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ARCADIA ver2.00  作者: Wiz Craft
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【Interlude】狂狼の牙

 Marshe nes Abelの品物が完売した今、店の中で出来る事は何一つ無い。スティアルーフへと買出しに向ったマイキーと別れたジャック達は、メルボルの影を追ってバスティア荒原を彷徨っていた。

 荒原に巻き起こる赤土混じりの旋風の向こう側に映る首影。身を屈めて灌木の葉を噛み潰すその姿を見つめながら、一同はあの夜、通り掛かりの女性によって手渡された映像の光景を思い返していた。為す術も無くただ地面に崩れた獲物の末路。フラッシュバックのように断片的に浮かび上がるのは野蛮なまでに猛々しく隆起した筋肉、緑色の肌に剥き出しの八重歯。恐ろしき緑小鬼の凶撃によって、大量の光芒を立ち昇らせながら天へと消えるメルボルの姿だった。


「まさか、こんな街に近いエリアではあいつらも出ないよね」

「さぁ、どうだろうな」


 声色を変えて返答をぼやかすジャックにタピオが訝しげな視線を向ける。度々、不必要にジャックに驚かされてきたタピオにとってジャックの言葉は信用に置けるものではない。また今度も意地悪くはぐらかされた返答に自然と溜息が漏れる。


「大丈夫よ、あの動画の場所もここからずっと西へ向った地点だもの」

「そうだよね。アイネさん、ありがとう。ちょっと安心し……」


 そう言葉を終え掛けたタピオの背後に回ったジャックが、大きな声を上げて彼の肩を掴み掛かる。


「Ooooooooohooooooooo!!!」

「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」


 大声を上げて飛び上がるタピオの様子に吃驚して小さな身体を一瞬ビクッと震わせるキティ。完全に慄いて膝を崩し、地面にへたれ込むタピオの様子にジャックは満足気に大笑いする。


「ジャックさん! 止めてよ、本当に! 本当に吃驚するから!!」


 余りにも情けないタピオの姿ではあるが、脅かす方も脅かす方だった。余りにも人として低レベルなやりとりに呆れ顔で口を開くアイネ。


「子供っぽ過ぎるよ。マイキー居たら何て言うか」

「馬鹿、俺は男としての度胸をこいつに教えてやってるんだよ。大事な事だぜ」


 地面にへたり込んだタピオに手を差し出すキティ。タピオは「ありがとう、キティ」と手を取り腰を上げると身体に纏わり付いた赤土を払い始める。


「さてと、準備が出来たところで狩りを始めるか」


 ジャックの言葉に納得行かない様子で剣を構えるタピオに続いて、アイネもまたファイアボールをフロートさせる。漂う火球の輝きを見上げながらキティもまたライトワンドを強く握り締めた。

 戦闘態勢を整えた一同が、今地面を強く踏み付ける。


「行くぞ!」


 勢い良く一同がメルボルに向って飛び掛ると同時、砂煙の向こうから現れる無数の影。その影に一同が動揺し躊躇った時は周囲は取り囲まれていた。暗い灰色と深い紺を織り交ぜた様な毛並みを揺らめき立たせながら、遠吠えを上げるその影は全部で五頭。


「ワイルドファングだ! 囲まれた!」


 動揺し声を張り上げるタピオに向って吠え立て威嚇する野狼。

 五匹の内の三匹は既にメルボルに向って、飛び掛っていた。鳴き声を上げながら必至に暴れ抵抗を始める白麒麟。


「俺ら全員がこいつらの獲物って訳か。面白ぇ、どっちが獲物か立場ってもんを教えてやる」


 強気に威嚇に対して歩み寄るジャック。

 戦闘構図としては、ここにワイルドファングに対してジャック達とメルボルの共闘の構図が出来上がっていた。


「まさか、メルボルと共闘する事になるなんてな。悪いがそっちの三匹は任せたぜ」


 迫る野狼に向かって剣と盾を構えるジャック。前足で地面を掻き、威嚇していた一匹のワイルドファングが後足で地面を蹴ると同時に、バロックシールドで弾き返す。

 残る一匹は慄くタピオに向って、今飛び掛ろうとしていた。


「うわぁ、来るなこっち……来るな!」


 必死に青銅の剣を振り回すタピオに向ってもう一匹が飛び掛った瞬間、ジャックは横から鋭い剣捌きで、空中に飛び上がったワイルドファングの身体を真芯で斬り飛ばす。

 鼻から抜けるようなか細い声を上げながら地面に叩きつけられた野狼に向かって、アイネが予めフロートしていた火球をここで解き放つ。肢体を火球に包まれ、炎上を始める一匹は苦しみながら地面を掻き、立ち上がるとそこへジャックの強烈な蹴りが脇腹へと食い込む。

