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ARCADIA ver2.00  作者: Wiz Craft
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 S5 VS Melbol

 街の郊外から荒原と出ると、そこには悠久の赤野が広がっていた。

 セント・クロフォードから夜眺めた景色ともまた異なる。地に足付けてその感触を確かめながら生身で感じたバスティアの大地は思ったよりも地盤が固い。

 乾燥した赤土には所々に無数の罅割れが走り、暗がりを見せていた。


「見た感じ、赤野というよりは紅野だな」とマイキー。


 彼の言う通り、日に照らされた大地は一同が思っていた以上に紅い。一体何がこの大地の色を生み出しているのか。そんな妄想を一同が巡らせる中、ジャックが不穏な一言を呟く。


「冒険者達の流した血の色だったりしてな」と、声色を低めるジャックにすかさずタピオが諌める。

「ちょっと止めてよジャックさん! そういうのこの光景目の当たりにすると冗談に聞こえなくなるから本当に止めようよ!」


 分かり易く動揺するタピオを揶揄からかう様に挑発を始めるジャック。そんな彼の言葉の弾幕から逃れようとアイネに助けを求めるタピオ。


「タピオちゃん可愛い。大丈夫よ、お姉さんがついてるから」

「何だよその感情のこもってない言葉。アイネさんまで酷いや」


 騒ぎ出すメンバーに溜息を吐いて荒原に踏み出すマイキー。

 荒原の彼方には長い首をもたげる数頭のメルボルの姿がはっきりと見て取れた。手前ではそのメルボルを囲むように小さな影達。ワイルドファングである。灰色と紺を混ぜ合わせたような深みのある毛並みのその野狼達は一匹のメルボルを追い立てていた。


「ここの生態系は随分荒々しいな。モンスター同士で共食いかよ」と葉煙草を咥えるジャック。

「それはここに限った事じゃない。生態系ピラミッドとして東エイビス平原にもちゃんと相関関係が有った。ミクノアキャットを頂点としてフォクシーが中層に、哀れにもウーピィはその両者から捕食される最下層の底辺に位置してた。俺らが仕留めた獲物を狙ってミクノアキャットが襲ってくる事何度もあっただろ?」


 マイキーの説明を受けて納得したように頷く一同。


「それじゃ、ここではワイルドファングはメルボルに対して捕食者なのかな」とタピオ。

「いや、そうでもない。見てみな」


 襲い掛かったワイルドファングの群れに対し、一頭のメルボルは必至に暴れ回っていた。地表でその長い首の直撃を受けたワイルドファングがサボテンに叩きつけられて光と為って消える。またその肢体に噛み付こうと後方から接近した小さな影は、メルボルの強靭な後足の直撃を受けて地面へと崩れ落ちる。

 数では優勢に思えたワイルドファングは、獲物からの思わぬ反撃に蜘蛛の子を散らすように逃げて行く。


「獲物が必ずしも逃げるとは限らない。ここの獲物達は手強そうだ」


 対峙する獲物達に向ける遠目は真剣そのもの。紅野の彼方を見つめる一同を生温かい風が撫で通り過ぎて行く。

 バスティアの地でまずマイキー達が狙いと定めたのは体長三メートルは裕に超える白麒麟メルボルだった。荒原に点在する灌木にその長い首を下ろして葉を噛み砕くその姿はとても草食動物とは思えない。その固い下顎の門歯に、上顎の歯板をぶつけ磨り潰すその動きは肉食動物の捕食光景にも引けを取らない映像だ。

 メルボルはマイキー達が近付くと、その頬歯を収めた強靭な顎を掲げて威嚇する態を見せる訳でも無くただ悠然と構える。その余りにも威風堂々とした佇まいから、一瞬狩るモノと狩られるモノの関係を忘れる程に力強い威圧感を受けていた。


「さっき見た通り、メルボルとの戦いで注意する点は首と後脚の動きだ。どっちも一撃を食らったらダメージは重い。前衛は重々注意しろよ」


 マイキーの言葉に頷くジャックとタピオ。

 ジャックは手に構えたバロックソードを正中線に構え、香煙草を吐き捨てる。


「Power Charge」


 その呟きに動揺を隠し切れず皆が彼に視線を向ける。


「出し惜しみってのは性に合わないからな」


 開幕発動。ソルジャーのギフトであるパワーチャージの再使用時間は五分。そのタイミングを考えると、特定のチャンスを狙って強撃を温存するよりは、一戦ごとに開幕発動し安定したダメージを狙う事も有効な手ではある。そして開幕の強撃は敵のターゲットを固定する事が出来る。防御力の高いソルジャーが開幕に敵のターゲットを固定する事は実に有益だった。

 ジャックがそこまでを考えて行動しているかは不明だが、マイキーの戦略上においても彼のこの行動は今後の戦況をコントロールし易くなる優れた一手だった。

 腰元に剣を引き、WAの発動体勢に入る。繰り出すは片手剣技バイカースラッシュである。


「ジャックの馬鹿!」


 罵声を浴びせるアイネに慌ててサポートに向うタピオ。

 振り回される敵の重い首による打撃をジャックは盾で真正面から弾き返すと、受け止め際に敵の顔面に向って溜め込んでいた剣気を解き放つ。

 ジャックの剣筋が光の軌跡を刻み、強烈な一撃が突き刺さる。


「Biker Slash」


 その一撃を受けたメルボルの顔面が一瞬歪む程の強撃。乾燥土にしっかりと突き立てていた獲物のその足腰が折れ、肢体が地面に投げ出される。マイキーの視覚上では『26』というダメージがポップアップし、敵のHPゲージの三分の一が減少を見せる。


