S12 ハウルからの招待状
買出しを終えたマイキーは午後三時には既に店へと戻って来ていた。注文された商品の他にも売上から店に並べる商品を余分に購入してきたマイキーは、一人商品のレイアウトを始める。今回購入して来たのは、バロック装備の中でもGR2の新クラスでメイン装備となる武器・防具を重点的に揃えてきた。
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〆Marshe nes Abel
購入品-買値(検出品種:9)
▼武器
□×1 バロックナイフ 262 ELK【在庫:3】
□×1 バロックナックル 278ELK【在庫:3】
□×1 バロックソード 297ELK【在庫:2】
□×1 クレイモア 450 ELK【在庫:2】
▼防具
□×1 バロックヘルム 227 ELK【在庫:2】
□×1 バロックメイル 320 ELK【在庫:2】
□×1 バロックギア 295 ELK【在庫:2】
□×1 バロックレーゲル 220 ELK【在庫:2】
□×1 バロックシールド 213 ELK【在庫:2】
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今回の原価総計は4537ELK。転売の予定総売上は5664ELK。期待値は営業税を差し引いて844ELK。
販売品種のポイントとしては、前回までバロック装備の軽装備を購入していたところ、今回は重装備用の防具を取り揃えた。
約束の時刻までマイキーが一人でレイアウトに励んでいると、準備中という札を掲げているにも関わらず、クエスト帰りなのか冒険者が店の中へと入ってくる。
「へぇ、こんなところに店が出来たんだ」
口々に呟く若い男女のプレーヤーは店の中を見渡しながらレイアウト中の商品に目を向ける。PBで照明の当て方を調整していたマイキーは振り返り冒険者達に微笑みかける。
「すいません、まだ準備中なんです」
マイキーの言葉にバロックの軽鎧を纏った男が皆に向って振り返る。
「準備中だってさ。出ようぜ」とリーダー格に見える冒険者が皆を制す。そんな中、後ろ髪を引かれる様に店内をじっくり見渡すムームーの毛皮を纏った女性冒険者。
「ふぅん、見た感じバロック製品扱ってる店なのね。あ、ちょっと待って。あれクレイモアじゃない。ユキヒロ欲しがってなかった?」
女性の言葉にユキヒロと呼ばれたもう一人の茶髪の男が過剰に反応する。
「え、マジだ。ちょっと待ってリーダー。ちょっとじっくり見たいんだけど」
「ちょっとちょっとって五月蝿ぇなお前ら。だから、準備中だって。来るならまた後で来ようぜ」
そんな冒険者達のやり取りに微笑みを漏らすマイキー。
「構いませんよ。レイアウト中でも宜しければゆっくり見ていって下さい」
「本当ですか? 助かるよ、ありがとう」
ユキヒロと呼ばれた冒険者は、まずはクレイモアの前に駆け寄ると、その直線的なフォルムに見惚れるように確かめ、値段へと視線を移す。
「450ELKか。これって、スティアルーフに比べてどうなのか」
「値段まで覚えて無いわよ。でもやっぱり多少高いでしょ」
小声で話す彼らに口を挟むのは野暮だと思いつつも、口を挟むマイキー。
「こちらでは全ての商品はスティアルーフで販売されてる価格の25%増しになってます」
マイキーの説明に頷く冒険者達。
「25%増しか。っていうと450ELKだと。原価は四分の三?」
「馬鹿、五分の四だよ。お前、小学生の計算も出来ないのか」
そんなやりとりに微笑を零すマイキー。
「ええ、そうですね。ですからクレイモアですと原価は360ELK。価格としては90ELK割り増しとなってます」
「90ELKかぁ。結構でかいなぁ」
呟き腕組みするユキヒコに周囲の冒険者が声を掛ける。
「でもお前、ここからスティアルーフに戻る往復の電車賃と時間考えたら割安じゃないか?」
「あ、そうか。確かに。でもなぁ。すみません、ちょっとお安くなりませんか」
