S17 輝ける世界
星々が輝く夜空の下、繁華街はいつものように多くの冒険者で溢れていた。
希望職の装備品を各自購入するために、一旦街で別れた一同。後の合流の約束を交した彼らは、各々の目的の為に繁華街へと散った。
マイキーはハンターの装備品を整えるため、初心者狩人専門店へ。
店内に並ぶは馴染み深い青銅製の狩猟用具から、重量感のある鉄製のボウガンまで。台座に置かれたそれぞれの品の重量感を確かめながら、奥行きのある店内の二階へと続く階段に足を伸ばす。
「鉄製のボウガンとか、随分と威力高そうだけど今のレベルじゃまだ装備出来ないしな」
二階へ上がった段差のついた天井には、巨大な毛長牛の頭部の剥製が飾られていた。両脇に雄雄しい曲角を生やしたその剥製を横目に、通り過ぎたマイキーは二階の品々を物色し始める。
彼がハンターとして扱う武器の趣向は決まっていた。問題はその現在装備出来る武器があるかどうかである。折角、気に入った武器が存在しても、装備レベル制限から弾かれるという事はよくある事だ。現に彼が一階で気に入った鉄製のボウガンもその理由によって考慮から外れていた。
そんな中、数在る武器の中から彼が選び出した物は、オートリクチュールと呼ばれるアローウッド製の自動弓だった。自動弓とは通常の弓と異なり、腕で引いて狙って撃つのでは無く、予め矢弾がセットされた状態で金属形状のトリガーを引いて発射するタイプを示す。
兼ねてからこの武器を使用してみたいという願望があったマイキーにとってはまさに願ったり叶ったりであった。
マイキーが正に希望の武器を手に入れていた頃、アイネとキティは街の魔法店LUNA LEEへと足を運んでいた。
店内の吊り下げ用の金属金具に所狭しと立て掛けられた金属製の錫上や木製杖の山。店内の奥のショーケースの中には透き通るように美しい宝石の数々が並べられていた。
「綺麗だね。どれにするか悩んじゃうな」
アイネはそう呟きながら魔法に関するヘルプ説明へと視線を落とす。
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■魔法の使用定義
ARCADIAの世界では魔法を使用する際、必ず媒介となる鉱石や宝石を通して発現します。
逆にこの媒介が存在しない場合、魔法を発現する事は出来ません。つまり、媒介が存在しない杖やロッドでは魔法を発現する事は出来ません。
また媒介鉱石が持つエネルギーには属性と絶対量が予め付与されており、指定属性以外、又はその媒介鉱石が持つエネルギーの絶対量を超える魔法は使用する事が出来ません。
■魔法杖とスロット
この世界に存在する魔法杖にはスロットと呼ばれる媒介鉱石を取り付ける穴が存在します。
このスロットには大きく分けて二種類が存在し、その一つがまず固定スロットです。これは予め武器に媒介鉱石が付石されている場合を示し、プレーヤーによる付け替えも行う事が出来ません。対してもう一つがフリースロットと呼ばれます。フリースロットではプレーヤーは所持している媒介鉱石を自由に取り外しを行う事が出来ます。スロットの種類、取り付け可能な数については各武器の詳細説明をご覧下さい。
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説明を目にしたアイネはキティに内容を説明しながら、購入するその品々について頭を悩ませ始める。
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全種-装備可能(検出品種:6)
所持金:1823 ELK
▼ロッド(LS:固定スロット数 FS:フリースロット数)
□×1 ブロンズロッド(Lv1〜 FS:1) 60 ELK
□×1 ファイアロッド(Lv3〜 LS:1) 180 ELK
□×1 ウォーターロッド(Lv3〜 LS:1) 180 ELK
□×1 ストーンロッド(Lv3〜 LS:1) 180 ELK
□×1 エアロッド(Lv3〜 LS:1) 180 ELK
□×1 サンダーロッド(Lv3〜 LS:1) 180 ELK
▼スロット
□×1 ファイアジュエル 150 ELK
