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ARCADIA ver2.00  作者: Wiz Craft
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 S21 戦略的撤退

 グリーンゴブリン野営団との総力戦。死と隣り合わせの戦場では次々と光芒を上げては儚く散ってゆく命の輝き。戦場に無造作に転がるクリスタルの数は瞬く間に辺りを埋め尽くして行く。

 血気盛んに喚き立てていた冒険者達もいつしか悟ったのだろう。対峙する相手は並大抵の化物では無い事に。今まで相対してきたモンスターとは一線を隔てた別格に立つグリーンゴブリン。その戦闘能力は伊達ではない。

 迫り来る巨体が斧を振るう度に悲鳴が上がる。凶刃の前に倒れた冒険者に駆け寄った小柄な術士がエアロッドを翳し応戦する。真空刃に飲み込まれて巨体が揺れると、その一瞬の隙を突いて敵の赤銅の装甲に対して剣を突き立てる別の冒険者。冒険者による波状攻撃の前に、今一体のグリーンゴブリンが力尽きると同時、先程エアロッドを放ったマジシャンは背後からの凶撃によって地に伏せ、クリスタルへの結晶化を始める。

 戦場に立つマイキー達はかつてない死線に言い様の無い感情に晒されていた。一瞬の油断が命取りになる、それは恐怖という言葉ではもはや言い表せない。恐怖を超えた感情。

 目の前から雨あられと降り注ぐ矢弾を前に、ジャックとフリードはパーティーを守る為に盾を翳して一身にその身を晒していた。赤銅の装甲の前に弾き返される矢弾に混じって、装甲から外れた生身の身体に突き刺さった赤銅矢。

 小さな身体を懸命に寄り添わせてジャックの身体に回復の光を当てるキティ。その彼女の身体を懸命に包むように守るジャック。


「大丈夫だ、キティ。お前はお前の身を守れ」


 ジャックの言葉に不安気な表情で頷くキティ。その背後では敵の戦士に向けてアイネが燃え盛る火炎球を浴びせ、追い討ちを掛けるようにマイキーが手持ちの短剣でその胸を貫く。クリティカルダメージのポップアップと共に敵に僅かに残されていたHPゲージが減少し消滅する。大量の光芒と共に昇天する敵を背後に、前方の敵狩人陣に目を向けるや否や流れ矢がアイネの腹部に突き刺さる。


「アイネ!」


 駆け寄るマイキーにアイネは自らの腹部を押さえながら立ち上がり矢を抜き取る。抜き取った箇所からは光芒の光が漏れ、彼女は衝撃にその表情を歪める。


「私は大丈夫……だからマイキー、皆を」


 アイネの元へ駆け寄ってくるキティ。その小さな影を敵の大量の矢弾から守る前衛のジャックとフリード。だがその二枚盾が力尽きるのも時間の問題だった。

 敵の術士が放ったウォータースフィアがフリードの身体を直撃し、彼の身体が宙を舞う。空中を漂ったフリードが苦悶の表情を浮かべた時には、彼の視界には水球が向う先で大斧を振り上げる一体のグリーンゴブリンの姿が映っていた。

 防御体制も取れない全くの無防備の状態に振り下ろされる強撃。衝撃音と共に赤銅の鎧を纏ったフリードの身体が跳ね上がると、そこへ容赦なく敵の矢弾が降り掛かる。


「……フリード!!」


 叫ぶマイキーの肩元に走る衝撃。続けざまに脹脛ふくらはぎに走る衝撃に目を向けると赤銅の矢が深々と刺さっていた。

 敵の絶対的な攻撃力を前に死の予感が絶えず脳裏に付き纏う。数では倍を誇った冒険者の討伐部隊はいつしかその数を大きく減少させていた。

 マイキーが倒れたフリードの元へ駆け寄ると、飛んできた矢弾を身に受けながら彼の身体を起こす。


「大丈夫か、フリード」

「衝撃で身体が……捨て置け」


 フリードの言葉に「何言ってるんだ」と声を張り上げたマイキーは超人的な反射神経で飛んできた矢弾を払い飛ばし敵に向き直る。だが、それは一瞬の油断とも言えた。二人の傍らに歩み寄った巨大な敵戦士が槍を引き、マイキーの身体に向って今突き立てようとしていた。

