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ARCADIA ver2.00  作者: Wiz Craft
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【Interlude】影なる守り手

 荒れ狂うグリーンゴブリン達は破壊の限りを尽くしていた。彼らの目的はこの町のシンボルである女神像にある。女神像は開拓の象徴。女神像はシステム側で用意された街の中枢機関に自己修復機能を付与している。故に女神像が存在する限り、街はいくらでも復活を遂げる。だが一度女神像が破壊されてしまえばそこで街の機能は止まる。

 激しい矢弾や魔弾に打ち付けられながらも、女神像は美しく凛とその姿を連中に現していた。美しいその白肌には幾重にも傷が付けられ、悲哀なる女神の姿は痛々しくそして深い悲しみに囚われていた。だが、彼女はその気高き精神を最後まで崩す事は無い。どんなに打ち付けられようとも彼女は最後までその優しい微笑みを崩す事は無かった。

 荒れ狂うグリーンゴブリンの戦士が今彼女の元へと歩み寄る。不気味な笑みを浮かべながら両腕に持った赤銅の巨斧が掲げられ、彼らは歓声を上げる。


「Oooooooohooooooooo!!!」


 雄叫びと共に振り下ろされた巨斧が女神像の身体を真っ二つに砕く。

 噴水の中へと崩れ落ちる女神像の上半身が水没し、残された下半身は無残にも連中の勲章と成り果てた。

 歓喜に極まり、郊外広場で吠え喚くグリーンゴブリンの集団。そんな惨状が広がる街へ郊外の荒野から歩み寄る三つの影。

 影達は街に踏み込むと、その足を止め眼前の光景に深い悲しみの色を浮かべた。


「一足……遅かったようですね」


 モノクロで描かれた幾何学的デザインの特殊な法衣を纏った青年は街の惨状に目を覆うように呟いた。隣で眉間にしわを寄せた金髪の少年は連中を睨み付けながら真鍮のハンマーを純白の毛皮を纏った胸に構える。


「ミューゼル、怒りに我を忘れてはいけませんよ」

「そういうハウルこそ、声が震えてるよ」


 少年の言葉にハウルは額に手を当てながら「そうですね」と呟くと傍らのもう一人の少女へと視線を向ける。肩掛けに流されたサニーブラウンの髪につぶらな瞳。原色をカラフルに散りばめた民族衣装を纏った彼女は、腰元から白銀に輝く短剣を引き抜くと連中に悲しい眼差しを向けていた。


「敵の数、確認しました。七十六匹です。うちゴブリンチーフが二体居ます」

「そうか、ありがとうハーミィ。ゴブリンチーフが二体居るのでは、今この街に居る冒険者のレベルでは歯が立たないだろうね」


 向き直るハウルの視線が次第に鋭さを帯び、そして彼は静かにその片腕を突き出した。


「Doll Magician of Green」


 ハウルの掛け声によって発現されるは緑の道化着に身を包んだ奇妙な魔法人形。マジシャン・オブ・グリーンと呼ばれたその道化はくるくると身を一回転させその緑鼻の先を連中へ向けると緑冠石の宝石の付いたロッドを空中から取り出して見せる。


「皆、敵の数は多いですから。決して油断はしないように」

「こんな奴等、俺とピグだけで充分だよ」


 ミューゼルは隣でよちよちと歩き回る一匹の黄金色に輝く玉葱の頭を撫でる。


「あいつら皆殺しにするよ、手伝えピグ」

「Yaiyaiyaiya!!!」


 戦闘態勢に入ったミューゼルの駆け出しに続いて一斉に郊外広場へと踏み込む三名の冒険者。

 その姿に気付いたグリーンゴブリン達が、咆哮を上げ威嚇を始める。だが、威嚇は無意味。街で非道の限りを尽くした連中の罪は重過ぎた。

 いち早く獲物と接触した少女が白銀の短剣を構え、軽やかにステップを踏み始める。まるで、リズムを取り踊り舞うかのようなその独特の動きミラージュステップに周囲を取り囲んだグリーンゴブリン達が戸惑い始める。

 まるで、彼女が幾人も存在するかのように、所々に残される残像によってゴブリン達はあさっての方向へと攻撃を繰り出し始める。彼女の身体を掴まえようと飛び込んだ敵戦士がそのまま建物の壁へと激突し崩れ落ちる。

 敵の狩人達が一斉に放った矢弾を軽やかに躱すと少女はステップのリズムを変える。


「Offensive Step」


 速度の上がった攻撃的なリズムに乗せて、まるで飢えた狼のように敵に牙を向く少女。その鋭い白刃が敵の肌を幾重に傷つけ、その刃の前に敵は次々と倒れて行く。

 また一方では激しく荒ぶる敵のど真ん中で少年は、一匹のピグミッツと共に連中と相対していた。真鍮製のハンマーを片手に敵の攻撃を躱しながら、その頭蓋を強烈な一撃で沈めて行く少年。


「数が増えてきたな。ピグ、頼む」

「Yaiyaiya!!! 360℃ I'm sleepy,hya!!」


 ピグミッツの上げた鳴き声が辺りに響き渡ると、いきりたかって襲い掛かってきたグリーンゴブリン達が次々と膝を付き始める。武器を落とし、その呼吸を乱しながら地表に倒れ込み、やがて寝息を立て始める。

 眠りこける彼らの一体に向かってよちよちと歩み寄るピグミッツはその双葉のように開いた小さな掌で敵の頭をスラップする。


「Yaiyaiya、Prince参上!Ah,無情!」


 その甲高い鳴き声に目を覚ました一体のグリーンゴブリンが咆哮を上げると、その頭蓋に振り下ろされるは真鍮のハンマーの強烈な一撃。


「雑魚が粋がるなよ」


 少年と手を合わせ微笑み合うはピグミッツ。

 そして、郊外広場の中央では二体のグリーンゴブリンチーフに迫られる人形使いハウルの姿が在った。

 咆哮を上げるその威圧感は周囲のグリーンゴブリンに対し一段上。明らかに別格なその雰囲気に対してもハウルはその表情を崩さず、冷静にオートマタと共に敵と相対していた。


「Slooe Bitch,Humped creezy」

「Td bitch ar shunks,ahah!!」


 語り合い不気味な嘲笑を浮かべる二体の隊長ゴブリン達。


「正式稼動が始まって以来、先住民達の動きにある程度の違和感を覚えていましたが、まさか襲撃されるとは夢にも思いませんでしたよ。開拓の歴史を紐解けば、先住民との血生臭い争いは看過できませんけどね。まさか、こんな形でこの世界に導入されているなんて。たとえ、バーチャルの世界でも悲しみを覚えたのは事実です」


 醜い八重歯を剥き出しにして噛み鳴らす二体のグリーンゴブリンの統率者達がじりじりと歩み寄る。そして両手に構えたその巨大な斧を振り上げて襲い掛かろうとしたその時だった。

 ハウルの隣でロッドを構えていたオートマタが刻印を刻む。


――Airエア Blustブラスト――


 明滅する閃光に敵が構えた頃は時既に遅し。

 周囲を包み込む鋭い真空刃が生じ、弾き飛ばした二体の兵隊長、及び兵隊達を無尽に切り刻む。


「あなた達の罪は重い。一人たりとも逃しませんから。覚悟しなさい」


 郊外広場に舞う三人の冒険者。

 巻き起こるグリーンゴブリン達の絶叫の元には、この街を守る影の守り手達の姿が在った。

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