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ARCADIA ver2.00  作者: Wiz Craft
82/169

 S11 注文リスト

 開店後、翌早朝。店裏には朝食前に集合し、在庫をチェックするマイキー達の姿が在った。

 昨夜は夕食後、一度皆で店へと戻ってきたが当然何一つ購入されたアイテムは存在しなかった。レイアウトされたままの形で店の中に並んだアイテムを前に肩を落とす仲間達。マイキーは当然といった反応を示していたが、彼らの理解には到らなかった。結局、翌朝も期待に目を輝かせ在庫チェックを促す仲間達に怪訝な表情で彼はPBを広げる事になったのだった。

 そんなに早く売れるものではないと、諌めるマイキーの言葉も左から右へ。開かれたPBに身を乗り出すように食い入るその瞳の輝きを前にマイキーは閉口せざるを得ない。

 だが翌朝には微かな希望が差し込んでいた。仲間達は在庫状況に満面の笑みを零す事になる。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

〆Marshe nes Abel 

 売上(検出品種:3)


▼武器

〆×1 バロックナイフ 262 ELK

〆×1 バロックナックル 278ELK

〆×1 クレイモア 450 ELK

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◎総売上 990ELK

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 購入されたアイテムはバロックナイフ、バロックナックル、クレイモアの三点。売上金額は990ELK。純利益を考えると、稼ぎとしては路上で小皿を置くのと同程度かと思えたが喜ぶ仲間達を前にマイキーは敢えて何も言わなかった。


「売れた、売れてるよ!」


 飛び上がり店の中へと駆け込むタピオに続いて小走りするキティ。

 店の中に入って購入されたアイテムを確認するとホログラフィーには『SOLD OUT』という立体文字が浮かび上がっていた。


「売れると気分いいもんだな」


 ジャックの言葉に台座に凭れ掛かりながら笑顔で頷くキティとタピオ。

 アイネもまた笑顔を浮かべていたが、彼女は冷静に現状を把握しているようだった。


「こんなに早く売れるとは思わなかったな」


 売れたアイテムは一つの法則性に基づいている。マイキーはその因果関係を見逃さなかった。短剣、拳具、両手剣。これらの品種が一体何を示しているのか。勘の鋭い冒険者ならばきっと気付く事だろう。そう、これらはGR2で解放された新クラスで使用されるメイン武器なのだ。デトリックではGR2の認定試験のアイテムを収拾するには現場に最も近い街である。自然、納品アイテムを入手する冒険者も多くなる。つまり、この街でGR2に転職する冒険者も少なくない。だが、残念ながら転職したところで肝心のメイン武器はスティアルーフの街まで引き返さなければ購入する事が出来ない。このタイムロスに地団駄を踏んでいる冒険者は予想以上に多かったのだ。

 たった一夜で綺麗に在庫が切れた事から、これらのアイテムに対する需要は思った以上に高いとマイキーはここで直感的に判断していた。たった一つで在庫が切れるこの状況で、正確な判断は下せないが少なくとも現時点でこれらのアイテムが購入されたという事は確かな事実だった。


「今夜また状況次第でスティアルーフに売れたアイテムを買出し行ってくるよ。夕方まではこれから認定試験のアイテム取りに専念しよう」


 マイキーの言葉に一同が頷き、日中の狩りへと赴こうとしたその時、店の中に二人の冒険者の姿が映る。一人はタピオと同じくらいの年齢に見える美しい顔立ちの金髪の少年。見慣れない純白の毛皮を纏った姿からレベル帯はマイキー達よりも上なのだろうか。対して、もう一人共に訪れた冒険者は白と黒を対照的にモノクロで描かれた幾何学的デザインの特殊な法衣を纏っていた。年齢は二十代だろう。短く梳き流された黒髪の下に、片眼鏡を携えた細身の青年。彼は正式稼動以前からのこのゲームの参加者なのだろうか。


