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ARCADIA ver2.00  作者: Wiz Craft
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 S4 Restaurante 『Back Bared』


■創世暦ニ年

  四天の月 炎刻 4■

 プレイヤーズエリア。現実においても仮想世界においても私有地を持つという事は一般的には深い喜びを与えてくれる。可変する世界の中で、自らの手で変化を齎す事が出来る領域というのはユーザーにとっては嬉しいものなのだ。

 残念ながら、現在のこの町の制限ではマイハウスかショップかの二択しかない為、マイキーが見回った限り、現段階で土地購入に踏み切るような富裕層は皆マイハウスに費やし土地を持て余しているようだった。

 僅かに存在するプレイヤーショップにも、見慣れない雑貨や武器防具が雑然と並ぶだけで、購入意欲を掻き立てるには余りにも寂しい内容だった。土地を購入し、ショップを建てたからと云って経営的手腕が無ければ、ただのスペースの無駄遣いである。そう云った意味でも現在の土地の利用のされ方はマイキーにとっては非常に残念な扱われ方だった。

 自分が土地を理由するならばほんの百平方メートルの小さなスペースで構わない。赤煉瓦のショップで販売する内容を夢に描き妄想する。無い物強請ねだりという事は分かっている。

 それでも、自分に百平方メートルだけでも土地があれば。そう夢想して止まなかった。

 翌朝、飾り気の無い固いベッドで目を覚ましたマイキーは仲間達を誘い、街に唯一存在するレストランへと誘い出した。場所の下調べは昨夜の内に済んでいた。Backバック Baredベアードと提げ看板が取り付けられた開け放しの入口を潜ると、中では多くの冒険者が朝食を摂っていた。打ち鳴らされるナイフやフォークの音にちょっとした安堵を覚える一同。


「こんなにたくさん人居たんだね。誰も居ないのかと思っちゃった」


 お世辞にも綺麗とは言えない殺風景な店内には、正面奥には凹型のカウンターが、その両脇では枯れ果てたように見える観葉植物が頭を垂れていた。その手前には鼠色のテーブルクロスの敷かれた無数の台が並んでいた。天井に取り付けられたこの世界では見慣れたプロペラ式の空調も停止しており、気のせいか店内は外気よりも蒸し暑くさえ感じた。

 アイネの言葉に頷いたマイキー達は、樽が積み重ねられた部屋隅の空いた席へと陣取りメニューを広げる。


「何か暑くて食欲出ねぇな。このコカトリスの唐揚げ定食にするか」

「何で食欲無いって言ってる奴が朝から唐揚げ食えるんだ」


 マイキーの突っ込みに同意したタピオが苦笑する。


「ジャックさんって結構大食いだよね。採掘場の時から思ってたけど、ほんとに良く食べるなぁって」

「大食いっていうか、こいつの食い方にはコンセプトが感じられないんだ。ただ食べ物があるから口に運ぶ。だから質より量、バランスより炭水化物や脂肪を選ぶんだこいつは」


 マイキーの苦言にジャックがメニューから一旦視線を外し反論する。


「お前、朝飯食うのにいちいちコンセプトなんて決める必要あんのかよ。じゃあ、お前の今日のコンセプト何だ。言ってみろ」

「僕の理想の朝食は決まってるんだよ。欧米風、朝食の定番。焼きたてのパンにサラダだろ。メインには熱々のベーコンエッグ。後は熱いブラックコーヒーがあれば文句は無い」


 断言するマイキーを可笑しそうに見つめるアイネとキティ。ジャックは余りにもはっきりとしたマイキーの物言いに一瞬口篭りながら言葉を返す。


「お前の食い方の方が在り来りじゃねぇか。大体このクソ暑いのに朝から熱いブラックコーヒーなんて飲む奴の気がしれねぇっつうの」


 張り上げるジャックの言葉に周囲のテーブルでコーヒーを啜っていた冒険者の何人かが反応しむせ始める。


「お前五月蝿いんだよ。何より声がでかい。鬱陶しい」


 マイキーの言葉に納得行かないジャックは暫く不平を零していたが、料理がテーブルに現れると全て忘れたように食べる事に集中し始める。

 ジャックに続くように皆、料理を注文し質素な朝食を摂り始める。


「今日の予定はどうするのマイキーさん」とサンドウィッチを片手に尋ねるタピオ。


 マイキーは定言した通り、ベーコンエッグとサラダと突付きながらその顔を上げた。


「そうだな、早速だけどバスティア荒原で狩りしようと思ってる。情報は圧倒的に不足してるけど、だからと云ってこの街でぶらぶらしてても情報なんて集まらないしな」

「確かに、そうだよね。僕らも昨夜この街見て回ったけど、ネットワークは勿論、Local Applicationの端末さえどこにも見当たらなかったから」


 メルボルのハムステーキと玉子を挟んだサンドウィッチを口元に運ぶタピオ。

 アイネとキティもまた同じメニューを手に取り、マイキーの顔色を窺がっていた。


「とりあえずは西だ。西行ってバスティア荒原に生息する基本四種の生物狩って感触を確かめる」


 マイキーの言葉に頷いた一同はここである言葉を思い浮かべていた。

 それはあのクエストに記されていた一文。


――調査隊の数組がこの地で突如、得体の知れない何者かに襲撃を受けて命を落とした――


「もし、連中と出会ったらどうするんだ」


 神妙な顔つきを見せるジャックの言葉にマイキーは微笑した。


「状況次第だな。命が懸かってるんだ。殺るか逃げるか、二択だろうな」

「話し合いとか出来ないのかな」


 怯えた様子で平和的解決を口にしたのはタピオだった。

 だが、突然の襲撃を仕掛け命を奪うような連中に話し合いが通じるとは思えない。また言語を共通認識出来る保証も無い。

 何よりこれは興醒めな発想だが、人間と会話を可能にする程の自立思考を可能にしたAIが組まれているとは到底思えない。もし、それが可能であるならば人類にとっては一大革命である。恐らくはプレイヤーを見掛けたら強制的に戦闘態勢に入るようにプログラミングされているのだろう。戦いが避けられないのであればこちらの行動方針も絞り易い。

 残る最大の問題点は連中の戦闘力である。非常に好戦的と聞く敵のその能力は未知数。バスティア荒原の攻略に乗り出して命を落とし、スティアルーフに出戻った連中の書き込みから察するに並々ならぬ相手である事は違いない。


「正直、個人的には連中との遭遇は願ったり叶ったりだ。今回の旅はその下見も兼ねてるからな」

「下見で命落とさなきゃいいけどな」


 ジャックの言葉に「精々祈れ」と返したマイキーの言葉に息を呑む一同。

 ちょっとした朝の談笑は思わぬ緊張感をメンバーに齎したのだった。

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