今解き放つ。


「String's Shot」


 エリーゼの掛け声と共に解き放たれた閃光が敵の胸を貫き、敵の身体が地表へと沈む。


「Bitch,Screw...Bitch」


 息を激しく乱しながら地面で悶える緑肌の生物に向けるエリーゼの眼差しは嫌悪以外の何物でも無い。


「姉さん、仇は取るから」


 自らもまた散って、戦場に一花を咲かせて見せる。戦場に懸ける想い、それは一人の冒険者の悲しい決意だった。

 そんな彼女の決意を前に動揺し怯える敵クレリック。今エリーゼがその手から標的目掛けて止めの矢弾を解き放とうとしたその時、突然彼女の身体が奇妙な浮遊感に襲われた。

 足元が掬われる様なその感覚の中で、彼女の視界の中で敵のその表情が恐怖から嘲笑へと変わる。

 それは、ほんの一瞬の油断。

 敵マジシャンが解き放ったエアカッターが彼女の足元を薙ぎ払ったのだった。仰向けに転がる事を防ぐ為に、咄嗟に空中で体勢を整えようと身を翻した彼女の胸元に突き刺さる赤銅の矢。

 彼女の表情が激しい動揺に包まれると同時に、彼女の身体に浴びせられる無数の矢弾。

 為す術も無く、全身を射抜かれた彼女はただその場に立ち尽くし、攻撃者である敵狩人達を見つめる。


「私達は……あんたらな……に……負けない!」


 精一杯の死力を振り絞り、弓矢を構えた彼女に向って一斉に射撃の構えを取る敵狩人達。

 矢弾が交錯を見せたその時、ぐらついた一体の敵クレリックが胸の矢を見つめ鈍い笑みを浮かべる。

 浮かべられた狩人達の嘲笑の中で、緩やかに膝を付くエリーゼ。首元を射抜かれた彼女は衝撃から悲鳴を上げる事も無く、ただその場へと崩れ落ちる。

 倒れた冒険者に弔いの言葉も残さずに背を向ける敵狩人達。


「Screw Bitch,Gown Aha?」


 地表に崩れ落ちる一人の冒険者の瞳が灰色に虚ろと化す。

 戦場各地では残酷な事態が次々と展開されていた。

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