 それは致命的な判断ミスだった。


――殺られる――


 咄嗟とは云え、マイキーが大きく身体を翻し攻撃に構えた瞬間、敵の身体が大きく揺れる。アイネの放った火炎球が敵を捉えたのだった。光芒を立ち昇らせながら消滅する敵の姿を呆然と見つめながら、磨耗した体力を確認するマイキー。

 視界の中では敵の矢弾を受けて傷付いたキティを背負い、懸命に戦場を駆けるタピオの姿が映っていた。


「……クソが!!」


 憤りを隠さず叫ぶジャック。このままではパーティーの全滅は免れ得ない。


「一旦、離脱するぞ」


 それは苦渋の選択だった。マイキーの掛け声に頷いた仲間達が一斉に身を翻し、傷付いた仲間達を援護し始める。


「ジャック、手を貸せ。フリードを連れて退くぞ」

「無理だ……この戦火の中負傷者を担ぎ歩くなど無謀。何度も言わせるな、捨て置け」


 フリードの強い語調に真正面から睨み返すマイキー。


「黙ってろフリード……その判断をするのは僕だ」


 その言葉に目を伏せるフリード。担ぎ上げられた身体を少しでも負担を減らすようにと自らの足で死力を振り絞って立つ。

 マイキーの指示の元に仲間達は一斉に戦場から荒野へと退く。放たれる矢弾を背に受けながら命からがらマイキー達は戦火から逃れる。遠ざかるは戦場の悲鳴。

 やり切れない感情に襲われながらも彼らが取れ得る選択肢は数少なかった。戦略的撤退、マイキーは自分自身に必死にそう言い聞かせながら残されたその選択肢に従っていた。

 一時避難した荒野では多くの傷付いた冒険者が大量の光芒が立ち昇る戦場を見つめていた。そこには重度のダメージを負った冒険者から比較的軽傷に見られる冒険者も数多く存在する。極限の生死を懸けた戦闘を前に逃げ出した者も少なくないのだろう。これでは戦況が傾くのも当然の結果だった。

 ダメージを負い傷付いた仲間を荒野に横たわらせながら今一度戦場を見つめるマイキー。


「……なんて戦いだ」


 戦いは想定の斜め上を超える結果となった。傷付いた仲間を前に閉口するマイキー。

 だが、彼の留まらぬ想いが胸の内から込み上げる。自然と再び戦場へと歩み出す。


「おい、マイキー。どこ行くんだ」


 ジャックの言葉に毅然と表情で見返すマイキーは静かに胸の想いを語る。


「戦場に戻る。連中に一泡吹かせてやらないと気が済まない」

「お前、それ死ぬって意味か。ふざけるな」


 荒ぶったジャックの言葉に鋭い眼差しを返すマイキー。


「死ぬなんて一言も言ってない。戦場ではまだ多くの冒険者が戦ってるんだ。傍観なんて選択肢、僕には有り得ない」


 決意のマイキーの言葉に静寂が漂う。そして暫しの間を置いてジャックは立ち上がる。


「分かった。それなら俺も行く」


 ここで今まで静観していたアイネもまた立ち上がる。


「何言ってるのよ二人共! 無茶だよ!」と激しい剣幕のアイネに続いてタピオが憔悴し切った表情で同意する。

「無理だよ……あんな連中。二人共殺されちゃうよ!」


 そんな二人を見据えて真剣な眼差しを向けるマイキーとジャック。


「お前らはここでキティとフリードを頼む」

「絶対にここから動くなよ。いいな」


 二人の強い語調に押し黙る仲間達。

 戦場へと向う二人のその背中は強い決意に満ち溢れていた。

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