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ARCADIA ver2.00  作者: Wiz Craft
7/169

 S5 レミングスの酒場

 湯屋はこの上無い至福の一時を与えてくれた。充分に身体を休めたマイキー達は約束通り藁々のロビーで待ち合わせると夜のエルム村へと繰り出していた。時刻は既に二十時を回っていたが夕闇の中で淡い光を放つ花畑にはそこで寛ぐ冒険者の姿が多く見られた。

 予め食事処については既にマイキーが調査済みだった。藁々から女神像が存在する花畑を対角線上に抜けるとそこには小さな木立が広がっている。三人が目的とする場所はその中に在る。

 不思議な淡い光を放つ花々によってライトアップされた女神像の脇を抜けたマイキー達は無数の冒険者達とすれ違いながら、目的の林を貫く小道へと足を掛ける。夕闇の木々に覆われた小道は、空に浮び掛けた僅かな月明りをも遮断し、その様子はさながら天井に隙間の抜けた洞窟を渡り歩くようだった。

 歩く事僅か数分。その自然が織り成す木々の洞窟を抜けた一同はそこに広がる景色を前に足を止める。


「着いた。ここか」とマイキーが暗闇に浮ぶその無数の明りを見渡して呟いた。


 木々に囲まれたオープンテラス、ちょうど地表から三メートル程の高さを太い枝を組んで編まれた木柵が覆っていた。木柵からは、つるで吊り下げられたランプが淡い光を各テーブルに落とし、その下では酒を酌み交わし賑やかな笑い声を上げる無数の冒険者達の姿があった。

 テーブル数にして五十、席数にして凡そ二百五十席にも及ぶ直径二十五メートル程の円状に広がったこの空間は、冒険者達の憩いの場である。そう、ここが『レミングスの酒場』だ。

 前情報で調べていたマイキーも、村の木立の中に突然と現れたその幻想的な明りを前に完全に言葉を失っていた。

 そして今、純朴な木の香りが漂うオープンテラスへと上った三人は居場所を求め、辺りを見回し始める。


「大分、込んでるな。酒飲めるのかここ」とジャック。

「まぁ、酒場だから。この世界じゃ、自分達も法律に縛られる事は無いからさ。基本的に飲酒も自由さ。ジャックにとっては都合いいだろ? 陰でこそこそ飲まずに堂々と飲めるんだからさ」とマイキーがジャックに微笑み掛ける


 その言葉にジャックは表情を綻ばせてマイキーを軽く小突いて「違いないな」と頷いた。

 酒場はかなりの盛況振りを見せていたが、幸いな事に酒を酌み交わす冒険者達の合間に所々空いている席が見られた。


「早く席座ろうよ。あそこは?」


 そうアイネが指差す先に誘導されるように、テーブルへと着く三人。

 テーブルへ着くなり三人はそれぞれ背伸びを始め寛ぎ始める。


「まずは飲み物で乾杯しようぜ。風呂上りはやっぱ冷たいビールだろ」と顔を輝かせるジャックに、呆れた様子で失笑するマイキー。

「お前、そういう発言にここで馴れると現実でも出るから気をつけろよ。表では違法だからな」


 テーブルに置かれたメニューを見つめながらマイキーが呟くと、ジャックが「堅い事言うなよ」と辺りを見渡して係員を探し始める。


「何だっけ。現実でもここで出来る事が何でも出来るように感じちゃう病気。何かあったよね」


 髪を梳かしながらメニューを見つめるマイキーの顔を覗き込むように語り掛けるアイネ。


「ああ、UTFPUSアトパスだろ。無意識的狂的発作性……何たらかんたら。クローズドαの時、随分ニュースで話題になったよな。あれで飛び降り自殺した奴も居たんだよ確か」

「マジで?」


 苦い顔で問い返すジャックにマイキーは頷き言葉を続ける。


「多分、空飛べる気にでもなったんだろ。そいつのせいで、この世界の記憶に関する規約が見直されて、オープンαから記憶消去って忌まわしいシステムが生まれたらしいよ。ゲームの世界の記憶持ち帰れないとか糞仕様以外の何物でも無いからな。記憶が持ち帰れない以上ゲームやる意味全く無いだろ」


 マイキーの説明に頷き微笑むアイネ。


「そうだったんだ。でも良かったね。今はまた記憶持ち帰れるようになったんでしょ」

「ああ。でも結構このUTFPUSってのは厄介で、移行期間中にもそこそこの数の問い合わせがサポートセンターにあったらしい。α、βの経験者は結構被害に遭ってるって噂。まぁ、軽い症例も含めてさ。なんかパーソナルブック一つとっても何か現実で宣言しちゃいそうだろ。それだけでも、UTFPUSの軽い片鱗だからさ」


 そこまで語ったところでマイキーは語る事を止めて、先程からきょろきょろと辺りを見渡しているジャックへと視線を流す。


「ジャック、ここ店員居ないから。PB開いてメニュー選択すると、このテーブル中央の台座に料理が出てくるんだ」


 そう語り掛けながら手にしていたメニューらしき冊子をジャックに手渡すマイキー。


◆―――――――――――――――――――――――――――◆

〆メニュー注文の仕方


1-パーソナルブックを開いて下さい

2-デスクトップアイコンからSHOP-MENU<メニュー>を選択します

3-表示された画面にてご希望のお食事に選択し購入(個数変更可:チェックボックス右)

