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ARCADIA ver2.00  作者: Wiz Craft
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〆第三章『女王の影』

挿絵(By みてみん)


 その影を踏んではならない

   その影を映してはならない

  さもなくば苛酷な死が訪れる

 (アイズルーフ=トルマルク『死兆』より)



 ■創世暦ニ年

   四天の月 水刻 15■


 ただ凛然と存在する世界の中で、たった一つの些細な自身の変化が、世界の姿を変えてしまう事もある。

 太陽が輝く草原の元で、ほんの数日前まで野生動物達と悪戦苦闘していた冒険者達の姿はそこには無かった。


「北西25m地点に、フォクシー発見」


 視界を覆う薄灰色の透光ゴーグルを装着したマイキーは、耳元の機械で表示情報を切り替えながら、皆に情報を伝える。

 アナライズゴーグル、それは先日マイキーがギルドショップで購入した情報解析装置である。

 身体に纏うは街の狩猟着専門店Leatherレザー Hangハングで入手したフォクシーの毛皮で繕われた銀色の皮着。


「まず足止めは僕がする。後は手筈通りに」


 草原の中を獲物へと向かって風下から走り込んだマイキーは十数メートル離れた茂みに姿を隠し、自動弓を構える。

 ゴーグルを通して灰色に映る世界の中、今狙いを絞り放たれた矢が一直線に獲物へと一筋の軌跡を描き、そしてその後足を捉える。

 衝撃に動揺したフォクシーが外敵からの攻撃に必死に逃げようと混乱へ陥った時には、彼の視界には青銅の鎧に身を包んだ蒼白の剣士が走り込んでいた。逃げようと地面を踏み切ろうとするその後足には、先程の矢の衝撃によって力が入らない。

 気が付いた時には身体が宙吊りに持ち上げられ、蒼白の剣士によってあっという間に尾を断ち切られていた。


「銀色の尾入手。ドロップ品はどうする」


 ジャックの掛け声に、獲物の元へ駆け寄る小さな影。その姿にマイキーは静かに首を横に振る。

 駆け寄ったキティは地面で倒れ怯えるフォクシーの尾骨にそっと木製杖ワンドを翳すと、切り取られた接合部に祈りを捧げ始める。アローウッド原木を削り取って作られたワンドから漏れる柔らかな光に、次第に恐怖に怯えていたフォクシーの震えが収まり始める。


