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ARCADIA ver2.00  作者: Wiz Craft
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 S5 要注意人物

 翌早朝の採掘場、昨日の夕方に冒険者を悩ませていた白き旋風は止んでいた。

 それは一過性の静けさなのか、再び砂風が巻き起こる前にと、採掘場の最下層には多くの冒険者が足を運び待ち合わせる姿が見られた。

 待ち合わせの中心となる場所には水の枯れた小さな噴水と共に、砂塗れになった女神像が置かれていた。

 マイキー達は、地下採掘場へと続く坑道入口の様子を見学にとやってきたのだった。

 最下部の地層には真白な砂岩が散らばり、所々には発掘によって掘り起こされた形跡が残されている。


「白崗岩狙いか。地上部に関しては既に冒険者達に掘り起こされちまってるみたいだな」と地層を見つめながら香煙草を咥えるジャック。

「まぁ、現時点で白崗岩の発掘はそこまで重視してない。発掘には鉱具も必要になるしね」


 今マイキーの瞳には抉られた岩盤に口を開けた坑道が映っていた。内壁を当て木で固められた薄暗い坑道入口には虹色の枠組みが設置され、人工オラクルを発生させている。その通過条件とは。


――モンスターの通行禁止――


「人工オラクルで、モンスターが採掘場の地上部に上がって来る事を防いでるのか」


 ここで云うモンスターの通行禁止という内容が示す対象生物は噂の巨大蟻という事だろう。人工オラクルとは使い方次第で、このように防御壁として用いる事も出来るのだ。

 

「地下採掘場の魔物か。蛇が出るか、邪が出るか」とマイキーの呟きに失笑気味にジャックが言葉を重ねる。

「どちらにしろ、ろくなもんじゃねぇな。まぁ楽しめればそれでいい」


 キティは身に纏ったウーピィの綿毛を触りながら緊張した面持ちで頷くと、アイネへと視線を向ける。


「敵の外観はある程度察しがつくわよね。蟻退治か。穏やかに済めばいいんだけど」


 アイネの言葉に微笑したマイキーは坑道内の様子を調べる為に、入口へと歩み寄って行く。そんな彼の足取りに合わせて移動し始める一同。


「穏やかか。安易な期待は捨てた方がいいかもな。ここまでの様子見てきて、クエストのシビアさは目の当たりにしてきただろ。緑園の孤島にしても、序盤にも関わらず要所要所でこのゲームの製作者達、確実に僕らを殺しに掛かってるよ」

「油断は出来ねぇって事か。まぁ、ここでグダグダ言ってても仕方ないだろ。案ずるよりは産むが易し」


 珍しくジャックが引用したことわざに失笑するマイキー。


「その諺の語源辿ると、男には解釈が難しい言葉なんだけどな。お前の口から出るとは思わなかったよ」


 採掘場上空にはまた僅かに風が吹き始めたようだった。

 坑道の入口では十数人の冒険者達が集まり、何やら屯していた。青銅ブロンズ装備で身を固めた戦士ソルジャーから、銀狐フォクシー縞猫ミクノアキャットの毛皮を纏った狩人ハンターに、ウーピィの綿織物やクロットミットの羽織物を羽織ったマジシャンやクレリックと云った魔術師で構成されたパーティが複数組。

 口々に作戦を重ねる彼らの中で、銀狐の毛皮を纏った一人の狩人の若男が一同に向かって高らかに呼び掛け始める。


「それでは、これより地下採掘場の調査を開始する。基本パーティーは四人一組と定め、互いに援護が可能な位置を保つ。調査目的は前日も話した通りマッピングにある。広大な地下坑道を攻略するためには、地理的情報の把握は必要不可欠だ。調査三日目となる今日中に最深層への到達を目指す」


 冒険者達を仕切る男の姿に咄嗟に足を止める四人。

 アイネと繋いでいたキティの小さな手に力が込められる。それはキティにとっては悪夢が甦る瞬間だった。


――お前はもう用済みだ。どこへでも行くがいい――


 今一同の視界の中ではマリーンフラワー号でキティを拘束していたあのフランスキーと云う冒険者の姿が映っていた。隣で悠々と彼の引率を眺めるのはあのベラという女だ。

 マイキーが杞憂と願った状況が実現した瞬間、向こうもまたキティの姿に気付いたようだった。

 フランスキーはキティを一瞥すると薄気味悪い微笑を浮かべて目を背ける。キティはただ俯いたまま小さなその身体を震わせていた。


「大丈夫よキティ。私達がついてるんだから」


 キティの肩に手を掛けて抱き寄せるアイネ。マイキーは二人を誘導しながら、フランスキーが取り仕切る一団には目も呉れず坑道へと足を進めようとしたその時だった。


「待ってくれないか、君達」


 その言葉に足を止める一同。呼び止めたのは他でもない。あのフランスキーだった。

 キティの表情からはいつもの笑顔で消え、瞬く間に血の気が引いて行く。


「ここへ来た以上、君達の目的は推測に容易い。地下採掘場のクエストだろう。違うか?」


 穏やかな口調で尋ね掛けるフランスキーに対してマイキーは冷静な表情で無言を返していた。


「突然、呼び止めて悪かった。実は我々も同じ目的の為にここへ集まっていてね。もしや君達もと思って声を掛けてみたんだ。現在員は十一名。パーティーは十六名まで組める。君達も良かったら我々に同行しないか」


 フランスキーの提案にアイネがその表情を強張らせて物申そうとしたその時、ふと腕で彼女を制したマイキーは酷く冷静に言葉を返した。


「悪いけど、興味ないな」


 踵を返し坑道に背を向けるマイキーの後を追って次々と坑道から立ち去る仲間達。

 マイキーにとっては相容れる必要の無い存在。たとえ攻略上有利だとしても、共に手を取り協力する仲間は選ぶ必要がある。野良パーティを否定する訳じゃないが、況してやその相手がフランスキーなどと云う事は考えられない。

 そんなマイキー達を背にフランスキーは俯きただ微笑を浮かべていた。その不気味な微笑みを何を想っての事なのか。

 何故だか分からない。だが、マイキーにはその微笑の意味が直感的な理解へと繋がった。


――残念だ……弾除たまよけは多ければ多いほど良かったんだが――


 マイキーの頭の中で囁かれたその言葉。

 繰り返すが、何故そう捉えたのかは分からない。だが去り際、奴の顔を見た瞬間。そんな言葉が思念として流れてきた。

 それが真実かどうかは当然知る由も無い。ただマイキーの直感が奴は信用に置けない人物だとはっきりとそう告げていた。

 フランスキー、間違いなく奴は要注意人物だ。

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