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ARCADIA ver2.00  作者: Wiz Craft
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 S1 汽車に揺られて

 赤褐色の苔混じりの塗り壁。改札の備え付けられた煉瓦造りのトンネルを抜けると、そこは不思議な景色に包まれていた。まるで遥か旧世紀にタイムスリップしたような。力強く巻き上げられた黒煙が風に漂う中、冒険者達は鉄筋が剥き出しとなった骨組みのホームで停車する鉄塊を眺めていた。

 黒光りする鉄塊が黒煙を吐くその様子は、機械的でありながらも、力強い迫力を帯びている。その身に迫るような圧迫感は強大なモンスターと対峙しているような生物的な錯覚を生み出す。相反するその二つの感覚に戸惑う冒険者はその場に少なくない筈だった。


「蒸気機関車か。文献で読んだ事はあるけど、まさかこんな形で見られるなんて。すごい迫力だな」と黒煙に手を翳しながらマイキー。

「見られるどころか今から乗るんだぜ俺達。それにしても煤が酷いな」と煙を振り払うはジャック。


 呟きながら今セント・クロフォード号へと乗り込むマイキー達を引き止めるようにアイネが手を振り訴え掛ける。彼女の隣ではタピオがこの前の紅き流星のクエストで手に入れたビデオスコープを片手に、黒鉄の巨影を前にした仲間達の姿を撮影していた。


「ねぇ、汽車に乗る前にお弁当とか買わないの、二人共?」

「確かにバスティア荒原まではここから直通で二時間強掛かるしな。今日の夕食は駅弁か。外で売ってるのか?」


 踵を返すジャックに遠くの掲示板を指差すタピオ。


「さっき、お弁当は汽車の中で販売してるって書いてあったよ」

「そうか、なら中入ろうぜ。あいつもう行っちまったよ。てか、タピオお前何やってんだ?」


 顔の半分程の大きさの撮影装置を片手にモニターから目を離すタピオ。


「折角入手したから使ってみようと思って。それに皆との記録を撮っておいたらきっといい思い出になるんじゃないかなと思うんだ」


 タピオが構える前では、キティとアイネがにこやかな微笑みを浮かべて旅の抱負を語り始める。

 その様子に微笑したジャックは既にセント・クロフォードの中へと消えたマイキーの後を追って乗車する。黒塗りの乗車口内部は、様々な金属部品が組み合わされた機械的な空間。接合車両である繋ぎから車両へと足を踏み入れると、無骨な外観を裏切る事無く、車両内部にも黒を基調としたお世辞にも快適な空間には見えない座席が列を成していた。マイキーは車両中央に位置する座席に一人腰掛けていた。材質の判別出来ない固い何かしらの木材で出来た黒塗りの座席。三人掛けのその座席窓際に陣取った彼は、隣にジャックが腰掛けようとすると即立ち上がるように合図する。


「席、前と後ろでバラバラ?」


 アイネの言葉にマイキーは無言で前方の通路側の座席に手を伸ばすと、ジャックに反対側の座席から離れるように指示する。通路側のレバーが引かれると同時に回転を始める座席。後列に並んで一方を向いていた前列の座席が回転し後列と向き合う。旅の列車では一般的な光景だが、蒸気機関という旧世紀の遺産の中で見ると、また新鮮な光景に映る。


「これで向かい合って座れるだろ」

「ありがとう、マイキー。座席回転したんだね。キティ、じゃ一緒に座ろうか。窓際がいい?」とアイネがキティを座席に座るように促す。


 皆が席に着いた時、マイキーは既にコーヒーを片手に寛いでいた。


「お前、そのコーヒーどうしたの? 持ってきたのか」

「いや、車内販売。PBで注文するとこの台座に出てくる。大体もういい加減理解出来るだろ」


 マイキーが指差す台座には手際良く五人分の駅弁が用意されていた。


「選べる駅弁の種類は、俺達エコノミーは一種類だけみたいだな」


 このセント・クロフォードではEconomyエコノミーからVIPヴィップFirstファースト Classクラスの三種類から、改札でチケットを購入する際にそれぞれ自由に席を選ぶ事が出来る。マイキー達が取得したのは当然言うまでも無くエコノミー。最も最安価なサービスを希望したのだから、この待遇でも文句は出し辛い。あくまでもサービスの選択権はユーザーに委ねられているという理屈だ。


