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ARCADIA ver2.00  作者: Wiz Craft
52/169

 S2 VS Bomard


■創世暦ニ年

  四天の月 水刻 16■

 草原での一夜のキャンプを経た二日間の行程距離は凡そ三十キロメートル。

 東エイビス平原北部に差し掛かってから、その光景には変化が現れつつ在った。平原の中に点在するクリープス原木と並び立つゾウ程の巨大なシルエット。

 古の生物マンモスのような褐色の長い体毛に覆われたそのモンスターは、クリープスの柔らかい葉を噛み砕きながら真白に剥き出された白い牙を左右に揺らす。


「あれがボマードか。噂以上の大きさだな。City Networkの情報に依るとレベルはLv6〜7。遥かに格上の相手だ」とマイキー。


 PB上で解析不可と表示される敵の情報を見つめながら彼は視線を一同に流す。


「怖気づいたとでも思ってるのか。笑えない冗談だぜ」


 香煙草を踏み消しながら獲物へと向き直るジャックの隣でアイネは冴えない表情を浮かべていた。


「本当に今の私達で勝てるの?」

「言っただろ。ミクノアキャットを相手にするなら、ソロじゃないと効率が悪いんだ。地下採掘場のクエストを行う上で、安定圏までレベル上げるにはBomardこいつを狩る必要がある」


 マイキーの強い意志を含んだ言葉に押し黙るアイネ。

 PBに記録した情報を見つめながら彼は言葉を続ける。


「幸いBomardは草食動物でその気質は極めて温厚。ノンアクティブで自ら人を襲う事は決して無い。ただし、仲間意識は強く仲間が攻撃されるとリンクする性質を持ってる」

「リンクするのか、厄介だな」と呟くジャックにマイキーが首を振る。

「いや、だけどそれも問題無い。彼らの知覚範囲は極めて狭く、大体三メートル程度の音声しか聞き取れない。彼らが散在してるこの草原じゃ注意する必要は無いさ」


 マイキーの説明にキティは彼女の数倍ある獲物の巨躯を見つめながら、両手にしっかりとライトワンドを握り締めていた。


「採掘場に向う前に挑戦してみるか?」


 そのマイキーの言葉か契機となった。近場のクリープス原木で食事を取っていた一匹の毛長牛目掛けて走り出すジャック。

 俺の後に付いて来い、そう言わんばかりの気迫のこもったジャックの駆け出しに慌ててその後を追うアイネとキティ。


「話は最後まで聞けよ、全くあいつ」


 マイキーは後方から大きく側面へ回り込むと、敵の注意を引き付ける為の援護射撃を行う。

 長い体毛に覆われた表皮に突き刺さった矢弾に、食事を取っていたボマードが大きくその身体を翻す。

 視界の先、十メートル程の位置で自動弓を構える冒険者の姿に、空気を振動させるような低い唸り声を上げる。


Boaaボァァ


 重い蹄で草原が固く踏みしめられると、マイキーは敵のターゲットを引き付けながら駆け始める。その動きは極めて鈍く、余力を持って走っても裕に振り切れる程であった。

 完全に注意をマイキーに奪われているターゲットに近付くは蒼白の剣士。手にした青銅の剣を勢い良く後足に突き立てたジャックは、その身体の勢いを殺さずに剣を上へと向かって斬り上げる。


Boaaaボァァァ


 獲物から再び低い唸り声が上がると同時に振り上げられる前足。


「ジャック、離れろ!」


 マイキーの掛け声が上がるや否や、前足が振り下ろされると同時に激しい振動と共に鎧を着込んだジャックの身体が空中高くへと舞い上げられる。


――Groundグラウンド Boundバウンド――


 自身を中心に半径一メートル以内のターゲットを空中へと浮かせるモンスター固有技。

 この技自体に攻撃判定は存在せず、故にダメージも無いがその真価は次点にある。


「うぉぉ!?」


 空中高く五メートル程浮いたジャックの身体に向き直ったボマードは次の瞬間、口の正面へと伸びたその鋭い白牙を彼目掛けて突き立てる。

 アイネとキティが目を覆った刹那、鋭い牙に突き立てられたジャックの身体は空中高くを滑空し、十メートル近い距離を運ばれて地面へと追突する。

 同時に上がる悲鳴。悲鳴を上げて顔を蒼白にさせたのはアイネだった。


「マイキー……ジャックが!」

「分かってる。キティ、ジャックを頼む! その間は僕が注意を引き付ける」


 マイキーの掛け声に身体をビクッと震わせたキティがこくりと頷き倒れたジャックの元へと駆け寄る。

 アイネはそんなキティの後姿を見つめながら、彼女もまた声を張り上げた。


「マイキー、私にも指示を」

「アイネは、敵の背後から魔法で援護してくれ。ただし、僕の攻撃に対してアイネのファイヤーボールが敵に与えるダメージは大きいんだ。連続で攻撃するとあっという間にターゲットが向くから調整に気をつけろ」


