S14 ソルジャー認定試験
湯気の立ち昇るカウンターでは、温かな食事に表情を綻ばせる四人の姿が在った。
マイキーの案内で屋台市へとやって来た彼らは、『宝華飯店』と云う吊り下げ看板の中華料理専門の屋台の一角に陣取り、その彩り鮮やかな食事に舌鼓を打っていた。
「この海鮮焼きソバ、かなり美味いぜ。ちょっと食ってみなお前等」
「え、ホント? 食べたい食べたい」
そう言って皿を差し出すジャックに笑顔で小皿に皆の分を取り分けるアイネ。
「お前取り過ぎじゃねぇか」と苦笑するジャックを前に「私の炒飯食べていいから」とアイネが自らの前に置かれる海鮮餡かけ炒飯も小皿に取り分け皆に配り始める。
「てゆうか、最初から注文したもん皆で四等分すりゃいいだろ」
マイキーはそう呟きながら彼もまた餃子を小皿に取り分け配り始める。キティはそんなマイキーとアイネの様子を見つめ、彼女が注文した飲茶セットに含まれていた僅かな小籠包や焼売を綺麗に等分し皆に配り始めた。
ささやかではあるが食卓でのそんな気配りが、互いにどこか心地良さを感じる一時でもあった。
美味い食事を満喫した一同は、夜の屋台市を後にするとギルドへと足を向ける。
マイキーはPBを開きながら人数分のカード枚数を確認すると、本日の売上金額の配分と共に『縞猫の髭』のカードを配り始める。
「配当は一人180ELK。今のとこは収入についてはそこまで危惧する必要は無さそうだ」
マイキーから配分を受け取った一同は、金額とカードを確認するとPBを閉じる。
キティは初めて人から受け取る報酬に、その瞳を輝かせながらいつまでもPBを見つめていた。
「どうした、キティ。PB見ながら歩くと躓くぞ」
マイキーの言葉にキティは「はい」と笑顔で頷くとPBを閉じお辞儀して見せた。
高さ二十メートルに及ぶ白崗岩の美しい柱々を越え、ギルド正面の輝く噴水の前にやってきた一同はそこである事実に気付く。
「そういや、ホームポイントの設定してなかったな」
女神像に向かってマイキーが「Home Point On」と呟くと同時に彼の身体周りで一閃する光芒。その様子を見て他の三人も又、ホームポイントの設定をその場で行う。
「危なかったな。もしこの大陸で死んだらまたエルムの村まで逆戻りだった」とマイキーの言葉に香煙草を手で被い火を点すジャック。
「もう一回あの船旅するのも悪くないけどな」
その目的はカジノに相違ない。だがマイキーは敢えてそこでは口を挟まなかった。
設定を終えた一同は荘厳なるギルドの入口へ、天井に描かれた天上人達の熾烈な争いを見上げながら、ガラス扉を潜るとそこで冷えた外気が遮断され、大理石の敷かれた空調の利いた温かなロビーが広がる。
一同が向うのは夜空に星々が輝く吹き抜けたロビーの両サイドに続く端末接続器が設置されたクエストルームである。
クエストルームに空いた席を見つけた一同はそこでPBを開くと、それぞれシステムクエストの内容を今一度確認する。
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【GR1】ソルジャー認定試験(推奨Lv4~:難易度☆☆)
Class:ソルジャーの解放には下記の納品アイテムが必要となる。
▽納品アイテム
縞猫の髭:1枚
以上のアイテムの納品確認後、ソルジャーへの転職権利を授与する。
⇒【納品実行】
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内容を確認したマイキーは即座に実行ボタンを押すと、画面が切り替わりシステムクエストの成功が告げられる。
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【GR1】ソルジャー認定試験
任務お疲れ様でした。納品アイテムを確認致しました。
これよりMikey様にはClass:ソルジャーが解放されます。
転職の際にはお近くの女神像をご利用下さい。
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それぞれ表示された任務の成功画面を確認すると、一同は席を立ち指定を受けた女神像が在る噴水前へと移動する。
多くの冒険者が噴水前で待ち合わせをする中、マイキー達はPBを開き、ステータス画面を展開する。
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〆マイキー ステータス
レベル 3
クラス ------------ フリークラス 【Class Change】
経験値 ------------ 13/100