「完全に足元見られた待遇だよ」


 エコノミーという言葉にタピオが苦笑しながらPBを開きマイキーに駅弁代の振込みを申し出る。


「マイキーさん、お弁当ありがとう。25ELKだよね」

「いいよ、たかが弁当代。いちいちPB開く労力が面倒臭い」


 マイキーの言葉に失笑する一同は開いていたPBの手を弾き、次々と料金の振込みを申し出る。PB上にポップアップする幾つもの確認フォームに彼の顔が歪むと、アイネは強引にマイキーに了承させる。


「こういうのはしっかりさせとかないとね。特に金銭問題は人間関係では重要だから」


 その言葉に渋々了承したマイキーは一人一人の申し出を了承し、不躾にキーボードを連打し始める。その様子が可笑しかったのキティは一人笑みを零していた。

 蒼い波模様の包装紙を解きながら、駅弁を開いたジャックはその内容に目を輝かせる。


「おお、美味そう。海鮮チラシか。イクラに海老にこの赤身の魚なんだろな。この茸みたいなのはピノか」

「ジャックさん、汽車まだ動いてないのにもう食べるの」


 呆れた表情で微笑むタピオ。ジャックにとっては花より団子。

 汽車の窓から流れ動く美しい景色を眺めながら食すよりは、食欲に素直に包装紙を解いた方が彼独自の理に適っている。


「上手いぜこれ。お前らも食えって」


 ホームの窓からは黒煙が漂うホームが相変わらず映し出されていた。

 その光景の中に甲高い汽笛の音が紛れ込んでくる。


「汽笛だ。見て、ゆっくり動き始めてるみたい」


 それは発射の合図、ゆっくりと動き出す汽車は絶えず黒煙を吐き出しながら、冒険者達を乗せ運び行く。


「ここから二時間の汽車の旅か。楽しみだね」


 タピオの言葉に笑顔で頷くキティ。


「まずは、マイキーさんとジャックさんの認定試験のアイテム集めるんだよね。どんなモンスターが出てくるんだろ」

「ワイルドファングはオープンβの段階では結構動きが素早くて、攻撃力が高い初心者殺しなモンスターだったらしい。メルボルについては真白な毛並みの麒麟みたいなモンスター。こっちは実際見てみないとどうにもな。まぁ、攻略難易度的にはボマードと同レベルか」


 マイキーの言葉に「なら、問題ないな」と海鮮チラシを頬張り頷くジャック。


「何かお前見てたら腹減ってきたな。列車も動き始めたし、食うか」とマイキー。


 その言葉をきっかけに次々と包装を解き始める仲間達。

 流れ行く景色ではスティアルーフ東門発の砂礫の敷かれた線路。鉄骨の張巡らされた無骨なホームから、東に緩やかなカーブを描いたその先に東エイビス平原の緑々しい草原が映り始める頃、マイキーは窓辺の景色に見惚れながら微笑みを漏らす。


「汽車に揺られる旅も悪く無さそうだな」


 車輪が線路を渡るその心地良い振動音に、自然と揺り動かされる心。

 いつしか仲間達のその表情もまた自然と微笑みで満たされていた。


 ■シェアード・ユニバースご希望の皆様へ


 ご参加の表明ありがとうございます。参加の際の注意点ですが、メッセージに返信用のアドレスを載せる事を忘れないように宜しくお願いします。また載せて頂いた方もアドレスの記入ミスで返信できない場合があります。記入の際はご注意宜しくお願いします。心当たりのある方は御手数ですが再度参加希望の旨をメッセージフォームより宜しくお願い致します。

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