「こんなところに店ができたんですね」


 呟き店内を見渡す片眼鏡の青年を後ろに、金髪の少年はマイキー達と視線を合わせると興味も無さそうに店内の徘徊を始める。


「いらっしゃいませ」


 アイネとキティの言葉に少年は一瞬、立ち止まると再び無言でバロック装備を見回りながら細身の男に向かって指し示す。


「在ったよ、ハウル。バロック装備だ。ただ在庫あと一個しかない。こっちに剣もある」

「本当かいミューゼル。そうか、随分と幸運に恵まれたね」


 ハウルと呼ばれた青年は残されたバロック装備を前に笑顔を浮かべるとPBを開き操作を始める。

 明滅するホログラフィーが眩い光を放つと、店内の残されたバロック装備が全てSOLD OUTの立体文字へと移り変わる。

 呆然とするマイキー達を前に、微笑みの優しい青年は穏やかな口調で言葉を掛けてきた。


「オーナーの方々ですか。こんなところにこんな店があるなんて助かりました。ちょうど、うちのコミュニティのメンバーがバロック装備が必要でしてね。スティアルーフの街に戻るのも一手間ですから。ここはバロック装備の専門店なんですか?」

「ええ、一応スティアルーフからバロック装備の転売を目的としてます」


 包み隠しの無いマイキーの言葉に片眼鏡の青年は店内を見渡しながら頷く。


「それはほんとに助かりますね。何よりこの街には武器・防具店は少ないですから。それにしても、失礼。つかぬ事をお尋ねしますが、皆さん程のお若いレベルでこんな店舗を構えるなんて一体……?」

「いや、この土地の権利書は仲間が抽選会で特等当てたんですよ。本当に幸運以外の何物でも無いです」


 特等という言葉に驚きを隠さないハウル。


「特等ですか。デトリックの抽選会で特等景品だけは内容が伏せられていましたが、まさか土地の権利書が景品でしたか」

「ただ購入地区はシステム側でランダムに決定された場所になるので、不便な点も多いですよ。駅からこんなに離れた土地じゃ、誰も店訪れないんじゃないかって、皆で心配してたんです」


 マイキーの言葉に微笑を零す青年。


「なるほど、そういう事でしたか。これは私の個人的な見解ですけど、立地条件は決して悪く無いと思いますよ。駅からほぼ真西に位置するこの店は、クエスト攻略に荒原に乗り出す多くの冒険者達の目に止まるでしょう。加えてこの辺りに建物はこちらのお店以外にありませんから、とても気になります」

「そう言って頂けると救われますよ」


 談話を楽しむマイキーとハウルの姿に、気のいたミューゼルと呼ばれた金髪の少年が草臥れた声を上げる。


「ハウル、さっさと行こうよ。先行くよ」

「ミューゼル、すまないね。もうちょっとだけ待ってくれないか」


 ハウルはマイキーへと向き直ると、再びこの店を訪れた目的へと戻る。


「実は、まだコミュニティでバロック装備が不足していましてね。次にこちらで商品が入荷されるのはいつ頃ですか。出来れば商品の予約か注文をさせて頂きたいのですが」


 ハウルの言葉に思わず戸惑うマイキー。

 予約や注文を申し込まれるなど思ってもいなかったからだ。仲間が見守る中、咄嗟の状況に冷静に頭を回転させるマイキー。

 仮に注文数が現在のマイキー達の資金を上回っていた場合、買出しで対応出来ない場合も大いに考えられる。

 考えられる問題点と対処を瞬時に考じて、マイキーは真っ直ぐにハウルと瞳を合わせ口を開く。


「僕らが店に居る限りは、時間を指定して頂ければ予約も可能ですし、注文も承ります。ただし注文の場合は前金制になりますが、それでも宜しいですか?」


 前金は咄嗟に生み出した判断にして上出来だった。手持ちの資金が無い以上、考えられる手段はこの方法以外には無い。

 またもう一つがリスクの問題だ。店側のリスクとして、注文されたまま顧客に逃げられる可能性もある。そういう意味では前金は顧客に対しても責任を生む事が出来る。


「ええ、構いません。必要な武器・防具はこちらに記してあります。大体、取りに来るのはいつ頃がご都合良いでしょう?」と笑顔で了承するハウル。


 マイキーは受け取った紙を手に取り、PBを開き時刻を確認する。時刻はAM7:23。

 今からスティアルーフに向ったとして、どれだけ時間を大目に見てもPM4:30には確実に戻って来れるだろう。


「夕方四時半にはご注文された必要アイテムを取り揃えさせて頂きます」

「そうですか、それは助かります。それではまたその頃お伺いさせて頂きます。と、それから、すみません。これは不躾な願いなんですが注文にはバロック製品以外の装備を一つ含めても宜しいですか? Dinastonで販売されているクレイモアという両手剣なんですが」