ユキヒコの軽い値切りに微笑しながら困った仕草を見せながらPBを開くマイキー。
「困りましたね。結構収益としては切迫してるんですよ。そうですね、それじゃ435ELKでどうでしょう」
「もう一声。420ELKで何とか」
頭を下げ軽いノリで土下座を見せるユキヒコにマイキーは、薄笑みを浮かべて頷く。
「仕方ないですね。それでは420ELKでお譲りします」
そう言ってマイキーは店の在庫からクレイモアを一振り取り出すとPB上のトレード機能を使って譲り渡す。
ユキヒコはクレイモアを早速店内で装備すると、笑顔でその重量感を確かめる。
「うぉ、思ったより重いな。でも、ようやく手に入れたぜ」
「お前、落として店の中傷付けるなよ」
リーダー格の男に終始注意されながらユキヒコは笑顔で手を振って去って行った。
「ありがとう。仲間にもこの店宣伝しとくからさ」
「ありがとうございます。助かります」
そうして、冒険者達の背中を見送ってから約三十分後、時刻はPM4:28。約束の時間に遅れずあの人物は店へと姿を現した。幾何学模様の法衣が視界に映るとマイキーは敬礼を以て、来客を迎え入れる。若干の緊張感を持って対応に務めるオーナーの姿に、ハウルは相変わらずの柔らかい言葉を掛ける。
「こんばんは。注文の品を取りに伺いました」
「こんばんは。いらっしゃいませハウルさん。ご注文の品は既に取り揃えてあります。こちらにお掛け下さい」
店の中に対話を目的に設置した簡易なテーブルと椅子に誘導したマイキーは予め用意しておいた温かなコーヒーを差し出す。マイキーの丁寧なもてなしにハウルは「申し訳ないですね。お構いなく」と丁寧に辞儀を返す。
何故だか、マイキーにとってこのハウルという人物とのやりとりは酷く心地良いものだった。椅子に腰掛け向かい合ったところで、マイキーは早速ハウルに約束の品をトレードする。
「内容の方、お間違えの無いようにご確認下さい」
マイキーの言葉にリストのアイテムを一つ一つ確認しながら微笑むハウル。コーヒーを片手にその全てのリストを確認すると深く頷く。
「確かに、間違いは無いようです。助かりました」
用件を済ませたハウルは別れの挨拶も手短に立ち上がると頭を下げる。
若干、急いでいるように見られるハウルは穏やかな笑顔をマイキーに向け感謝の言葉を述べる。
「ありがとう、また機会があったら是非利用させて貰います」
「ご利用ありがとうございました」
笑顔で頭を下げるマイキーに満足そうに頷いたハウル。
彼はここでPBから一枚のカードを取り出すとリアライズして見せる。現れたのは一枚の紙切れだった。ハウルはその紙切れをマイキーに手渡すと柔らかい微笑みを浮かべる。
「実は、今夜うちのコミュニティでバーベキューを催す事になってましてね。身内だけでこじんまり行うのもなんですから、知り合いに声を掛けて回ってるんですが、良かったらマイキーさん方も是非どうですか?」
「え?」
思わぬ申し出に当惑するマイキー。
それは一通の招待状だった。招待状には彼らのコミュニティ名らしき英字をトップに、その日時や場所など、詳細が記されていた。
「食事の内容はこの辺りのモンスターがドロップするボマードやメルボル、コカトリスの肉が中心になってしまいますが、それでも宜しければ是非。少し多めに獲り過ぎてしまいましてね。私達だけじゃとても食べきれないんです」
人情味溢れるハウルの申し出に微笑みを返すマイキー。
「お誘いありがとうございます。仲間にも相談してみます」
「ええ、場所は街の女神像から南に出た郊外の荒原で行いますので。位相は荒原に出るので気にする必要ありません。煙が上がるので場所は分かり易いと思いますが、もし迷ったら私宛にメールを送って下さい。ネームスペルはHaulです。念のため今空メール送りますので、これに返信して下されば結構ですよ」
丁寧なハウルの対応に頭の上がらないマイキー。
「それでは、もし宜しければまた後で」
手を振り去って行くハウルの姿。
Marshe nes Abelの軒先からマイキーは彼のその後姿が消えるまで見送っていた。