4-各テーブルの中央に設置された台の上に、御食事が自動転送されます

5-ごゆっくりとお食事をお楽しみ下さい


※ご注意-食後の食器類について-

食べ終えた後の食器は、中央の台の上にお戻し下さい。大変御手数ですが、何卒ご協力の程、よろしくお願い致します。

◆―――――――――――――――――――――――――――◆


 冊子に一通り目を通しふと呟くジャック。


「これメニューじゃなくてマニュアルだったんだな。なるほどPBで注文するのか」


 そうして三人はPBを開くと、見慣れない『レミングスの酒場-MENU』というポップアップアイコンをクリックする。


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

〆レミングスの酒場

 メニュー


▽前菜

□×1 シザーサラダ 7 ELK

□×1 海草盛り合わせ 8 ELK

□×1 スプラッシュコーンサラダ 9 ELK

□×1 トマトサラダ-フランの花弁添え- 10 ELK


▽スープ

□×1 コーンポタージュ 6 ELK

□×1 海藻のスープ 6 ELK

□×1 ミネストローネ 6 ELK

□×1 南瓜の冷製スープ 6 ELK


▽メイン


□×1 バターライス 6 ELK

□×1 シーフードパスタ 10 ELK

□×1 ムームーの香草焼き 12 ELK

□×1 シャメロットのチーズ蒸し 15 ELK

□×1 エルム近海の刺身盛り合わせ 18 ELK

□×1 黒班鳥の唐揚げ 21 ELK

□×1 レミングスの酒場特製シチュー 30 ELK


▽デザート


□×1 蜂蜜ゼリー 5 ELK

□×1 スウィートポテト 7 ELK

□×1 アップルパイ 10 ELK


▽ドリンク


―ノンアルコール―


□×1 おいしいお水 無料

□×1 蜂蜜ジュース 3 ELK

□×1 アップルジュース 3 ELK

□×1 トマトジュース 3 ELK

□×1 アップルティー 3 ELK

□×1 アイスカフェ 3 ELK

□×1 ホットカフェ 3 ELK

□×1 椰子の実ジュース 5 ELK



―アルコール―

□×1 ビール 5 ELK

□×1 蜂蜜サワー 5 ELK

□×1 アップルトリック 5 ELK

□×1 レッドアイ 5 ELK

□×1 カルーアミルク 5 ELK

□×1 エルム特産地酒 10 ELK


 ●注文する

 ●設定クリア

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


 メニューを見つめながら、それぞれクリックマーカーを取り出す三人。

 PBはキーボード以外にもこのクリックマーカーと呼ばれるペンを使って操作する事が出来る。

 迷う事無くまずビールをクリックするジャックをマイキーが制止する。


「ビール頼んでいいんだけど、ちょっと待った。最初に皆で頼む注文まとめよう。折角だから最初は皆ビール飲むだろ。アイネもいい?」

「うん」


 マイキーの言葉に笑顔で頷くアイネ。


「あとは、前菜だけどこれも二個くらい頼んで皆で分けない? まずは無難にシザーサラダだろ。あと二人希望ある?」

「私海草の盛り合わせがいい」とアイネ。


 ジャックは「適当でいい」と前菜には興味を示さなかった。


「スープ居る奴は各自で。あとは酒のつまみになりそうなのは、刺身の盛り合わせかな。どう?」


 マイキーの言葉に「ナイスチョイス」と微笑して頷くジャック。


「じゃあさ。このエルム近海の刺身盛り合わせっての自分が頼むから。サラダをアイネ頼んで貰っていい? あとジャックは皆の分の最初のビールのオーダー頼むよ。あと欲しいもんが出たら各自追加で」

「確かに、刺身の盛り合わせとかダブったら確実に余るもんな」


 ジャックはそう呟きながら手早くビールを三杯オーダーする。

 同時にアイネとマイキーもまたそれぞれのオーダーを終えていた。

 オーダーと同時にテーブル上には変化が現れていた。テーブル中央の銀の台座の上に、柔らかな輝きと共に現れる料理と飲み物。

 テーブルの上には大きな皿に盛られたサラダがニ皿と、船盛りのように盛り付けられた大量の刺身。そして大きなジョッキに注がれ泡を立て弾けるビールが三杯並んでいた。


「なんか量多くねぇか。ビールってこれ大ジョッキ並のでかさじゃねぇ? 刺身も量おかしいだろ」


 当惑するジャックの前でアイネは「すご〜い」と笑顔を漏らす。


「三人で一つにして正解だったな。何か嫌な予感したんだ。充分だろ、これだけあれば」


 当惑顔をジャックに重ねるマイキーはそう呟くと、三人はそれぞれ大ジョッキのグラスを手に取る。

 旅始めの一日を祝って今杯さかずきを交わす冒険者達。


「それじゃ、これから僕らの進む道の先に栄光を祈って」と堅苦しく半ば冗談めいたマイキーの言葉に失笑する二人。

「何だそれ。厨ニ臭ぇな」とジャックに「いいんじゃない」と笑顔で呟くアイネ。


 祝福すべきARCADIAでの一日目の夜は、気馴れた仲間達との心地良い乾杯によって飾られていた。

▼次回更新日:5/11


 今回はレクシア大陸に向うまで結構文字数は伸びそうですね。話数単位の文字量を多くしているのですが、執筆量は現在調整中です。

 連載ペースとしては不定期となります事を重ねてお詫び申し上げます。

 それでは拙作ではありますが、宜しければ今後も本作にお付き合い頂ければ大変光栄です。何卒、宜しくお願い致します。

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