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ARCADIA ver2.00  作者: Wiz Craft
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 S6 レベル上げ×Bomard

 揺れ動く巨躯が咆哮を上げる度に、大気に伝わる振動。肌を伝わるその圧倒的な迫力に気圧されしていたのは五日前の事だった。

 ラクトン採掘場へと拠点を移したマイキー達は、一度坑道入口の下見に赴いた後、それからは東エイビス平原北部でのボマード狩りに明け暮れていた。

 飛び交う矢弾の合間を一直線に獲物へと目掛けて火の粉を散らして飛ぶ火球。肢体が炎上すると苦しそうに暴れ出す毛長牛。だが、既にその前足は幾度無く浴びさせられた斬撃によって折れている。自らの重みを必死に後足のみで支えようとするも、やがては限界と共に前足から崩れ落ち地表へと顔を付ける。

 その隙を突く様に揺らめくは黒い影。


Powerパワー Chargeチャージ


 呟かれる青銅の剣士の言葉と共に、今膝を崩し項垂れた毛長牛の額へと突き立てられる刃。

 矢弾を浴びた体表の大部分は焼け焦げ、そこからは大量のLEが立ち昇っていた。


「恨むなら恨めよ。悪いな、これがこの世界のルールだ」


 衰弱した獲物の眉間に深々と突き立てられるは青銅の長剣。冒険者達に囲まれた一匹のボマードは今その生命を尽かせその身を痙攣けいれんさせる。

 それはただの無造作な狩り、だが命を奪い去る瞬間に過ぎる一抹の想いはある。だが、ここはあくまでもゲーム世界。現実とはそもそもの前提が違う。

 現実では獲物を傷付ければ血が滲み、噴出し、それは残酷な光景として加害者の目に浮かび上がる。それは傷付けられる場合も同じ事。

 だが、この世界では傷付けても血は流れるどころか、滲みもしない。現れるのはLife Energyと呼ばれるエネルギーの光芒だけである。

 本質的な狩りとゲーム的な狩りは意味が違う。このゲームの演出がその概念の在り方を正に示している。与えられた世界の法則に自分達は従っているだけだ。そう考える事で、胸に過ぎる一抹の想いを冒険者達は否定していた。

 この地に赴いてから五日間での総討伐数は七十三匹。Lv5へ到達した時点で彼らのここでの第一の目的は果たされていた。レベルと共にCRクラスランクについても五段階目へと昇進した事により、クラス固有スキルが解放され、狩りの効率は飛躍的に上昇していた。

 先ほどの狩りでジャックが戦闘中に呟いたボイスコマンドが、その一つである。

 Power Charge<パワーチャージ>は次の一撃のみステータス値である物理攻撃力に1.5倍の補正を掛ける。他にもハンターのクラス固有スキルとしてRapid Shot<ラピッドショット>、これは打ち出された矢弾の射出速度、又飛距離が2倍になる。またマジシャンのMagic Charge<マジックチャージ>では魔法攻撃力に1.5倍の補正、クレリックのFast Heal<ファストヒール>は回復治療に掛かる時間が一定時間のみ半分に短縮される。これらは何れもCR5の時点で解放された能力である。


「これでようやく本来の目的に向えるな」


 立ち昇るLEの光と共に消え行くボマードの亡骸。地表へと落ちた剣を拾いながらジャックはそう呟いた。

 レベル上げの最中、ラクトン採掘場では地下坑道に関する様々な噂が飛び交っていた。Local Application上では既にクエストを攻略したプレーヤーによる情報も挙がっており、巨大蟻が発生するその根源の存在についても触れられていた。

 だが、そんな中でもマイキー達が焦らずにレベル上げに専念していた事には一つの訳があった。それは掲示板に挙がる連日の死亡報告の多さである。ここでクエストに挑戦し挑むプレーヤーのそのほとんどがLv5未満のプレーヤー。それは噂通りの難易度の高さが起因しているのか、攻略に乗り出す冒険者達は最低八人以上の大人数のパーティを組んで挑んでいる。そんな彼らが幾度と無く失敗し死亡者を出している現状から考えられる原因は一つ。単純にレベルが足りていないのである。ならば難易度を緩和する対策として、レベル上げをする。これは極基本的なユーザー行動である。

 だが、現段階でこの地に到達しているプレーヤーは新規参加者の中でも所謂いわゆる先行組と呼ばれる範疇はんちゅうに含まれる。そんな彼らが抱くプレーヤー心理は少しでも早く、余計なクエストは無視してでも必要最低限のイベントのみをこなし、とにかく早くゲームの終着点を目指す事。

 つまりレベル上げとは凡そ無縁。結果、死亡したプレーヤーはペナルティとして『経験値-100』という痛烈な足枷を受けて後退する事になる。

 急がば回れ、先人達から受け継がれてきたその訓示は現状への正確な忠告を表しているように思えた。


「新規参加組のトップ連中はどの辺りまで進んでるんだろうな」


 香煙草を取り出すジャックの疑問にマイキーは顔を上げた。


「スティアルーフの攻略掲示板には先発調査隊の情報も掲載されてたからな。どこからがその境目かは分からなかった。でも、時間的に考えるならば新規参加者に限るならトップ連中もこの地下採掘場のクエストからそう遠くはないと思うよ」

「でも、私達は別に攻略に躍起になってるわけじゃないしね。あくまでもこの世界を楽しんでるだけだから」


 アイネの言葉に苦笑するジャック。


「ただそれ理由にしてトップ連中を否定すると、なんか逃げ道作ってるみたいで格好悪くねぇか」


 ジャックの云う事もマイキーには充分に理解出来た。だが、それは捉え方の問題に過ぎない。


「別に否定してる訳じゃないさ。人よりも早く進みたい。そう思って攻略に走るのも至極真っ当な人間心理だ。かく云う僕だってそういう気持ちが無いわけじゃない」


 ゲーム攻略を楽しんでいる事が事実である以上、他人にどう思われようが関係ない。ゲームの進め方など所詮は個人の問題に過ぎない。他人に口を出される筋合いなど到底無い事だ。


「午後からは早速、地下採掘場の探索に乗り出そう」とマイキー。


 午後に坑道の探索を誓った一同はアルドラヴィアへと戻る。戦い前に昼食を取った四人は安らかな気持ちでその時を待っていた。

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