表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ARCADIA ver2.00  作者: Wiz Craft
66/169

 S15 VS Alzelodes

 死線を前にマイキーはパーティーにある言葉を託していた。


――女王蟻アルゼロデスの前にまずは周囲の子蟻から――


 現在、この石灰洞には存在する冒険者は十三名。圧倒的に敵の数が勝っている現在、ダメージを集中させるには、対象以外の外因を除く必要がある。

 マイキーの論法に従ってパーティーは忠実に行動を起こしていた。喚き叫び助けを乞う冒険者の元に駆け寄っては子蟻の掃討を手助けする。


「ありがとう……助かった」


 地表に足をつき項垂れるArgusアーガスと名乗った冒険者を前にジャックは立ち上がるように促す。


「休むのはあいつやってからにしろ。まずは、女王の周りの子蟻を全滅させてから一気に集中攻撃を仕掛ける。手伝えよ」

「ああ……分かった」


 青銅鎧を着込んだアーガスが立ち上がるその背中では、キティが杖を掲げ癒しの光を当てていた。

 その光景を見守るは、石灰洞の隅で身体を休めるクレリックの女性。SPが切れた彼女は戦力として換算する事は出来ない。ヒールによってSPが回復するまで彼女は仲間が苦しむ様子をただ黙って眺める事しか出来なかったのだ。


「この場にはクレリックはRemiaレミアしか居なかったんだ。彼女のSPが切れた今、回復手段は無かった」


 アーガスはキティをまるで救世主を眺めるようにその碧眼を向けると力無く微笑んだ。


「君が来れば、戦況はまた変わる。僕は命を懸けて君を守り通そう」


 青年の言葉にキティもまた小さな微笑みを返す。


「お喋りはそこまで。皆、また女王蟻が石筍に登り始めてるよ」


 キティの隣ではファイアロッドを構えたアイネが周囲に細心の注意を払いながら、子蟻に向けて火球を浴びせていた。また一方では咆哮と共に敵を蹴散らすフリードの姿と、的確に四方に散った子蟻の頭部を射抜き、息の根を止めるマイキー。

 マイキー達の加勢により巨大蟻が一匹一匹と姿を消して行く。その素晴らしい立ち回りに周囲の冒険者は自然と勇気付けられる。何よりたったの数撃で巨大蟻を沈める事の出来るフリードの攻撃力は頼もしい戦力だった。加えて戦場で特に光る才能を発揮した人物がもう一人。


「SPが切れてるクレリック、マジシャンは今のうちに坑道側でヒールしろ。ダメージを受けているソルジャー、ハンターもだ。それまで戦況は僕らが支える。キティ、怪我人を頼む」


 マイキーの言葉にキティが頷くと同時に、彼女の誘導で戦地で恐怖に蹲っていた冒険者達が坑道側へと避難を始める。的確で力強いマイキーの誘導に自然と冒険者達は指示に流れ始める。

 戦場に残されたのは前衛にジャック、フリード、アーガスのソルジャー三名。後衛にマイキーを筆頭に他に女性のハンターが二名。そしてマジシャンがアイネの一名。合わせてたったの七名。この七名でこの戦況を建て直し、仲間が回復するまで、又は援軍が到着するまでを凌ぐ必要がある。


「もうすぐ援軍も来る。絶対に乗り切るぞ」


 マイキーの力強い掛け声に、武器を構え猛る仲間達。

 フリードの一閃によって二匹の子蟻が消滅すると、後に続くように次々と前衛達が奮起する。


「残りあと八匹だ。二匹は俺に任せろ」とジャック。

「なら僕はこっちの二匹を」と続いてアーガスが先程とは一転、瞳に強い輝きを浮かべる。


 問題は残る四匹。だがそこには既に立ち向かう人影が在った。この苦境を先導する二人の冒険者の姿。


「なら、残りの四匹は僕らで殺るか。行けるかフリード?」

「愚問だ」


 マイキーが合図を出すと同時にまるで解き放たれた巨人兵の如く大剣を振り下ろすフリード。薙ぎ払われた大剣の衝撃で空中を舞う巨大蟻を追う様にマイキーが放った自動矢が獲物に止めを刺す。

