S10 不確定情報
Local ApplicationのBBSでは根源の情報で持ち切りだった。根源によって苦汁を呑まされた冒険者達が東エイビス平原へと出戻る人数に対して、刻々とラクトン採掘場を訪れる冒険者の数は圧倒的に増えていた。エリア人数の上昇に伴い、パーティの募集記事は絶える事は無いが、その撃退報告は僅か一握り。
載せられた情報の多くには、根源との接触によって味わされたその深い恐怖が掲示板上に綴られている。いつしか、根源の討伐を目的とした情報提供であるにも関わらず、坑道内での根源の存在は死の代名詞として用いられるように為っていた。
その難易度の高さから、このクエストを前に詰みを認識した多くの冒険者達は東エイビス平原でのレベル上げに懸命に励み始めたようだった。
掲示板上で掲げられた最低クリア基準はLv5。それ以下では根源と対面した場合、即死も有り得るとの情報に、ラクトン採掘場では響めきが上がっていた。
「Lv3〜4の十六人パーティで根源と遭遇。結果は全滅」とホテルロビーのソファーに凭れながらPBの情報を呟くマイキー。
Local Applicationからコピーしてきたその内容に目を点にする一同。
「……冗談だろ?」
香煙草を持った手を止めたまま動かさないジャックにさらに情報を読み上げるマイキー。その口からただ地下坑道が起こった事実がありのままに告げられて行く。
「他には、Lv4の十二人パーティで全滅、Lv5の八人パーティでも全滅報告がある」
マイキーの言葉に青褪める一同の表情。ただ一人タピオだけはその言葉を辛辣な表情で噛みしめていた。
「僅かに挙がってる撃破報告にも必ず死者出てるみたいだな。奴の記事も載ってたよ」
「奴って?」
尋ね返すアイネにマイキーは無言でキーボードを弾き始め一同にコピペした記事の情報を流し始める。
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Local Application
Access Point:ラクトン採掘場
▼多目的BBS
□投稿者 Fransky 【討伐報告】地下採掘場の魔物
地下坑道に潜む根源を撃破。試行回数は五回。
坑道内をマッピングした後、Lv4〜5の十三人のパーティーにて根源を撃破。
討伐時の死亡者は三名。報告迄に。詳しい討伐方法は各個メールにて。
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そこに記された投稿者の名前には見覚えがある。つい先日もその忌まわしき名を思い出したばかりだった。
メールに視線を留めたまま俯くキティの向かいで、内容を読み上げたジャックが真っ先に声を上げる。
「何だこいつ、フランスキーじゃねぇか。攻略情報勿体振りやがって。各個メールにて、ってなんでこんな面倒臭い真似してやがんだ」
その疑問にマイキーは明確に答えを告げた。
「取引さ。こいつ攻略情報を売ってるんだよ。難易度が高ければ高いほど、クエストの攻略情報は価値を持つからな。何もこういうやり方に踏み出てるのはこいつだけじゃない。緑園の孤島から情報売りつける輩は多い」
マイキーの言葉に首を振って「せこい野郎だ」の一言で一蹴するジャック。
確かに、今の段階ではこういった連中は彼の言った通り、せこいの一言で片付けられるかもしれない。だが、この先で必要になる情報の中には、情報屋の手を借りる可能性は否定出来ない。
「これから先は情報が生命線になる。とにかく正確な情報が欲しいところだな。攻略情報の中には高レベル者である先発調査隊の力を借りるってのもあったけど、これはフェアじゃないだろ。こういう他力本願な攻略重ねると、今後さらに難易度が上がるクエストに全く対応出来なくなるからな。適正レベルでクエストを攻略する、プレーヤースキルを高める事が重要なんだ」
マイキーが語る内容は至極正論だった。高レベル者の手を借りれば確かに攻略は容易いだろうが、後に八方塞になるのは見えている。それに何よりそうした強者の手助けを目的とした攻略はゲームの面白みを奪うのである。
あくまで攻略は少数精鋭、出来る限りはこのメンバーで行いたいというマイキーの意志。
そんな彼の言葉にここまで黙っていたタピオが疑問を口にする。
「でも、マイキーさん。一体どうやってこのクエスト攻略するつもりなの? マイキーさん達のレベルはLv5だけど、僕のレベルはLv4。合わせて五人のパーティーでとてもあいつを退治出来るとは思えないよ。あの圧倒的な破壊力……あいつ今までのモンスターとは桁違いなんだ」
真剣なタピオの眼差しにマイキーは片手で口元を抑えながら思索に耽っているようだった。
「何にでも抜け道はある。僕の思惑が正しければ、根源にも弱点はある筈なんだ」
その言葉に首を傾げる一同。
「弱点……って?」
マイキーはBBSに記されていた唯一手掛かりと思えるその情報を思い返していた。
恐らくは奴との闘いでは、この情報が鍵となる。
「アイネ、後で採掘場のショップで指示した例のモノ買っといてくれ」
「うん、分かった。でも、本当に大丈夫なの」
心配気に尋ね返すアイネに、瞳を閉じて首を振るマイキー。
情報が誤りであれば、彼らが迎える結末は一つしかない。
「さあね。神頼みでもするか」
曖昧なマイキーの返事に当惑する一同。だが、今は彼の策に頼る他は無かった。