S3 ラクトン採掘場
草原の中に剥き出しにされた白崗岩の発掘場。露天掘りと言われる地表から渦を巻くように段々状に地下を目掛けて彫られたその全体直径は2.64kmにも及ぶ。
大規模な植生喪失による環境問題の観点から、過去の技術と化したこの露天掘り。均された段差の上部には、岩盤を刳り貫いて造られた鉱夫の為の生活施設が築かれている。岩盤から覗く窓らしき小さな黒穴が並ぶその光景は特徴的で、印象に深いものだった。
段差の随所に組み込まれた傾斜の厳しいスロープを下りながら、遥か下方、距離にしてその高低差は百二十メートルはあるかと思われる最下層を見下ろし、マイキー達は施設の一角を目指していた。
「随分と高いな。転げ落ちたら即死か」
マイキーの言葉に息を呑むジャック。彼は決して臆病ではないがどうも高い所は正直苦手なようだった。そう言えば現実でも遊園地へ赴いた時、彼は観覧車に乗る事さえさり気無く拒否していた。そういう意味では緑園の孤島での、ハンググライダーは彼にとっては思い切った行為だったのだろう。
風が吹く度に採掘場の真白な砂礫が風に舞い、真白な旋風となって採掘場の最下層へと吹き下りて行く。
「今日は一日、ここで情報集めて明日から地下採掘場の調査に乗り出そう」
マイキーの地下採掘場という言葉が引っ掛かったのか、アイネがここで疑問の声を上げる。
「地下採掘場ってあの最下層の事なのかな。見た所モンスターも何も見当たらないけど」
「いや、どうもこの採掘場は採掘過程で露天掘りから坑道を使った発掘に切り替えたらしいんだ。多分、あの最下層に地下へと続く坑道への入口が在るんだと思うよ。多分ね」
白き風に手を翳しながら今一度、地層下部へ視線を凝らした一同は、近場で最も大きな施設の入口へと差し掛かる。砂礫でくすんだ乳白色と化したその白壁を触りながら、地層に対して内側へ抉るよう地下へと伸びた階段へと足を掛ける。
「成る程、砂礫が直接建物の中へ入り込まないようの工夫って訳か」
「もう全身砂塗れだよ。早く身体洗い流したい」
マイキーとアイネがそんな会話をする傍らで、キティは目に入った砂礫を必至に拭っていた。
建物の中へ入るとそこは異質の様相を呈していた。一言で表すなら、そこは人工的な洞穴の中という表現が正しい。白崗岩混じりの白層が浮き彫りになった壁に囲まれた、何とも不可思議な施設内の様子に困惑する四人。
広がった玄関ホールの壁際には五十近い端末カウンターが設置されていた。
「カッパドキアみたいだな」とマイキーの呟きに視線を向けるアイネ。
「それってあのトルコにある。行った事あるの?」
アイネの言葉に首を横に振りながら砂を払うマイキー。
「いや、無いけど。写真や文献で見た事があるだけさ。でも洞窟で象った施設なんて洒落てるよ。こんなの滅多に体験出来ない」
「確かにな。だけど外のこの砂風は何とかなんねぇかな。これじゃ外出た瞬間、また砂だらけだ」
ジャックの愚痴にアイネは頷き、キティの首後ろに付いた砂を払いながら自らの砂もまた振り落とす。
施設内では冒険者の姿も多数見掛けられた。彼らの多くがターバンのように頭を何重にも土色の布で包み、身体もまた肩から足元まで伸びた灰色の装束を纏っていた。
「装束、どこかで売ってるのかな。戦闘するには動きにくそうだけど」
そう呟きながら、玄関ホールに設置された端末カウンター前に腰掛けアクセスを開始するマイキー。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
●洞窟ホテル『アルドラヴィア』
この度は当ホテル『Aldoravia<アルドラヴィア>』をご利用頂きまして誠に有難うございます。
当施設はラクトン採掘場の開発に伴い、鉱夫のために無料提供された洞窟ホテルです。
前述の通り、設立当初の意義としましては鉱夫のためのホテル、それが名目でありましたが当然冒険者の皆様にもご宿泊頂けます。
惑星開発に伴い白崗岩の需要は依然高まる一方です。市場に白崗岩が流通すればする程、惑星の開拓もより円滑なものとなるでしょう。
当ホテルでは、冒険者の皆様によって掘り出していた頂いてから二十四時間以内の白崗岩をご提示頂ければ無料で宿泊施設をご提供させて頂いております。
惑星開発のために皆様のお力を是非お貸し下さい。
▼宿泊のご案内
・個室(50ELK)
※浴室はそれぞれ個室に付属しております(バスタオル、ウォッシュタオル、その他各種備品有り)
※当ホテルでは砂塵防衣の無料レンタルを行っております。メニューから貸し出しを行っておりますので是非ご利用下さい。ただし、ご利用はラクトン採掘場地上部のみ使用が可能となっており、砂塵防衣をご着用されたまま該当エリアから外出しようとされた場合、プロテクトガードにより外出が不可となりますので、外出の際には予め装備を変更されてお出掛け下さい。貸し出し致しました衣服については該当エリアから退出された場合自動で回収させて頂きます。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
説明文を読んだマイキーは驚きの声を漏らす。