□×1 ウォータージュエル 150 ELK
□×1 ストーンジュエル 150 ELK
□×1 エアジュエル 150 ELK
□×1 サンダージュエル 150 ELK
●購入する
●設定クリア
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「ブロンズロッドはLv1から装備出来るみたいだけど、媒介鉱石は単価が高いのね。Lv3から装備可能な固定スロットの属性ロッドの方が安いみたいだし、こっちにしようかな。どう思うキティ」
散々頭を悩ませた挙句、アイネは結局炎の属性鉱石を持つファイアロッドを購入。キティはアローウッド製の木製杖、光属性の固定スロットを持つライトワンドを購入し二人は店を後にするのだった。
中央広場のPvPスペース前の白ベンチではジャックが一人香煙草を吹かしながら三人の戻りを待っていた。
一足先にソルジャーに転職し装備を整えていた彼にとっては、皆の高揚感は容易に理解する事が出来た。何か新しい自分に生まれ変わるような、あの光に包まれ世界が輝く瞬間。
そして光から解放されたその直後から、確かに彼を取り巻く世界の環境は変わったのだった。
転職によるパラメーターボーナス、CRシステムの始動に合わせて解放されたクラス固有スキル、WAのカスタマイズ機能、等。
その全てのシステムをまだ網羅した訳では無い。
「ARCADIA……か」
吹いた白煙は夜風に流され、ジャックの呟きもまた今風へと消えて行く。
始めは遊び半分だった。理想郷を自ら謳ったその世界の姿がどんなものなのか、この目で確かめてやろう。と、そんな気持ちだったのだ。
だが実際にこの世界を訪れた今、試されているのは自分自身のような気がしてならない。現実と遜色ない、いやそれ以上のリアリティを以て創り込まれた精緻な世界。そこでの経験はゲームという枠組みを超越した実体験に他ならない。
ここで、何を経験し何を感じ何を想うのか。その全てはプレーヤーに委ねられている。
与えられた開拓という名目の元に、プレーヤー達は自らの理想郷の姿を追い求める。この世界を形作るのは正しく自分達自身なのだ。
「ジャック待たせたな」
背後から掛けられるは仲間の声。そこには新たな装備に身を包んだマイキーの姿が在った。
また、繁華街からは今ゆっくりと歩み寄る魔法杖と法衣を纏った二人の人影が。アイネとキティだ。
「別に待ってねぇって。寛いでただけだからな」
仲間の存在はこの世界を何より華やかに彩る。自然と漏れた微笑を誤魔化すように香煙草を咥えるジャック。
転職の瞬間、輝く世界を体験した一同は次なる目的へ。向うならば北がいい。
向う先にはどんな世界が広がっているのか、ただの一瞬が永遠へと変わる瞬間。この世界で得る喜びは、断続的にプレーヤーの五感を刺激する。
無限に拡張する世界。レクシア大陸での本格的な旅路は今を以て開けたのだ。
■第二章を終えて
第二章もここまでご覧頂きありがとうございます。正直、読者の皆様にとっては退屈な章になってしまったのではないかと思います。第二章では旧作でも多く描いてきた何気ない日常が一つのテーマとなっています。ほのぼのとした日常も個人的には大好きなのですが、それだけだと人間干からびますよね。
第三章では少し反省し、例え不自然にでもバトル色を強くしてみました。これは旧作からこの物語の前提であるのですが、ゲームをプレイするからにはプレーヤーの皆には楽しんで貰いたい、という個人的な想いがあります。ただ以前から物語にある種の緊張感が欲しいという御指摘を頂き頭を悩ませてきました。この問題で何より痛感したのは私は緊迫した描写を書かないのでは無く、描けないという事です。
早めに、この個人的な引け目を取り除いておきたいので第三章ではある意味挑戦者的な気持ちで臨んでみました。第三章、序盤は相変わらず緩い雰囲気ですが中盤辺りから風向きが変わります。前宣伝してハードル上げるのも馬鹿みたいな話なのでこのくらいにしておきますね。今後は緩さとある程度の緊迫感を両立しながら描ければと思うのですが。理想論ですよね(笑)
拙作ではありますが、今後もお付き合い宜しくお願い致します。