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ARCADIA ver2.00  作者: Wiz Craft
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 S13 バザー出品∈生計費

 街から三キロメートル離れた草原ではいつしか空の日もかげり、薄闇の暗幕が仕切り始めていた。フォクシーやミクノアキャットと戯れる事も数時間、確かな疲労感は狩りの限界を訴え始めている。

 相変わらず素早く身をかわして逃げ回る銀姿を前に、力尽きて膝を折り項垂れる一同。その表情には満場一致で、この狩りに対する一つの結論を浮かべていた。

 普段は決して弱音を吐かないマイキーでさえ、その切れ長の鋭い眼光は衰えを隠し切れない。長時間の狩りは、時間に比例どころか急斜角の放物線を描いて冒険者の疲労に繋がる。緑園の孤島で狩りの基礎は学んだ彼等にとっても、この平原での狩りは決して生易しいものではない。


「捕まえられるか……こんなもん」


 息を切らすジャックの意見は尤も。

 非常に強い警戒心を持つこのフォクシーは正攻法では捕らえる事が至難のように思われた。ただでさえ俊敏なその動きに加えて、後ろから追い駆ける者は、銀色の尾の巧みな動きによって、進行方向と逆側へミスリードされる。

 尾が振られた方向とは逆側へ身体が流される。その法則は頭では理解していても不規則なタイミングで繰り出されるその瞬発的な動きに対応する事は難しい。コンマ一秒を争う激しい動きの中で眼前で尾が振られれば、理屈では理解していても本能がそれを追う。

 逃げる銀色の後姿を見つめながら、満身創痍でこの日の狩りを終える一同。

 だが、それなりの成果は在った。フォクシーは一匹も狩る事が出来なかったものの、草原を徘徊している、又、葦の中で獲物を狙う好戦的なミクノアキャットを狩る事で一同はこの日六枚の『縞猫の髭』と、さらに余剰のドロップ品を入手していた。

 ここで一点気掛かりな点が発生する。それは『縞猫の髭』の入手枚数である。ソルジャー認定試験の納品アイテムである『縞猫の髭』を人数分集めるのであれば、総計四枚で事は済む。

 では何故、今回六枚のカードを集めたのか。その理由はこの『縞猫の髭』の市場価値にある。

 納品アイテムが素材アイテムとして扱われている以上、当然売却も可能である。ならば、比較的市場にアイテムが出回っていない現段階ならば認定試験に必要になる納品アイテムをバザーやオークションに出品すれば一儲け出来る、とマイキーが提案したのだった。

 確かに入手方法が分からない、又は自力で納品アイテムを獲得する事が困難な冒険者にとって、ここは多少の無駄金をはたいてでも購入に踏み切るところだろう。現に今のマイキーの心境として、仮にハンター認定試験の納品アイテムである『銀狐の尾』が市場で出回っているならば、値段次第では購入に踏み切る構えで居た。


「金稼ぎも楽じゃなくなってきたな。高値で売れるといいな」と空を仰ぐジャック。

「金ってのは望むとなかなか手に入らないもんさ。無欲でクロットミット狩ってた時の方が収入はあったかもな」


 そう語るマイキーの言葉に力無く微笑むアイネ。


「でも、この大陸で生活する以上はこの大陸でのルールに習って生計立てなきゃね」


 夕日が沈む東エイビス平原から、三キロメートルの行程を引き返しスティアルーフの街へと帰還した一同は、東門橋を越え、中央広場のPvPスペースを大きく迂回し、時計台の建物を目指す。

 薄暗闇が色を深めつつある空の下で、B&Bには多くの冒険者が丁度狩りを終え、宿舎の中へと消えて行く。時計台の時刻は既に午後七時半を回っていた。


「それじゃ、遅いけどPM8:30にまたB&Bのロビー集合で」と掠れた声でマイキー。草原での狩りで終始掛け声の為に叫び通した彼の声帯は疲労に素直だった。

「了解。もう汗だく。早くシャワー浴びたい」とアイネがブロンドの後ろ髪を両手で大きく広げ、自室へと続く板目の通路へ消えて行く。


 夕食の合流を取り決めてから一同はそれぞれの部屋へ。

 部屋へと戻る前にマイキーは何を思ったのか、一人繁華街へと姿をくらませ、そして十五分後再びB&Bへと姿を現した。


「これでようやく休める」と草臥くたびれた老人のように宿舎の通路を足を引き摺る想いで渡る一人の冒険者の姿。


 自室へと戻ったマイキーは、クリープスの爽やかな香りに身体から力を解くと、窓際の揺り椅子に腰掛けるとそこでPBを広げる。

 まずは今日得た納品アイテム。仲間からその扱いを託された『縞猫の髭』『ミクノアキャットの爪』『ミクノアキャットの毛皮』の市場相場を調べ、早速オンラインバザーへの出品設定を行う。マイキーが十五分程、繁華街へと消えたのはその三品の店売り価格を調べる為だった。

 『ミクノアキャットの爪』については店売り価格とバザー市場価格がほぼ同値の16ELK前後であり、かつバザーに溢れていた事から、これは超過供給品。つまり市場で余っている商品であると判断したマイキーは即座に店売りを行った。

 その他二種のアイテムの店売り価格とオンラインバザーでの市場価格、その双方を比較検討した結果、マイキーはバザーの方がより収益を見込めると判断したのだった。


◆―――――――――――――――――――――――――――◆

 City Network

 Access Point:スティアルーフ


 ▼オンラインバザー


 □×2 縞猫の髭 360ELK

◆―――――――――――――――――――――――――――◆


 今回の出品アイテムは『縞猫の髭』の一種。

 『ミクノアキャットの毛皮』についてはギルドの納品クエストの指定アイテムの為、出品を控えた。需要が高いために、店売り価格は58ELK。バザーにおいても一枚平均75ELKと非常に高値を示していたが、それでも安易に売るのは惜しい。

 GR2を目指すならば、ここは少しでもGPに貢献しておきたい。

 とはいえ、現在所持金が453ELKである事を考えると毛皮を売る事も一つの選択である事は確かだった。

 揺り椅子の上で思索に耽りながら、窓辺で海に向かって伸びるセントクリス河の流れを眺めていたその時。

 マイキーがバザー設定を行ってから僅か数分後、PB上では早速変化が現れた。


◆―――――――――――――――――――――――――――◆

 City Network

 Access Point:スティアルーフ


 ▼オンラインバザー


 □×1 縞猫の髭 360ELK


 ●売却額総計:360ELK 【受諾】

◆―――――――――――――――――――――――――――◆


 売却に出していた二つの縞猫の髭の内の一つが、早速他のバザーを見回っていたプレイヤーによって購入されたようだった。その表示に表情を緩ませるマイキー。

 同時にマイキーの目論見はここで成功を物語っていた。


「これで、当面の生活は何とかなるか。暫くはこの認定試験の納品アイテムで稼げるとして、それでもいつまでもこの需要が続く訳じゃ無いし、真っ当な稼ぎ方も考えとかないと危ないな」


 売上額の360ELKを仲間四人で等分するその値は90ELK。これが個人収入になる。

 PBを閉じたマイキーは揺り椅子から立ち上がると、部屋の入口通路の側面へと消えて行く。

 部屋に静かに響き渡るシャワーの音。心のもやが一つ晴れた今、これで漸く水に洗い流す事が出来る。

 どうやら、衣食住のために生計を立てる事の厳しさは現実でもここでも、なかなか世知辛いようだ。

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