 二人の美しい連携を見て他二人の前衛の後ろに駆け寄る後衛達。


「前衛は私達が一人ずつサポートするわ」


 ハンターの女性がジャックへと駆け寄り、もう一人のハンターへと合図を出す。

 それを見て、アイネもまたジャックへと声を掛ける。


「ジャック、あなたなら二人で大丈夫よね」

「誰に物言ってんだよ。当たり前だろ」


 ジャックの力強い言葉に笑みを返すアイネ。討伐隊には今確かな結束が生まれようとしていた。

 バラバラの連携では個々の能力は強まるどころか封殺される。個人を優先した今までの戦い方では苦戦は当然の結果だった。パーティーの利点とは、個人個人の能力を高める事では無い。連携によって生み出される効果を最大限に高める事にある。この連携効果によって一足す一の単純計算を二以上に限りなく高める。結果として、連携によって個人から生み出されるその戦力が百パーセント以上に引き出されるのである。

 変化する戦況。天井へと上った女王蟻が上顎を噛み鳴らし始めるとマイキーが的確な指示を飛ばす。


「ジャック、女王の落下に注意しろ。モーションに入ってるぞ」

「了解。ってうぉ!? 危ね。いつの間にか真下か」


 慌てて飛びのくジャックの前方を掠める巨影。彼らが戦っていた子蟻は女王の下敷きと為り、そこで息絶えた。我が子の消滅を憂いてか、大きくその頭を振り威嚇の構えを取るアルゼロデス。


「子供踏み潰して憤るってのか……逆ギレもいいとこだぜ」


 ジャックの言葉にサポートに当たっていたハンターの女性が苦笑する。


「こんな苦境の中で、冷静なコメント。あなた面白い人ね」

「冷静なつもりは無いんだけどな。ほら、来るぜ」


 ジャックの呼び掛けと共に、敵の突進体勢を見極めて大きく左右に散開する二人。付け焼刃とは云え、そこには確かに意志の疎通の取れたコンビネーションが生まれていた。


「私はエリーゼ。あなたの名前は?」

「ジャックだ。てか、お前こそ冷静だな。自己紹介なんてしてる暇あるのかよ」


 一方、もう二匹を任された前衛のアーガスは苦戦を強いられていた。一人で複数の敵を相手にする事に慣れていない彼にとって、法則化出来ないランダムな敵の動きは脅威に他ならない。それでも、後衛に当るダリアと名乗った朱髪のハンター女性とマジシャンのアイネの援護により漸く二匹の巨大蟻の討伐に成功していた。