「洞窟ホテル……ここホテルだったのか」
マイキーの指示によってその後次々と部屋を予約する一同。
前払いとして支払った50ELKはもし今から二十四時間以内の白崗岩を提示する事が出来れば返金されるとの事だった。
「面白いシステムだな。50ELKはちょっと割高だが、発掘さえすりゃ料金が還元されるなら納得は行くな」
キーボードを弾いて一室を予約したジャックがそう語りながら振り返る。
「それじゃ一時間後のPM6:30、ロビーで待ち合わせよう。ロビーは玄関ホールから入って左手にあるから」
マイキーの指示に頷いた一同は、それから各自部屋へと向い去って行った。
部屋へと散って行った三人の姿を見つめながら、残されたマイキーは一人玄関から向って右手にある端末接続器が存在するルームへと足を運んでいた。
どうせ、後で情報収集の為に外に出ればまた砂塗れになる。今自室でシャワーを浴びたところで無駄だとそう考えたのだ。
「何の部屋だろう、ここ」
薄暗い洞窟空間内の一席に座り、端末コードにPBを接続する。PBに展開される画面内容にじっと目を凝らすマイキー。画面に現れたのは掲示板の検索画面のようだった。そして、ページ上部に記された文字に首を傾げる。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
Local Application
Access Point:ラクトン採掘場
▼多目的BBS
検索キーワード:
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「Local Application……?」
BBSにはLocal Applicationと記されていた。だがその機能はエルムの村と比較して、余りにもお粗末だった。掲示板の種類は多目的BBSと名付けられた一種類だけ、そしてエルムやスティアルーフのNetworkのように無線によるPBでの使用も認められていないようだった。
「まだ開発環境がこのエリアでは整っていないって事か」
BBSに検索キーワード『地下採掘場』と打ち込み、検索結果に目を通し始める。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
Local Application
Access Point:ラクトン採掘場
▼多目的BBS
検索キーワード:地下採掘場[タイトル]
〆新着順
検索結果:199件がHitしました
●地下採掘場パーティ募集 Nonnon(02/四天/水/16 17:21) 返信数:0
●地下採掘場行きませんか? Jejo(02/四天/水/16 16:13) 返信数:3
●【パーティ募集】地下採掘場 Varta(02/四天/水/16 15:59) 返信数:4
●【募集】地下採掘場クエスト★定員16名迄 Fransky(02/四天/水/16 14:36) 返信数:8
●クエスト『地下採掘場の魔物』 Clom(02/四天/水/16 13:45) 返信数:7
●地下採掘場行きませんか? Dolneo(02/四天/水/16 11:27) 返信数:5
●地下採掘場パーティー募集 Laser(02/四天/水/16 9:26) 返信数:8
●地下採掘場コレ無理じゃね Macfree(02/四天/水/16 8:11) 返信数:11
●地下採掘場の魔物 Qtaro(02/四天/水/16 6:31) 返信数:7
●パーティ募集☆地下採掘場 Lilian(02/四天/水/15 23:27) 返信数:9
□次の10件へ(236件中-11件目から)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
現れた情報は地下採掘場のクエストに向けてパーティ募集の記事がそのほとんどであった。
「パーティ募集か。成る程、ここで募集を掛けてクエストに臨む訳か。募集定員16名ってそんなに人数必要なクエストなのかこれ……ん?」
――【募集】地下採掘場クエスト★定員16名迄 Fransky(02/四天/水/16 14:36)――
その記述に瞳の色を変えるマイキー。募集者の名前には見覚えがあった。
このレクシア大陸に渡る時、マリーンフラワー号でキティを拘束していた連中の一人。
――フランスキー――
その名前に間違いは無かった。
「あいつもここまで来てるって事か……キティには黙っていた方がいいな。ラクトン採掘場のエリア人数18567名から考えれば遭遇する確率は低いだろうけど。余計な心配は掛けたくないからな」
僅かに翳る不穏な影。だが、確率論からすればただの杞憂だろう。
そこにはアルドラヴィアの端末室で黙々とキーボードを弾くマイキーの姿が在った。
■変更のお知らせ
本作において前作からの地名、及び地殻の大幅な変更があります。旧作でラクトン採掘場と描いていた水仙の滝の裏の洞窟は正式稼動よりスティノフ鉱山へと変更が施されております。また本作でのラクトン採掘場はその言葉が持つ本来の姿になるべく近づけてあります。採掘場と鉱山は今後は分けて描写して行きたいと思いますので、ご理解の程宜しくお願い致します。