 マイキーの指示に頷いたアイネは早速、赤色の宝石の付いたロッドを振り翳して火球を発生させると、そのエネルギーを身体周りに浮遊させて滞空させる。


「あれは浮遊技術フロート。あいついつの間に」


 マイキーはちょっとした驚きの色を浮かべながらも、敵の正面から自動弓をその眉間目掛けて撃ち込む。


Boaaボァァ!!!」


 敵の威嚇にも全く動じずに的確に射撃を行うマイキーに対し、その巨躯を大きく揺さぶりながら走りこむボマード。だが完全にマイキーに注意を引き付けられていたボマードは背面へと近付く影に対して無防備であった。


「これでも食らいなさい」


 背面から浴びせられるは燃え盛る火球。後方でその長い体毛に火が点き燃え盛り始めると、ボマードが必死にその前足を掲げ暴れ始める。

 激しくその巨躯を揺さぶりながら、縦横無尽に辺りのクリープスの樹木を薙ぎ倒す。


「炎で我を忘れたか。まずいな、これじゃ行動が読めない」


 マイキーが自動弓を片手に狙いを定められずに手をこまねいていたその時、怒りで我を失ったボマードが回復活動に専念していたキティの元へと突進を始める。

 その動きに気付いたアイネが再び顔面蒼白にしてキティに大声で呼び掛ける。


「キティ、避けて!」


 アイネの言葉に怒り狂うボマードの姿に気付いたキティはその表情に驚愕を浮べ立ち上がり、一瞬逃げ出そうと一歩を踏み出した。だが、目の前で倒れるジャックへと視線を流した彼女は思いもかけない行動を取る。


「逃げるなんてダメです……私が守りますから」


 そう呟いたキティは両腕を左右にぱっと開き、ジャックの前に立ち構える。

 目の前に猛り迫る巨躯を前に、キティが瞳を閉じたその瞬間、彼女の背後で起き上がった黒い影が素早い動きで彼女を抱えて側方へと転がり身体を流す。

 猛り狂ったボマードの突進を逃れたキティは地面へと伏せながら、立ち上がる黒い影を見つめる。


「お前の御蔭おかげで助かったぜ……ありがとな」


 ジャックは倒れているキティの身体を手を引いて起こすと、再び戦線へと復帰する意志を見せる。

 彼の復活を目にしたマイキーは自動弓で矢弾を放ちながら、声高らかに叫んだ。


「怒りで理性が吹っ飛んでる今、近付くのは危険だ。あとは僕らに任せろジャック! キティ連れて安全な場所に避難しておいてくれ」とマイキーの言葉に首を振るジャック。

「それじゃ傷付けられた俺のプライドはどうなるんだ。安心しろよ。こいつの動きはもう見切った」


 その返し言葉に表情を歪めるマイキー。

 だがマイキーの忠告も無視してジャックは宣言通り、暴れ回るボマードへと駆け込むと再びその後足に刃を突き立てる。

 その衝撃に再び巨躯を振り上げて、グラウンドバウンドの体勢に入るボマード。


「俺を甘く見るなよ」


 振り下ろされた前足が地面を叩いた瞬間、衝撃によって周囲の地面が数十センチ程の隆起を見せる。だが、ジャックはその瞬間後足に突き立てた剣に掴まる事で衝撃を堪えていた。

 再び斬りつけられる鋭い痛みに悶え苦しむボマード。頻りに後足を振り下ろし、ジャックの身体を踏み潰そうとするが、その全てが軽やかに躱されて行く。


「あの馬鹿危ない真似を」


 だがそんなマイキーの危惧を否定するかのように、噛み合い回り始める四人の歯車。


「戦闘ってのは命を懸けてこそ盛り上がるってもんだ」と剣を突き立てるジャックに後方から真顔で否定するアイネ。

「心配する方の身にも為って。ルーレットの時もそうだけど、あなた恐怖心が欠落してるんじゃないの」とファイヤーボールを敵の背面に浴びせ掛けながらアイネが戦場を舞う。


 そんな二人の口論の合間も、キティは片時も毛長牛の動きから目を離さずに戦況を見つめていた。

 約十二分間の戦闘を以て、ボマードの巨躯が草原へと沈む時、一同はこの上無い充実感に包まれていた。


「これで狩れる事は証明されたな。経験値が『4』入った事からして今のLv7のボマードだ」


 微笑で語るマイキーに俯き項垂れるアイネ。


「ちょっと……心臓に悪いよ」


 狩れない事は無い。だが、一つでも戦闘中の判断を誤れば戦闘不能者が出る可能性は否めない。そんな死と隣り合わせの戦闘であるからこそ、得られる経験値にも箔が付くというものだ。

 今確かな戦訓を以て、一同は目的の採掘場へ再び足を向けるのだった。


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