 空中を漂った一匹の野狼は再び地面に落下すると炎のスリップダメージに身悶えながら、そこで光芒となって消えた。


「びびるな、タピオ! 戦闘の一つ一つが全て訓練だと思え」


 猛るジャックの言葉に感化されたタピオが剣と盾を握り締める。


「僕は恐怖になんか……負けない。負けない!」


 声を張り上げながら残された一匹のワイルドファングに突撃するタピオ。

 少年の猛攻を受けて一瞬怯んだワイルドファングだが、すぐに体勢を調えて鋭い牙でタピオの太腿へと齧り付く。


「こんな痛み……痛くなんかない!」


 噛み付いたワイルドファングの頭部に剣を突き立て引き剥がすタピオ。

 すぐさま離れたワイルドファングに向けてジャックが斬り掛かり強烈な一撃で地面へと沈める。体勢を崩した野狼にはアイネから放たれる火球の追撃が待ち構えている。

 炎上し悲鳴を上げる野狼に今一度、空を裂くような一閃を浴びせ光芒と消すジャック。一同の隣では三匹の野狼に襲われたメルボルが未だ奮闘していた。


「待ってろ、今助けてやる。キティ、タピオの傷を癒してやってくれ」


 ジャックの指示を受けるまでもなく、タピオの元に駆け寄っていたキティはしっかりと頷くとライトワンドを掲げ、淡い癒しの光で包み始める。

 ジャックとアイネ、そして一頭のメルボルが奮闘する中、次々と地に崩れて行くワイルドファング。残された一匹の野狼を前に一同が武器を構え、メルボルが大脚を振り上げたその時だった。


「Ohhhhhhhnnnオォォーン


 遠吠えと共に赤く輝くワイルドファングの身体。その異変に攻撃態勢に入っていたジャック達の動きが止まる。


「何だ……あの光」


 赤い輝きに包まれたワイルドファングの目が血走り、激しく涎を垂らし地面を掻き、威嚇し始める。そんな狂狼の姿をメルボルの前脚が弾き飛ばす。

 攻撃を受けた狂狼は攻撃者の姿を確認すると、勢い良く飛び掛りその首元へと噛み付く。

 狂狼からの急所への攻撃に身悶えするメルボルは四足で必死に地面に踏ん張りながら、やがて地面へと横倒しに倒れる。


「あ……ああ」


 その光景に思わずたじろぎ後退りするタピオ。最後の最後まで苦しそうに身悶えながらも必死に生きようと首を掲げるメルボルの姿に一同はどうする事も出来ずただ見守っていた。

 そして、ジャック達と共闘していたメルボルは光芒を立ち昇らせながら輝きの中へと消えて行く。


「メルボル……仇は討ってやる」


 地面へと降り立つ狂狼に、にじり寄りながら隙を窺がうジャック。

 涎を垂らし血走った眼で威嚇を繰り返す狂狼が飛び上がった瞬間、ジャックは前方へ斬り込み両者の身体が交錯する。


「Step in Slashだ。ワイルドファングの飛び込みに合わせて迎撃するなんて……凄い」


 感嘆の呟きを漏らすタピオの前では、地面に沈んだ狂狼が火球によって炎上を始める。

 苦しみ悶え地面で転がる獲物を前に、剣を納めるジャック。大量の光芒を立ち昇らせ、空気中へ掻き消えた狂狼が残したモノは一枚のカードだった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

〆カード名

 狂狼の牙


〆分類

 アイテム-素材


〆説明

 バスティア荒原に生息するワイルドファングが突然変異を起こし凶暴化した狂狼の牙。牙にはRabies virus-03型と呼ばれる新種の狂犬病ウィルスが多数付着している。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 そのカードの名前には見覚えがあった。以前にマイキーとの会話の中で出てきたGR2の新クラス、シーフの納品アイテムである。


「あいつ喜ぶぜきっと。無愛想な顔がどれだけ変化するか見物だな」


 ジャックの言葉に自然と漏れる笑い。

 カードを手にした仲間達の想いは自然と共に共闘したメルボルへと向けられていた。

 紛れもなくあの瞬間、彼は共に共闘した仲間に違いなかった。始めはその仲間を狩る為に刃を向けて襲い掛かった訳だが。そう考えると、想いは複雑だった。

 今、静かにその瞳を閉じ黙祷を捧げるジャック達。その瞳には生きる為に必死に闘い抜いた白麒麟の勇姿が焼き付けられていた。


 ■作者の呟き


 今日一日、選挙行った以外特に何もやってないのですが戦い抜いた感があります。二十四時間テレビ、皆さん本当にお疲れ様でした。イモトさん完走おめでとう。政治家の皆様、大変なご時世ですが宜しくお願いします。

 コメントにまとまりが無いのはきっと眠気のせいだ。そうに違いない。でも無事更新できてとりあえずは良かった……Zzz

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