 アーガスが振り向く頃には、既に子蟻の掃討を終えた仲間達がアルゼロデスと向き合っていた。


「後は残すは親玉だけだな。覚悟はいいか、この化け物」


 ジャックの呼び掛けに上顎を噛み鳴らしながら、大きく反転して石筍へとじ登り始める女王蟻。


「天井に上がったぞ、皆落下位置に気をつけろ」


 マイキーの掛け声が飛ぶ中、天井を不規則な動きで這いずり回るアルゼロデス。

 そして、ある一点で停止した直後、不気味な間が流れる。皆の身体が硬直した一瞬の間を狙ったかのように猛然と落下する巨躯。

 落下地点、寸前で身をかわすプレイヤーの影。


「ダリア!?」


 転がり避けた女性の長い朱髪が風圧に靡く。

 だが、女性は立ち上がる事は出来ない。アルゼロデスが掠めた左足首は完全に衝撃でその機能を失っていた。

 その彼女に目掛けて上顎を噛み鳴らす女王蟻。その姿に目の色を変えたマイキーが彼女の身体を抱きかかえる様に身を流して転がり伏せる。

 同時にアルゼロデスの巨躯が力任せの突進に走る。鐘乳洞内に震動が走り、壁際の石筍は粉々に破壊され周辺には亀裂が走る。


「ありがとう」と、マイキーに向って一言礼を述べるダリア。


 マイキーは無言で彼女から離れると再び、巨大石筍へとじ登る女王蟻の姿に舌打ちする。アルゼロデスの予測が困難な落下運動に恐怖を隠さず、一同が青褪めたその時だった。


「あまりに動揺して重要な事忘れてたな。アイネ、例のもの用意してきてるか?」


 マイキーの言葉に頷くアイネはPBを素早く弾き、その手に緑石の宝石の付いたロッドを振り翳す。


「エアロッド。それでどうするつもりなの?」


 エリーゼの問い掛けに微笑するマイキー。


「ここからは神頼みさ、掲示板の情報で奴の属性について触れた記述があってね。あいつは土属性が25%だって話を信じてみた」


 マイキーの言葉に首を傾げる一同。フリードだけがその内容を正確に把握していたようだった。


「この世界の法則に従えば、風属性は土属性に対して優勢だ。つまり、あいつが土の属性25%を誇るなら、風属性魔法であるエアカッターはダメージが二割五分増しになる」


 ここまでマイキーが説明した時にアイネは既に魔法の発動体勢に入っていた。


「試してみる価値はあるだろ」


 マイキーが微笑を浮かべると同時に、石筍を昇っていたアルゼロデスに向かって真空の刃が解き放たれる。アイネがロッドを振り下ろすと同時に生まれた突風に手を翳す一同。

 放たれた真空刃は一直線に女王蟻目掛けて飛び、そしてその鋭き刃が石筍に張り付いていたその肢体を直撃する。

 

Kiiiiiiiiキィィィィィィィ


 女王蟻の金切り声が辺りに響き渡ると同時に、その巨大な肢体が真空刃によって刻まれ落下する。地表に落ちた巨躯は落下と同時に鈍い衝撃音を上げ、鋸状の手足を激しく蠢かす。

 それは周囲から歓声が漏れた瞬間。


「これで、こいつが天井に上る事は無くなった」


 呟きながら一歩、歩み出るマイキー。


「流石は我らがリーダー。考える事が違うぜ」とジャックの誉め言葉、紛い、小馬鹿にしたような売り言葉をマイキーは無言で流す。

「なるほど、属性攻撃を仕掛けるなど考えも付かなかった。頼もしい限りだな」


 フリードは剣を掲げると歩みマイキーに並び立つ。

 体勢を立て直した女王蟻は、今一度大きくその上顎を噛み鳴らし一同を威嚇し始める。


「攻略ってのは一個一個、行動を絞ってパターン化する事にあるんだ」


 マイキーの合図に散開する一同。女王蟻はそんな一同の動きには気付きもせずただ闇雲に石灰洞の壁へと突進を見せる。衝突と同時に轟音と共に微振動が辺りを包むと、冒険者達は嘲笑を浮かべる。

 壁際には体勢を崩し手足を追ったアルゼロデスの姿が在った。


「上顎を噛み鳴らすのは突進の合図、僕らを舐めるな」


 ここで完全に戦いの主導権は冒険者達へと移り変わった。

 これ程までに苦戦を強いられた凶悪な女王も一度その攻撃方法を対策してしまえば恐れるには足らず。石筍を昇れば真空刃によって撃ち落され、上顎を噛み鳴らせば身を躱される。あとは無謀にも壁に突撃し脳震盪を起こすのみ。そこが攻撃チャンス。


「一気に畳み掛けろ」と張り上げられたマイキーの掛け声。


 荒れ狂う剣閃と降り注ぐ矢雨。怒涛の波状攻撃を仕掛ける冒険者達を前に、次第にその手足を震わせ弱り始める女王蟻。見る見るうちにHPゲージが削られ、赤色域レッドゾーンへと突入する。

 もはや敵には体力はほとんど残されていない。アナライズゴーグルを通して敵のHPゲージが数ドットに陥ったところでマイキーは一同に呼び掛ける。


「これだけ苦しめられた相手だ。最後は派手に決めないか」


 マイキーの提案に皆が微笑む。戦場に立つ誰もが愉悦に浸る瞬間。

 「Power Charge」という掛け声と同時に、ジャックの身体が光輝くと同時にマイキーとフリード、そしてアイネもまたギフトを発動する。他の冒険者達もまたバイカースラッシュやストリングスショットと云った必殺技の体勢に入る。


「皆の仇よ。喰らいなさい」


 エリーゼの呼び掛けと共に一斉に女王蟻に向かって襲い掛かる一同。

 連続的に凄まじい衝撃音とエフェクトが巻き起こると、女王蟻の身体は一部が平らに成る程、ひしゃげて立ち昇る光芒の中へとその姿を消した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