「スタンしたぞ。顔狙え」


 ジャックの掛け声にマジックチャージを発動したアイネのファイアボールがメルボルの頭部を包み込み、鬣を伝い肢体が炎上し始める。緑色だったHPゲージは既に黄色域に突入しその半分が削られていた。

 焼き尽くす炎の痛みに悶絶する獲物はその前足を大きく払い、攻撃を仕掛けていたタピオの身体を薙ぎ払う。

 衝撃で数メートルを地表を転がされたタピオの元に駆け寄るキティ。幸いにもタピオはすぐに立ち上がり戦線へと復帰の意志を見せる。


「タピオ、大丈夫か」


 マイキーの掛け声に剣を構えて「大丈夫!」と応えるタピオ。同時に一同の前に揺らめき立つ影。

 脳震盪から回復したメルボルは、パーティーを高みから見下ろし憤りの鼻息を漏らす。

 首を大きく振り上げて地面に叩きつけた瞬間には、ジャックはその場から身を躱していた。


「ジャック、この中ではお前が一番防御力が固い。上手くターゲットコントロールしながら、タピオと重ならないように位置取れ。必ず別方向から、一人は死角から攻撃するんだ」


 言葉に応えたジャックは隣で剣を振るうタピオから離れ、敵のターゲットを引きつけながら半回する。移動中、メルボルが振り回した強烈な一撃を再び盾で受け止め、即座にその顔面に向けて切り返す。再びポップアップする数値は『12』。やはりパワーチャージに乗せたバイカースラッシュに比べるとダメージは見劣りする。

 一方、同じ前衛を務めるタピオが与えられるダメージは平均『4』。ハンターであるマイキーが射撃で与えられるダメージの平均値が『5』である事を考えても、この値は不足気味だった。がむしゃらに剣を振るうタピオのレベルはLv4。赤銅のバロックシリーズを装備する事が出来ない彼が手にするは未だにあの青銅ブロンズの剣なのだ。

 白麒麟の巨躯が地表に崩れ落ちた時、彼は息を切らせながら立ち昇るその光芒を見つめていた。


「タピオ、ちょっと」


 呼び掛けるマイキーに、顔を上げて当惑しながら近寄るタピオ。

 PBを開いたマイキーは一枚のカードを取り出しタピオに手渡しする。


「え、これは?」


 それは以前に緑園の孤島でマイキーが入手した漂流者の銅剣だった。漂流者の銅剣はLv1からの装備にしてダメージ値がD7と優秀な性能を誇っている。彼が装備する青銅の剣<D5>よりは幾分か与ダメージは増すだろう。加えてマイキーは彼にこんな質問を投げ掛けた。


「タピオ、物理攻撃力に今どれだけ振ってる?」

「え、パラメーターボーナスの事? 今物理攻撃力には『4』。物理防御力には『3』。魔法防御力に『2』振ってるけど」


 タピオの言葉に頷いたマイキーは指示を出し始める。


「魔法防御力に振った『2』のポイントを物理攻撃力に限界値の『6』まで割り振るんだ。このエリアじゃ今のところ魔法防御力を上げる意味は無い。敵のターゲットはジャックが開幕のP.Bikerで取るから基本的にはお前はターゲットは気にしなくていい。物理防御力を上げるよりは物理攻撃力に特化した方がいい」


 マイキーの説明を受けて「うん、分かった」と地面にしゃがり込みPBを弄り始めるタピオ。

 話が終わるとジャックはマイキーの元へとやって来て、ドロップアイテムが無かった事を愚痴り始める。


たてがみ、落とさなかったな。それともミクノアキャットの髭みたいに抜いてマテリアライズ化しないといけないのか。だとしたら厄介だぜ」


 メルボルの首に沿って生えた鬣を引き抜くには地上二メートル以上の高い肢体の上に跨る必要がある。


「さっきみたいに一度スタンさせて、その間に跨るしかないな」


 話し合う一同に向かって、マイキーはもう一つの問題点を指摘する。


「すっかり忘れてたけど人数が五人になった事で、経験値が入手出来ない。僕らがパーティーで経験値を入手するにはLv8以上の獲物と戦う必要がある。もしくは今の戦力を分断して、二つのパーティーに分けるって方法もあるけど、回復役がキティしかいない以上、格上の相手に戦力の分断は得策じゃないな。元より今回の目的は敵の下見と認定試験の納品アイテム。別段、今は問題ない」

「ごめん……僕が入ったから」


 謝罪するタピオの肩に手を掛けて即座に否定するアイネ。


「そんな事、全然気にする必要ないんだから。マイキーもそんなつもりで言ってないよ」

「アイネの言う通りだ。タピオ、僕が言ってるのはむしろ逆さ」


 マイキーの言葉に顔を上げ尋ね返すタピオ。


「逆……って?」


 その質問にマイキーは少し考え込むように言葉を溜めていた。


「僕らがパーティーを分散して戦う道を選ぶというなら、より仲間が必要って事さ。まぁ、今すぐに考える必要は無い。追々な」


 そう語って微笑して荒原の中を歩き出すマイキー。

 仲間に向ける彼の背中は静かだがとても力強く、仲間にとっては頼もしい支えだった。

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