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ARCADIA ver2.00  作者: Wiz Craft
90/169

 S17 決壊

 胸騒ぎに導かれるように辿り着いた郊外広場では想像を超えた光景が広がっていた。

 覚悟はしていた。例えどんな地獄絵図が広がっていようとそれに耐え得るだけの覚悟は。辺りのそこら中に転がるクリスタルの結晶。無数の閃光や矢弾が飛び交う中、巻き起こる絶叫や悲鳴。

 抽選場の囲い木は、グリーンゴブリンの激しい攻撃によって粉々に破壊されていた。周囲の建物の幾つかは完全に倒壊し瓦礫の山と化していた。雄叫びを上げながら暴れまわる無数の影、その数は凡そ八十。対して、広場に存在する冒険者は僅か三十名程だった。


「女神像だけは死守しろ。絶対に破壊させるな」


 噴水前では冒険者が陣を組み、命懸けで女神像を守っていた。だが、圧倒的な戦力を誇るグリーンゴブリンを相手に決壊は時間の問題と言えた。


「どうしてこんな事に。くそ……ふざけやがって!」

「よせ、止めろ!」


 余りの事態に憤った一人の青年が女神像へと近付いたグリーンゴブリンへと襲い掛かる。筋骨隆々とした連中の中でも一際背の高い緑小鬼。巧みな槍捌きで戦士と見られるグリーンゴブリンのその固い装甲を乱突する。敵戦士が纏う装甲は赤銅色の輝きを帯びていた。

 槍が衝突する度に、その固い衝撃に弾き飛ばされそうになる。だが、ここで武器を手放す訳には行かない。


「うぁぁぁぁ!」


 叫び声を上げながら、槍を引き渾身の力を込める。敵の装甲を貫くにはもはや全力を尽くすしか無い。ならば残された全ての能力を費やすのみ。


「Power Charge!!」


 繰り出された槍が光を纏い、敵の心臓部目掛けて一直線に繰り出される。周囲に響き渡る際立った金属音に、冒険者達が希望を懸ける。

 槍を繰り出した青年は確かな手応えに薄笑みを浮かべる。


――殺った、確実に――


 膝を突いたグリーンゴブリンの戦士はただ蹲り身を固めていた。


「まだ生きてるのか、止めだ……死ね」


 青年が敵戦士の頭部目掛けて槍を引いたその時だった。

 突然立ち上がったグリーンゴブリンは青年の頭に手を伸ばすと、頭蓋骨を持ったまま吊り上げる。


「Bitch,screwd bitch!!」


 罵声のように浴びせ掛けられるその異言語は何を意味するのか。

 もがき苦しむ青年を前に慌てて援護に入ろうとする仲間達だが、興奮状態に陥ったグリーンゴブリンは全くその手を離そうとしない。


「うぁぁぁ……」


 青年の苦悶の声が響き渡る。頭蓋骨を握り締めるその力は強まり、そしてグリーンゴブリンは片手に一振りの剣を取る。


「止めろ……離せ」


 冒険者達が懸命にその手を振り解こうと援護する中、無情にもその凶刃が揺らめいた。

 剥き出される八重歯。あまりの凄惨な光景にその場に居た誰もが目を塞ぐ瞬間。グリーンゴブリンが引き突き立てた剣が青年の身体を貫く。周囲で悲鳴が巻き起こる中、硬直していた青年の身体からは力が抜け、大量の光芒と共に彼の姿が消えて行く。


「貴様ぁ!」


 絶叫と同時に女神像前で魔法力を溜めていたマジシャン達からの魔法の集中砲火が上がる。

 巻き起こる爆煙と明滅する激しい閃光の中で、今咆哮を上げながら巨体で暴れ回るその姿は不死身とさえ思えた。

 たかが、敵の一戦士に対してこちらが掛ける戦力は膨大。そして敵の数は一向に減らないまま仲間は次々と倒れて行く。


「頼む……誰か……誰か助けてくれ」と、その悲痛な叫びは救い手に届いたのだろうか。


 女神像前での激しい攻防戦を見つめながらマイキーはその手を握り締めていた。

 今の自分に何が出来るのか、中途半端に首を突っ込んだところで命を落とすのは目に見えていた。ならば、残され女神像を必死に敵から守る冒険者達を見捨てるのか。

 このままであれば、彼らは確実に命を落とす。あまりにも無力な自分自身にマイキーが憤りを感じていたその時だった。ふと、通りで倒れていた冒険者と交した約束を思い返す。


――仲間を……頼む――


 ふとマイキーが視線を上げたその時だった。弓を構える敵狩人の姿。

 撓った赤銅の弦から解き放たれた矢弾が一直線に急所へと飛び込んでくる。その攻撃を間一髪で躱すと、目の前に敵に向かって向き直り覚悟を決める。


「上等だ……やってやるさ」


 太腿に突き刺さる衝撃、また別の方向から狙いを定めていた敵狩人の矢弾が体勢を崩したマイキーの太腿を真芯で捉えていた。

 太腿から矢を引き抜き、腰元からバロックナイフを抜く。覚悟を備えたマイキーの思考は酷く冷静だった。


――狩人のたかが一弾が重い……だが動けないほどの深手じゃない――


 揺らりと立ち上がったマイキーのその瞳は強い輝きを怯えていた。ここからは一瞬の油断が命取りになる。

 初速からトップスピードへ一気にギアを組み換える。一直線に女神像前へと駆け込んだマイキーはそこで冒険者達に向って声を張り上げる。

 突如として現れたマイキーの姿に縋るように冒険者達はその眼差しを向ける。


「ここはもうダメだ。今すぐ駅前通りに向って走れ。デトリック・ホテルやギルドなら、あそこの位相は特殊だ」


 マイキーが言い放った言葉に当惑を隠さない冒険者達。


「馬鹿言うな。女神像を失う訳には行かない」


 冒険者達の言葉に声を張り上げるマイキー。


「状況を理解してるのか、この敵の数。決壊は時間の問題だ。はっきり言って無駄死になんだよ」


 マイキーの強い語調に顔を見合わせる冒険者達。


「街はまた皆の力で再建すればいい。今はこの場を捨てよう。自分達の命を守るんだ」


 その言葉に異議を唱える者はもはや誰一人として居なかった。女神像周辺に向って放たれる矢弾と魔弾はその勢いを増していた。

 肩元に突き刺さる赤銅の矢を抜きながら、マイキーは皆を誘導し始める。


「Masaki、Elica! 居るか? デトリック・ホテルで君の仲間が無事を心配してる」


 その言葉に二人の冒険者がマイキーの元へと歩み寄る。


「本当か。二人共無事だったのか」

「残念ながら、ヤナセさんは連中に殺られた。ユキヒコは無事だ」


 マイキーの言葉に辛辣な表情で項垂れる二人の冒険者。他の冒険者の多くは死に物狂いで既に駅前へと向けて走り出していた。


「ここで話し込んでる暇は無い。二人も早く!」


 マイキーの言葉に決起した二人は手を取り合って降り注ぐ矢弾の中を駆け抜けて行く。

 無情にも敵の攻撃は逃げ伏せる冒険者達の数名の命を奪って行く。その光景に言い様の無い憤りを覚えながらも残されたマイキーもまた駅前へと向って駆け始める。

 自らの命を守る為に冒険者達は残された唯一の選択肢を取る以外に方法が無かった。

 ▼S17 決壊 9/7更新分

 ⇒次回更新 9/8 【Interlude】影の守り手

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