「もう大丈夫ですよ」


 キティの優しき表情にフォクシーが立ち上がり、彼女に身を摺り寄せたその時だった。


Myaaaミャァァァ!!!」


 近場の葦が揺れ動くや刹那、傷付いたフォクシーを狙っていた黒い影が高らかに空中を彷徨う。

 獲物と定められたフォクシーを守るように抱きかかえたキティ目掛けて一直線に襲い掛かるはミクノアキャット。その鋭い爪が彼女に振り翳され、黒い影が彼女と交錯する。


Myaミャァ!?」


 交錯する直前にジャックが、引き抜いた青銅ブロンズの剣が、ミクノアキャットの身体を大きく上空へと弾き返していた。

 再び上空を漂うミクノアキャットが空中で体勢を整え、再び攻撃に転じようと構えたその瞬間。


Myaaaaaミャァァァァァ!!!」


 突然、黒煙を立ち昇らせて激しく炎上するミクノアキャットの身体。

 直径二十センチメートル程の燃え盛る火球に飲み込まれたミクノアキャットは、地面に落下すると受身も取らずに悶え苦しみながら、激しい鳴き声を辺りに響き渡らせる。

 その様子に思わず目を伏せるキティだったが、ジャックは彼女の肩にそっと手を置いてその光景を目に焼き付けるように促す。


「可哀想だけど人を襲う以上は仕方が無いわ」


 黒斑鳥の羽織物に身を包んだアイネは振り翳した赤い輝きを帯びたロッドを腰元に戻すと、焼失したミクノアキャットが残したドロップカードを手にする。


「これがこの世界のルールだ。生存競争をする上では、時には情けを殺す必要も出てくる」


 三人の元へとゆっくりと歩み寄ってきたマイキーの言葉にしっかりと頷くキティ。

 四人が転職を行ったあの夜から、彼らの戦闘風景は目まぐるしい変化を遂げていた。

 マイキーの的確な指示の下、それぞれが戦闘において個々の立ち回りを確立して行く。そんな中でもキティは未だにモンスターに対して非情に為りきれないようだった。

 だが、それは彼女の良さでもある。クレリックというサポート系クラスを選択した事も、そんな彼女の気質が関係しているかもしれない。

 パーティを組んでいる以上、モンスターを積極的に狩る事以外にも仕事はあるのだ。


「北北東へ36kmか。遠いな」と地平線の彼方を見つめて呟くジャック。


 転職クラスチェンジを果たした今、彼らは今次なる目標へと向かって進んでいた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ▼期間限定クエスト

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ○地下採掘場の魔物(推奨Lv5~:難易度☆☆☆☆)


 スティアルーフの街から北北東へ36km、ラクトン採掘場にて。最近掘り起こされた地下の採掘場に魔物が蔓延り、採掘が思うままにならない。問題の中心となっているのは体長一メートルにも及ぶ巨大な蟻のような生物だが、倒しても倒しても次から次からへと目処が立たない。この任務の目的はこれらのモンスター発生の原因を突き止め、その根源を絶つ事にある。任務成功の暁には、スティアルーフ発、蒸気機関St.Cloford<セント・クロフォード>への乗車許可証を与えるものとする。


 報酬:St.Cloford乗車許可証


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 地下採掘場に現れるという巨大な蟻の討伐。このクエストの遂行が現在のマイキー達の目標だった。

 ラクトン採掘場まではスティアルーフの街から北北東へ三十六キロメートルの行程を踏まえなければならない。草原に敷かれた砂利道を渡るにして、単純に計算しても二日は掛かる。故に草原でのキャンプは必須と言える。


「すぐにでも地下採掘場でクエストを果たしたいところだけど、まずはレベル上げだ。地下採掘場に出没する巨大蟻きょだいありのレベルはLv5。大量にポップする現地で立ち回るには、こっちも最低Lv5は欲しいところだ。このままミクノアキャットを狩り続けてもいいんだけど、パーティで狩るにはちょっと効率が悪いな」


 マイキーの言葉に「じゃあ、どうするんだ?」と香煙草を吹かすジャック。

 その言葉に神妙な面持ちで次句を溜めたマイキーは言葉の続きを語り始める。


「東エイビス平原北部に存在すると云う毛長牛、Bomardボマードを狩ろうと思う。それに伴って狩りを効率化するため、一時的に拠点をスティアルーフからラクトン採掘場に移す。平原北部には採掘場からの方が遥かに近いからな。採掘場にはサーバー側で用意された鉱夫こうふの為の休憩施設があるらしい。シャワーに浴槽付きだって言うからアイネも文句無いだろ」


 その言葉に異議を唱えずにただ頷くアイネ。


「街とも暫くのお別れね」


 新たな目標を胸にした冒険者達の歩みの先に待つモノ、その先を知るために彼らは歩む。草原を吹き抜ける風はその答えを知っているのだろうか。それは愚問である。

 旅人が旅をする理由を問う事は、風にその行く先を問う事と同義なのだから。

 ■第三章『女王の影』連載開始のお知らせ


 本日より第三章の連載を開始させて頂きます。

 今回は前章の後書きで触れさせて頂いた通り、バトル色が若干前面に押し出されております。

 かと云ってじゃあバトル描写に今回は自信があるという事だな? と問われれば、忽ちむせ吐く事になりましょう。旧作で問われましたがバトルは私の鬼門です。相変わらず剣を振るわせれば「剣を縦に振るった」「剣を横に振るった」苦し紛れに「じゃけ剣を斜めに……」そのパターンの少なさは予めご理解下さい(爆)

 一人で吹っ飛んでる場合でもないのですが、今回は場合によってはなかなか吹っ飛ぶかもしれません。

 今回もマイペースに頑張りたいと思いますので、どうか見捨てずに宜しくお願いします。

 公開ペースとしては、現状の執筆段階上1〜2日おきとさせて頂きます。

 拙作ではありますが、本章も宜しくお願い致します。

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