ヒットポイント ---- 35/35
スキルポイント ---- 17/11(+6)
物理攻撃力 -------- 12(+2)
物理防御力 -------- 12(+6)
魔法攻撃力 -------- 10
魔法防御力 -------- 12
敏捷力 ------------ 11
ステータス振り分けP----- 0
→ポイントを振り分ける
※再分配まで<0:00/24:00>
〆パーティ所属中
▽Aine
▽Jack
▽Kitty
〆装備
武器 -------- 無し
頭 ---------- 黒斑鳥の羽帽子(D4:14.9%)
体 ---------- 黒斑鳥の羽服(D4:33.0%)
脚 ---------- 黒斑鳥の羽当て(D4:23.1%)
足 ---------- 黒斑鳥の羽靴(D4:11.6%)
アクセサリ --- 銅の指輪<剣の刻印>
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新たに追加されたクラスという項目の右側に表示された『Class Change』という表記。
高鳴る胸の鼓動を抑えながらマイキーはそのリンクをクリックする。
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【選択可能なクラス】
▼ソルジャー
▽フリークラス
【クラスチェンジ後:ステータス】
レベル 3
クラス ------------ ソルジャー
経験値 ------------ 13/100
ヒットポイント ---- 40/40
スキルポイント ---- 11/11
物理攻撃力 -------- 13(+2)
物理防御力 -------- 12
魔法攻撃力 -------- 10
魔法防御力 -------- 12
敏捷力 ------------ 11
【クラスチェンジ後:装備】
武器 -------- なし
頭 ---------- なし
体 ---------- なし
脚 ---------- なし
足 ---------- なし
アクセサリ --- 銅の指輪<剣の刻印>
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ソルジャーへの転職を決定する手前でふと手を止めるマイキー。
他の三人も興味本位に決定ボタンに手を伸ばし掛けた刹那。
「皆、ストップ。安易にクラスチェンジしない方がいい」と、マイキーの言葉に首を傾げる一同。
「何で止めるんだよ」とジャックの言葉にマイキーは着ている衣服を指差して言葉を返す。
「下着姿に為りたいなら止めないけどな。今ソルジャーとして装備出来る服を選択してからチェンジした方がいい。ちなみにクロットミット装備は不可だ」
その言葉にPBからクリックマーカーを遠ざける一同。
「あぶね。危うく裸装備になるとこだった。じゃ、今は基本装備の旅人服しか選択出来ないって事か」とジャックがキーボードを弾き設定し直しながら呟く。
「ソルジャーが装備出来る軽鎧を街で購入しないと駄目だな。ついでに見回ってみるか」
マイキーがそう呟く隣では、ジャックが光輝くエフェクトの中に包まれ、周囲の待合人達の視線を集める。立ち昇る光芒と共に光が消滅するとそこには旅人服を纏ったジャックの姿が在った。
ソルジャーへの転職を行ったのである。
「これでクラスチェンジ終了か。なんかあんまり変わった感じしないけどな」
腕を回し感触を確かめるジャックの背後で転職に悩んでいたアイネとキティは装備が無い現段階では様子を見る方針に切り替えたようだった。
単純に人から注目を浴びる事を嫌ったのかもしれない。マイキーもまた現時点でのソルジャーへの転職は見送っていた。
それから、繁華街へ防具を求めて足を運んだ一同はそこでジャックの装備を見回り、皆でなけなしの小銭から僅かに資金提供をして彼の装備への不足分を補い買い与えるのだった。購入した防具はソルジャーがLv1から装備可能な青銅装備である。
蒼白色に輝く青銅の鎧は、軽鎧と云えども旅人衣や黒斑鳥の羽織物に比べると確かな重量感を感じさせる。
ほとんど一文無しに為ったジャックだが、後先考えない彼の性格からか今夜の煙草や酒代も消えた事にも気付かず素直に歓声を上げていた。
一寸先は闇、そんな言葉を知ってるかとマイキーが彼に焚き付けたところ、彼は笑顔でこう答えた。
――知ってるさ。でも二寸進めば光が差す、だろ?――
なまじ彼の言葉は真理かもしれない。悲観的な考え方で生きるよりは彼のような生き方の方が世の中は輝いて見えるだろう。