 マイキーは青年の言葉に「構いませんよ」と笑顔で頷くと、リストから必要経費を計算し始める。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


■注文リスト


▼武器

 〆×5 バロックナイフ 210 ELK ⇒小計1050ELK

 〆×4 バロックナックル 223ELK ⇒小計892ELK

 〆×3 バロックソード 238ELK ⇒小計714ELK

 〆×1 バロックランス 278ELK ⇒小計278ELK

 〆×2 バロックボウ 256ELK ⇒小計512ELK

 〆×3 クレイモア 360ELK ⇒小計1080ELK


▼防具

 〆×4 バロックメット 168ELK ⇒小計672ELK

 〆×3 バロックヘルム 182ELK ⇒小計546ELK

 〆×4 バロックアーマー 212ELK ⇒小計848ELK

 〆×3 バロックメイル 256ELK ⇒小計768ELK

 〆×4 バロッククウィス 203ELK ⇒小計812ELK

 〆×3 バロックギア 236ELK ⇒小計708ELK

 〆×4 バロックレギンス 158ELK ⇒小計632ELK

 〆×3 バロックレーゲル 176ELK ⇒小計528ELK

 〆×4 バロックタージェ 156ELK ⇒小計624ELK

 〆×3 バロックシールド 171ELK ⇒小計513ELK

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 原価総計 11177ELK × 1.25(転売率)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ◎総経費 13971ELK

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 弾き出した値段を見て思わず戸惑うマイキー。こんな大金を要求する事にマイキーは一瞬の躊躇いを覚えていた。


「お時間取りまして申し訳ありませんでした。しめてお値段13971ELKとなりますが、宜しいでしょうか」

「ええ、それではマイキーさんに振込みさせて頂きますね」


 PB上にポップアップする確認ファームをクリックする手に緊張が走る。

 マイキーの所持金の桁が増えると同時に、彼はその意味を深く理解していた。


――責任は重大だ――


「それでは、また夕方に。ミューゼル、待たせたね。行こう」

「ご利用ありがとうございます」


 声を揃える一同に笑顔で立ち去るハウル。

 残されたマイキー達は湧き起こる高揚感にただただその身を打ち震わせ、顧客が立ち去った後には、Marshe nes Abelでは歓声が上がっていた。

 大金を涼しげな顔で置いていったあのハウルという名の冒険者は何者なのか。想像が妄想となり、膨れ上がり、そして皆の中では完全に暴発する寸前だった。

 マイキーのPBに振り込まれた金額を見て大喜びする一同。タピオは桁を何度も数えながらキティと手を取り合って飛び跳ねる。


「おいおい、振り込まれたこの金額が収益になるわけじゃないんだぞ」と仲間を制すマイキー。


 収益計算としては原価11177ELKの25%となる2794ELKが純利益となる。

 マイキーは喜ぶ仲間達を前に自らも満更でもない表情を浮かべて立ち上がる。


「それじゃあ、成り行きは見てただろ。僕は急遽注文が入ったんでスティアルーフに買出しならぬ、お遣いに行ってくる。皆は街からそう遠く離れない荒原でメルボル狩りでもしててくれよ」

「お遣い、行ってらっしゃい!」


 歓声を上げる仲間達に見送られて、店を後にするマイキー。

 この街に来てからのこの流れは完全に運気が回っているとしか言い様がない。土地の権利書にしても顧客からの注文にしても願っていた事が次々と叶って行く。

 駅前までの七百メートルの荒地を踏みしめながら、柄にも無くマイキーは込み上げる想いに思わず緩む表情を必至に抑えていた。


 ■作者の呟き


 今年も二十四時間テレビ始まりましたね。毎回本当に感動するので大好きな番組なのですが、終日これから意気込んでテレビに向うので明日の更新時頃は果ててるかもしれません(笑)

 もし、更新が遅れたらあの馬鹿、力尽きたなと思って下さい。更新は当日中に必ず行いますので一応ご報告までに。

 今日はいよいよ選挙ですね。余計な事は口走れませんが、どう転んでも日本の未来が明るくなるといいですね。


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